料金値上げ、国内メーカー撤退、NTT法--波乱と激動の2023年携帯電話業界を振り返る

 ここ最近は毎年、通信行政を中心に“激動”というべき動きが続いている携帯電話業界。だが2023年は例年以上に、波乱と激動の1年になったといえるだろう。料金とサービス、スマートフォン、そして通信行政の3つの側面から、2023年の携帯電話業界を振り返ってみよう。

  1. 料金値上げで金融に重点--楽天モバイルも大幅な方針転換
  2. FCNTが経営破綻もスマホ値引き規制の手を緩めない総務省
  3. NTT法の見直しを巡って業界は真っ二つに

料金値上げで金融に重点--楽天モバイルも大幅な方針転換

 まずは料金についてだが、2023年は菅義偉氏の政権下にあった2021年以来、久しぶりに大きな動きのあった1年だったといえる。ただ、菅政権の影響を強く受けて値下げが相次いだ2021年とは異なり、2023年は値上げが相次いでいる。

 理由は他の業界と同じで、円安などを起因とした物価高や、それに伴って進んだ人件費高騰の影響を受けたためだ。とりわけ多くの電力を消費する基地局や、全国で多くの人を雇用している携帯電話ショップを運営している携帯大手3社はこの影響を強く受け、料金プランの実質的な値上げに踏み切るケースが相次いだ。

 その影響は、大容量通信に重点を置いた高額なメインブランドだけでなく、低価格のサブブランドにも及んでいる。実際、KDDIの「UQ mobile」やソフトバンクの「ワイモバイル」ブランドの新料金プランは、いずれも通信量を増量しながらも基本料金を値上げしている。

 また、NTTドコモが新たに開始した低価格の料金プラン「irumo」も、MVNOとして提供していた前身のサービス「OCNモバイルONE」と比べれば、店舗でのサポートが付くなどしたことで実質的に値上げとなったことから批判の声もあったようだ。

 一方で、各社が力を注いだのが割引サービスである。従来のように家族の人数や、固定ブロードバンドの契約に係る割引に加え、新たに自社系列の金融・決済サービスと連携した割引を加えることで、値上げ分をカバーし少しでも安く見せることに苦心していた。

 そのことを強く印象付けたのが、KDDIの「au」ブランドの新料金プラン「auマネ活プラン」やソフトバンクの「ペイトク」などだ。自社系列の金融・決済サービスと料金プランを強固に連携させた割引の仕組みを用意することで、値上げをカバーするとともに系列サービスの利用促進につなげ、顧客を囲い込みグループ全体での売り上げを伸ばそうとしている様子がうかがえる。

 金融・決済サービスで他社に出遅れていたドコモも、10月にマネックス証券を子会社化することを発表。これを機として自社金融サービスの強化を図る動きを見せている。それでもドコモは、KDDIやソフトバンクと比べれば銀行など足りないピースが少なからずあるだけに、今後同社が金融・決済事業をどう強化していくのか、そして金融・決済と連携したプランを提供するのかどうかは、2024年にも関心を呼ぶところだろう。

 一方、2022年に月額0円で利用できる仕組みを廃止したことが大きな賛否を呼んだ楽天モバイルも、6月に再び料金プランを変更、新たに「楽天最強プラン」を提供している。こちらは以前のプラン「Rakuten UN-LIMIT VII」と比べ料金面で大きな違いはないのだが、唯一違っているのが、KDDIとのローミングで賄っているエリアでのデータ通信も使い放題になることだ。

 この仕組みは、KDDIと新たに締結したローミング契約によって実現したもの。それと同時に同社は自前でネットワークを整備する方針を大きく転換し、当面はKDDIとのローミングをフル活用してコストを大幅に抑える方針を打ち出している。

 その理由は、楽天モバイルの先行投資による大幅な赤字や、その先行投資に伴う楽天グループの巨額の社債償還などから、グループ全体の経営が危機的な状況にあるためだ。経営改善のため楽天モバイルにかかるコストを徹底して抑える必要があることが投資への大幅なブレーキとなり、楽天最強プランの提供へと結びついている。

 楽天モバイルは、10月に念願のプラチナバンドとなる新たな700MHz帯の免許を獲得したものの、経営陣に喜びの表情はなく、それを活用したサービスの提供も2026年3月頃からとかなり遅い計画を打ち出し、疑問の声が少なからず挙がっていた。楽天モバイルの苦境は2024年も続くと考えられ、引き続き同社がいかにしてこの難局を乗り越えるかも引き続き注目される。

FCNTが経営破綻もスマホ値引き規制の手を緩めない総務省

 2023年はスマートフォンを巡っても業界に大きな激震が走る出来事が相次いだ。それは5月、国内のスマートフォンメーカーが相次いで撤退・経営破綻し、市場からの退場を余儀なくされたことだ。

 実際に、5月12日にはスマートフォン市場に参入したばかりのバルミューダが撤退を打ち出し、5月16日には京セラがコンシューマー向けスマートフォン事業からの撤退を表明。そして5月30日には富士通の携帯電話事業を引き継いだFCNTが、民事再生法の適用を申請して経営破綻したことが明らかとなり、大きな衝撃を与えることとなった。

