ショートメッセージによるコンテンツサービスが普及
中国の携帯電話キャリアは、あまり携帯端末の販売や製造に関与することはない。日本では、キャリアが端末の主要な仕様を決め、端末メーカーがそれに従って端末を制作する仕組みとなっているが、これは世界各国から見ると異例なものだ。その仕組みのメリットは、キャリアが自社の新しいサービスを新機種のフルサポートによって早く普及できることであり、日本におけるNTTドコモのi-modeなどデータサービスの成功は、その仕組みによるものが大きいと考えられる。
1998年に日本の携帯電話向けデータサービスがスタートした約2年後の2000年夏、チャイナモバイルがWAP(Wireless Application Protocol、GSMシステムでデータサービスを提供するために定められた方式)のデータサービスを開始した。しかし当時のWAPサービスは、インターネットに接続する時間の長さで課金する時間制課金だった。対応端末も少ない上に端末の画面サイズも小さいという非常に使い勝手の悪いサービスで、WAPサービスは期待外れのサービスとなった。代わりにコンテンツサービスの中核となったのは、NTTドコモの「ショートメール」に代表されるような簡易型メールサービスの「ショートメッセージサービス(SMS)」だった。
中国ではほぼ全部の携帯端末がSMS機能に対応している。アドレスは携帯電話番号であり、1通あたり最大漢字70文字まで送信できる。送信料は1通につき0.1人民元(約1.3円)と非常に安価なため、日本のメールサービス同様、中国でも個人ユーザー間でSMSは多く利用されている。中国政府の発表によると、2004年にSMSの送信件数が年間2177億通を越え、2005年の春節期間(中国の旧正月)の1週間だけでも100億通のSMSがやり取りされた。
Web to Phoneを提供するコンテンツプロバイダNetEaseのウェブサイト。赤い枠の中に携帯電話番号を入力する |
SMSは個人間でのメールのやり取り以外にも、コンテンツサービスのツールとして使われている。SMSのコンテンツサービスには、Web to PhoneとPhone to Phoneの2通りがある。Web to Phoneは、PC上のコンテンツプロバイダが提供する携帯電話向けコンテンツだ。ユーザーは、PCのWeb to Phone対応のポータルサイトにて、希望する携帯電話向けコンテンツを探す。特定のコンテンツが見つかると、携帯電話番号をPC上で入力し、SMSとしてコンテンツを携帯電話に送信してもらう仕組みだ。
一方のPhone to Phoneは、PCサイトと連動したものではなく、はじめから携帯電話のSMSを利用して希望するコンテンツを入手する仕組みだ。ユーザーはコンテンツプロバイダ特有のサービス番号にSMSを送信することで、コンテンツを手に入れることができる。
以下の図は、コンテンツプロバイダから着信メロディーを取得する流れとなる。
Phone to Phone方式で着信メロディーを購入する場合の流れ(CP=コンテンツプロバイダ) |
Phone to Phone方式でコンテンツを取得するには、ユーザーがサービス番号(SMSの送信先)とコンテンツコード(希望するコンテンツを示すコード)を入手する必要がある(上記図の手順1)。ユーザーは手に入れたコンテンツコードを携帯電話に入力し、サービス番号へSMSを送信する(手順2)。すると、コンテンツプロバイダからそのコードのコンテンツがSMSで届く(手順3、この場合はサービスメニューが届く)。届いたSMSに返信し、さらに絞り込んだコンテンツコードを入力して送信すると(手順4、この場合は1の「着メロメニュー」を選択)、そのコードに対応するコンテンツが届く(手順5)。このようにSMSのやり取りを数回繰り返すことで、ユーザーはサービスメニューから希望するコンテンツを取得する。
もちろん、事前に希望するコンテンツのコードがわかれば、1回のSMS送信で特定のコンテンツを取得することも可能だ。特定コンテンツのコードは長くなりがちで、ユーザーも簡単にコードを覚えられないが、コンテンツプロバイダはラジオや新聞広告、ウェブサイト、テレビなどのメディアと連動して告知することで、ユーザーにコードを提供している。
Web to PhoneもPhone to Phoneも、コンテンツプロバイダはキャリアと契約する必要がある。コンテンツ料金は、日本の携帯電話向けデータサービスと同様、キャリアがコンテンツプロバイダに代わって徴収する。ただし、日本の場合キャリアがコンテンツプロバイダから受け取る手数料は9%だが、中国の場合はこれが15%以上となる。
SMSは1通の容量がおよそ140バイトまでに制限されているため、和音着信メロディーやカラー画像のダウンロードサービスでは使えないが、天気情報やニュース、ジョーク、チャットサービスなど、テキストベースのコンテンツはほとんどがSMSで提供されている。
ブラウザによるコンテンツサービスの復活
SMSでのコンテンツサービスが主流となっている一方で、ブラウザによるコンテンツサービスも再び勢力を増しつつある。2000年に始まった時間制課金のWAPサービスは失敗に終わったが、中国の携帯電話キャリアはブラウザでのデータサービスを諦めてはいない。
2002年にチャイナモバイルは、GSMシステムでパケット通信を提供するGPRS(General Packet Radio Service)方式のパケット課金データサービスを開始し、チャイナユニコムもCDMA1Xネットワークの開通に伴い、パケット課金のデータサービスを始めた。インターネットからダウンロードしたコンテンツの容量によって料金を計算するパケット課金は、日本のデータサービスと同じ方式だ。この方式は、インターネットとの接続が比較的安定している上に、ユーザーは時間を気にせずコンテンツを閲覧できる。パケット課金の登場で、中国の携帯電話向けデータサービスは、チャイナモバイルの「移動夢網」と、チャイナユニコムの「聯通無限」という2大ブランドの下、新たなステージへ移行しはじめた。
しかし、チャイナモバイルの「移動夢網」のスタートは順調ではなかった。対応端末が少なく、しかもそのほとんどは価格の高いハイエンドモデルだったのだ。またインフラも未整備で、トップページへの接続もうまくできない状態が続いていた。逆にチャイナユニコムの「聯通無限」は、ネットワークが比較的安定していたため、加入者数が「移動夢網」の半分以下にもかかわらず、トラフィックはほぼ同じとなった時期もあった。
2004年に入り、携帯端末もカラーで大画面のものが主流となった。新しく登場する端末はほぼ全機種GPRS対応となり、チャイナモバイルのデータサービスが利用できるユーザー層も拡大した。トラフィックの増加に伴ってインフラも改善されたため、中国の携帯電話ユーザーは日本のユーザーとほぼ同じようにデータサービスが利用できるようになった。中国の携帯電話コンテンツサービスでは、売り上げの8割が依然としてSMSによるものだが、今後携帯電話ブラウザによるコンテンツサービスは間違いなく増えていくであろう。
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