第1回:ネットオークションが突きつける知的財産権への課題

 事業者でない個人がマーケットに参入できるネットオークションは、膨大な数の商品が連日取引される巨大市場として大きな成長を遂げている。しかし、その一方で、誰もが出品者になれる手軽さから、偽ブランドなどの模倣品や海賊版ソフトを販売するための新たな流通経路としても使われるようになり、権利者側にとっては問題が深刻化している。

 コンピュータソフトや映画、アニメDVDを無許諾で複製し販売する事件はあとを絶たず、先月だけでも東京都豊島区の無職男性と中国人女性の2名が海賊版ソフトの販売で1900万円を売り上げて逮捕され、「機動戦士ガンダム」シリーズなどアニメーションDVDを無許諾で複製・販売した中国人男性3名、そして「Microsoft Windows XP」などの海賊版ソフトを販売していた東京都練馬区の無職男性とその妻も逮捕された。

 ネットオークションで、どんな不正商品が流通しているのか、また、取り締まるのがなぜ難しいのか、オークションの実態に迫ってみた。

大量に出回る海賊版と巧妙化する手法

 知的財産権には、特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権、著作隣接権、育成者権、回路配置利用権などさまざまな権利があるが、ネットオークションで知的財産権の侵害に当たる出品物のほとんどは、海賊版ソフトやDVDのような著作権の侵害品、偽ブランド品のような商標権の侵害品である。数は少ないが、一部の関係者や個人がブランドものの種や苗を無断で持ち出し、オークションで販売するといった種苗権の侵害もある。また、知的財産権には含まれていないが、有名タレントの写真を無断で販売するといった肖像権侵害に当たる商品も出品されている。

 平均総出品数が600万件を超えるネットオークション最大手のYahoo!オークションでは、知的財産権の侵害を理由に削除される商品は、全出品数の約2%にのぼるという。この数字は、ヤフーが不正商品かどうかを判定したうえで削除した数なので、実際にはこれ以上の不正商品が出品されていることが想定される。詳しい内訳は公表されていないが、肖像権や種苗権の侵害はごくわずかであり、そのほとんどが海賊版と模倣品で占められているという。おおまかに分けると、不正商品の3分の2がブランド模倣品などの商標権侵害物で、3分の1がソフトの不正コピーによる著作権侵害物である。

 海賊版は、人気のビジネスソフト、ゲームソフト、アニメ、映画を狙ったものが多く、販売手法も巧妙化している。たとえば、商品説明のコメントに「耳寄りな情報がありますので、直接連絡を下さい」と記載し、あとは電子メールでやりとりして直接取引を行うといった手法だ。落札価格にはバラつきがあるが、 なかには定価の10分の1以下で販売しているものもあり、ソフトメーカーやアニメスタジオにとっては大きな打撃となっている。ちなみに、動画の場合はアニメの海賊版が圧倒的に多く、そのなかでも「機動戦士ガンダム」シリーズの海賊版が多いそうだ。その理由は、日本ではアニメ番組がテレビ放映されてからDVD化されるまでに一定期間かかるので、その期間中に香港などでDVDを大量に作って販売するのだという。

分散される売り手と流通経路

 Yahoo!オークションやビッダーズ、楽天オークションといったオークション運営者は、増加する海賊版や模倣品への取り締りを強化しているが、実は不正商品の出品を見つけるのはきわめて難しい。これまでの不正商品の取り締まりは、製造元や大手卸業者を特定し、物品の差し押さえなどの権利行使を行って供給を絶っていたが、ネットオークションは個人が世界中のどこからでも不正コピーを入手・出品できるので、物理的な流通経路を抑えるという方法では対処が困難になりつつある。もし出品物が不正コピーと特定できても、取引はオンラインで行われるため、誰と取引をしているのかを特定することが難しい。

 また、個別の行為を捉えて違法だと証明するのに膨大な費用と時間がかかるのも問題のひとつだ。たとえば肖像権を侵害しているかどうかについては、タレント事務所で正規に販売された生写真を転売しているのか、その写真のコピー品もしくは個人が無許諾で撮影した写真を販売しているのかの判断が非常に難しい。生写真というだけで、違法かどうかを判断することはできないのだ。

 アニメDVDやビジネスソフトも同様に、不正商品かどうかを判別することがきわめて難しい。オークションサイトを見てみると、確かに人気アニメDVDが格安で売られており、「送料無料。国際航空便で1週〜10日」などと書かれている。怪しいと思っても、はっきりした確証なしに海賊版だと決めつけることはできない。対策として、海外からの出品を禁止すれば、海賊版の取り締まりに大きな力を発揮するかもしれない。しかし、全体からみると海賊版の出品はごく一部なので、すべての出品を禁止するわけにもいかない。

CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)

-PR-企画特集

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]