 これら3社がギブアップした要因は複数にわたる。スマートフォンの市場飽和に加え、2019年以降政府によるスマートフォンの値引き規制が大幅に強化されたことでスマートフォンの販売が伸び悩んでいたところに、半導体不足や円安の急速な進行が直撃。事業規模が小さく部材の調達力が弱い国内メーカーがその影響を大きく受けて収益が大幅に悪化し、撤退に至った訳だ。

 その後も小さからぬ影響を与えているのが、円安によるスマートフォンの価格高騰だ。円安の影響により各社のフラッグシップモデルは軒並み20万円前後となるなどもはや一般消費者が購入できない値段となってしまったほか、ミドルクラスのスマートフォンに至っては新機種ながら、価格を抑えるため2022年と同じチップセットを採用するケースが増えるなど、2023年前半を中心に著しい性能停滞が起きていた。

 そうした状況を打破し、市場を活性化するためにも期待されるのはスマートフォン値引き規制の緩和なのだが、総務省やその周辺では現在もむしろ、値引き規制をもっと強化すべきという考えが多数を占めているのが実状だ。

 2023年末には電気通信事業法の一部改正によって、これまで議論が進められていたいわゆる「1円スマホ」に規制をかける方針が示されたが、それと同時に通信契約に紐づく端末値引きの上限額に関しても、これまでの一律2万円(以降、価格は全て税別)から「原則」4万円に引き上げる方針が打ち出されている。

 当初総務省は値引き上限を「一括」4万円に引き上げる案を打ち出していたのだが、有識者や公正取引委員会、さらにはドコモやKDDIといった事業者側からも、上限を一律で上げると低価格スマートフォンの激安販売が可能になるとして反発の声が挙がった。その結果値引き額の上限は、端末価格によって変化する「原則」4万円へと修正がなされ、消費者が受けられる値引きの恩恵は小さくなってしまった。

 その一方で円安のトレンドが大きく変わっている訳ではなく、端末価格の高騰は2024年も続くものと考えられる。円安と政府による値引き規制強化のダブルパンチにより、2024年もスマートフォン市場には暗雲が漂うことは間違いないだろう。

NTT法の見直しを巡って業界は真っ二つに

 だが、2023年の携帯電話業界、ひいては通信業界全体を揺るがしたのはやはり通信行政、より具体的に言えばいわゆる「NTT法」の見直しであろう。政府与党の自由民主党(自民党)が、防衛財源確保のためNTTの株式を売却するべく突如始まったNTT法の見直し議論は、NTTと競合らによる主張の応酬が続き業界を大きく二分する事態をも招いている。

 NTT法は40年近く前に整備された法律が基となっているため現在にそぐわない点も多くある。それゆえNTTはNTT法の見直しによって、ビジネス上の障害となっている研究開発の開示義務撤廃や、外国人役員の起用に関する規制の緩和、そして固定電話のユニバーサルサービスに関する見直しなどを求め、その結果としてNTT法は役割を終えるとして廃止されるとの見解を示している。

 一方で、KDDIやソフトバンク、楽天モバイルなど競合の通信事業者を中心に、180を超える企業や自治体がNTT法の廃止に反対することを表明。競合側も研究開発の開示義務撤廃は必要との認識は示しながらも、かつて分離・分割が進められたNTTグループがNTT法の廃止で再び一体となって巨大化し、競合が太刀打ちできなくなるなど公正競争上多くの問題が発生するとして、NTT法廃止には猛反対の姿勢を見せている。

 とりわけ競合側が懸念しているのが「特別な資産」と呼ばれるもの。これはNTTが国営の電信電話公社だった時代に整備された局舎や管路、とう道などのインフラを指しており、現在は東日本電信電話・西日本電信電話(NTT東西)がこれらを運用して光ファイバー網を構築している。

 だが、競合側は、これら資産が公社時代に、巨額な国の費用で整備されたものであり、他の企業には整備し得ない規模であると主張。NTT法が廃止されてNTTとNTT東西が完全民営化されてしまえばこれら資産がNTTグループのものとなり、その貸し出しなどでグループ内企業を優遇する可能性が出てくるほか、もしNTTが買収されてしまえばそれら資産が外資の手にわたってしまうなど、経済安全保障上の懸念も生じ得るとしている。

 そうした両者の主張の応酬は記者説明会だけでなくSNSにまで広がっており、両社の溝は非常に深まっている。ではNTT法の見直しを進めていた自民党のプロジェクトチームはどう考えているのか?というと、12月1日に打ち出された提言では2025年の通常国会を目途にNTT法を廃止するとされるなど、NTT寄りの姿勢を示していることが分かる。

 ただ、競合側が最も懸念する「特別な資産」に関しては、NTTが保有するだけでなく国有化も検討されるなど、一定の議論の余地が残されるようだ。提言により一定の方針が示されたことから、今後総務省などでより具体的な見直し内容に関する議論が進められるものと見られるが、現在不利な状況にある競合側は当然黙っていないだろう。2024年もNTT法を巡っては波乱が続くこととなりそうだ。

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