4月9日、米国のシュワブ通商代表が中国に対し、海賊版の摘発や法整備などの知的財産権対策が充分でないということと、外国産の映画、音楽、書籍などの出版物への中国政府の規制が海賊版のまん延を助長していることを理由に、世界貿易機関(WTO)に提訴すると発表した。知的財産権をめぐっての、海賊版の摘発強化などを求めるWTOへの提訴は今回がはじめて。これに対し中国商務部の王新培報道官が翌10日、「中国はこの問題に対し真摯に取り組んでおり、今回の件は大変不満であり大変遺憾」とコメントしている。
中国の現状の取り組みは実際どのようなものだろうか。ニュースで発表されたことや、中国にいて知ることのできる取り組みをここで紹介しよう。
電脳街において、海賊版ソフトショップのガサ入れはよく行われている。こと2008年オリンピックが行われる北京の電脳街「中関村」では特に力を入れているようで、パソコンショップが沢山入るビルの壁には、海賊版の販売に対し厳しい処分を行うという張り紙がよく貼ってある。地方都市でもある程度の大都市であれば、海賊版ショップが集まるビルのフロアに大きく海賊版対策を謳う言葉が並んだ横断幕が掲げられている。それでも販売方法を変え海賊版ソフトはどこの電脳街でも販売されている。
CDやDVDはPCソフトとはさらにスケールが大きくなる。PCソフトが大都市の電脳街を中心に販売されているのに対し、CDやDVDを販売する店舗は上海や北京などの大都市から、地方都市、内陸の小都市、さらには内陸の奥地の小さな町にいたるまで存在する。そして都市や町ひとつとっても、中心部から町はずれまであらゆるところにある。大都市の電脳街で限定して販売されている海賊版PCソフトですら摘発はろくにできていないのだから、中国のCDやDVDの海賊版を数字ではっきりわかるほど撲滅させるのは至難の業に違いない。
近年、中国ではブロードバンド環境でのインターネット利用が一般的になり、今まで以上に大容量の海賊版コンテンツが多数のサイトにアップロードされるようになった。音楽コンテンツでは、国際レーベル連合がMP3検索サービスを提供する百度やYahoo中国を訴え、訴えられた企業はそれなりに対処したし、百度や大手ポータルサイト新浪がレーベル会社と提携したりと正規コンテンツを流通させるための動きもある。また公的にはPtoPを利用したダウンロードサイトや、ファイルサーバで海賊版コンテンツを提供するネットカフェを取り締まる条例ができたり、それに基づいた摘発も行われたりしている。が、ネットカフェもCDやDVDを販売する店舗のように中国の大都市から小さな町まで至る所にある。
またプロパガンダ面でも、中国国営放送のCCTVで海賊版問題を紹介し、街中のどこにでもある公共の新聞の立ち読みコーナーで知的財産権に関する新聞記事を掲載するなど、取り組んでいる様子がうかがえる。特に最近頻繁に見るようになった。
中国のいう「海賊版問題に取り組んでいる」というのは正しい。米国の「海賊版問題は改善されていない」という結果論で現実をみるとそれもまた正しい。中国の現状ではそっとやちょっとじゃ、市民レベルでの海賊版を撲滅することは難しいが、このたびの一件をきっかけに、何かが変わるかもしれない。
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