AIへの大規模な投資、多くの企業は慎重姿勢

Mark Samuels (Special to ZDNET.com) 翻訳校正: 編集部2023年11月07日 07時30分

 生成人工知能(AI)が世間の注目を集めている。しかし、その熱狂とは裏腹に、企業の幹部は生成AIを業務に導入する準備ができていないと考えているようだ。

ブタの貯金箱
提供:roberthyrons/Getty Images

 Nash Squaredの年次調査レポート「Digital Leadership Report」によれば、AIを大規模に導入していると答えたテクノロジー企業の幹部は10人に1人にとどまっていた。この調査は、テクノロジー企業の幹部を対象とした世界で特に規模が大きく歴史の古いものだ。

 また、生成AIをめぐる過剰な宣伝に、AIへの投資を促す効果はほとんどないらしい。Nash Squaredの報告によれば、AIに多額の投資を行っているとする回答者が10人に1人という結果は、5年前から変わっていないという。

 外野から眺めると、AIをめぐる騒ぎは実態以上に大きくなっているように見える。誰もが生成AIや機械学習を話題にしているが、大規模なAIの実装に投資している企業はごく少数だ。

 ただし、このような目を引くデータは文脈の中で捉えることが重要だと、デジタルトランスフォーメーションと人材派遣を専門とするNash Squaredの最高経営責任者(CEO)Bev White氏は、米ZDNETの取材に対して述べている。

 確かに、AIに大きく投資している企業は今のところ少ないが、多くの企業が新しいテクノロジーの調査に乗り出している。「実際、そうした企業は増え続けている」と、White氏は言う。AIへの関心は、今は実用段階というより、研究段階にある。

 調査に参加した企業の半数近く(49%)が、AIの試験的な導入や小規模な導入を始めていたほか、3分の1の企業が生成AIについて調査している最中だった。

 「クラウドが本格的に普及し始めた時と同じ状況だ」と、White氏は指摘し、AIの台頭を10年以上前に起きたクラウドへの移行になぞらえた。「当時は多くの企業が、まずは小さく始め、クラウドが自社の方針、データ、プライバシー、研修に与える影響を見定めようとしていた」と、White氏は言う。

 「企業は小さなプロジェクトを試験的に実施することで、独自のユースケースを作り出していった。これと同じことが今回起きても不思議ではない」

 実際、次の2つの理由から、AIへの大規模な投資をためらうのも当然だとWhite氏は言う。

 第1に、新型コロナウイルスが世界的に流行している時期やその直後に行った巨額のIT投資のために、多くの企業は資金繰りが厳しい。

 「企業のデジタルリーダーたちは今、投資と効果のバランス――つまり、最大の効果をもたらす投資先は何かを見極めようとしている」と、White氏は言う。「大規模なデジタルトランスフォーメーションに継続的に取り組みつつ、慎重に計画された小規模なプロジェクトを実施することで、企業は大きな違いを生み出すことができる」

 第2に、生成AIをはじめとする新しいテクノロジーは、その多くが開発の初期段階にある。よく知られたOpenAIの「ChatGPT」など、新しい大規模言語モデルが登場するたびに新たな進歩や機会がもたらされるが、リスクもついてまわるとWhite氏は語った。

 「大企業の最高情報責任者(CIO)や最高技術責任者(CTO)は自社のビジネスに説明責任を負っているため、AIの導入には慎重にならざるをえない」とWhite氏は言う。「リスクは大きい。だからこそ、従業員や関係者を守るために必要なものは何か、どのような方針を定めるべきかを考えねばならない」

 さらに同氏は、AIのセキュリティとプライバシーの重要性についても触れ、自社の従業員が他者の所有するデータを使ってモデルをトレーニングすれば、訴訟を起こされる可能性もあると指摘している。

 「データの盗用が起きる危険性は大いにある」とWhite氏は言う。「生成AIは悪だと言っているわけではない。私はAIのファンだ。しかしAIの学習データや、そうした情報に基づいて下される決断の妥当性は、しっかりと意識していく必要がある」

 新しい技術に対するこうした懸念を考えれば、生成AIの需要に応える準備ができていると回答したデジタルリーダーがわずか15%だったというNash Squaredの報告は奇妙に思えるかもしれない。

 しかし、AIを安全かつ確実に取り入れる方法が確立されておらず、近い将来に突然方向性が変わる可能性も否定できない現状を考えれば、この準備不足は理解できるとWhite氏は言う。「AIの利用が会社のセキュリティ、安全性、評判に与える影響に責任を負う立場にあるなら、あらゆる点を熟慮すること、取締役の賛同を得ること、そして取締役を教育することが欠かせない」とWhite氏は指摘する。

 「多くの経営者は、何らかの形でAIを取り入れなければならないことは理解している。AIは競争優位性をもたらすからだ。しかし、どこに取り入れるかはまだ決められていない。今は模索の段階だ」

 White氏は、企業が目下、模索と調査に注力していることも、AIの利用に関する方針を定めているグローバル企業が21%にとどまり、3分の1以上(36%)はそうした方針を策定する計画がないと答えた理由の1つになっていると指摘する。

 「防衛策や失敗点を考えることからスタートした革新的なプロジェクトがどれだけあったか」White氏は言う。「ほとんどの場合は、『これで何ができるか?』というところから始まる。そして次に、プロジェクトやデータを攻撃から守るための方策を考える」

 ことAIに関する限り、デジタルリーダーたちの腰は重い。しかし、世界各地の2000人を超えるデジタルリーダーを対象に実施された今回の調査では、CIOはこの変化の激しい分野には強力なガバナンスが必要だと考えていることも明らかになった。

 ほとんどの場合、デジタルリーダーが求めているのは組織がAIの可能性を安全に、かつ安心して調査するための規制だ。その一方で、デジタルリーダーは業界団体や政府機関が定めるAIのルールが実効性のあるものになるとは考えていない。

 デジタルリーダーの88%が、AIには厳しい規制が必要だと回答した一方で、61%は規制を強化するだけでは新しい技術の問題やリスクのすべては解決できないと答えている。

 「考えを深めるためには、異なる意見が必要だ。業界団体や政府のガイダンスがあれば、自社の考えと照らし合わせることができる」とWhite氏は言う。「しかし、ガイダンスの内容が納得できるものとは限らない。そのようなガイダンスが定着し、法制化されれば、突然ガイダンスを順守し、その範囲内で活動することが義務になってしまう。このように規制も良し悪しだ」

 AIの領域は変化が激しく、なかなか規制が整備されないとしても、それは何もせずにいる言い訳にしてはならないとWhite氏は言う。

 デジタルリーダー、特にセキュリティ責任者は、社内でAIを利用するためのガイドラインを今すぐ考え始めるべきだ。これはWhite氏自身の会社で起きていることでもある。

 「当社の最高情報セキュリティ責任者(CISO)は、生成AIやそれをサイバー犯罪者が悪用する可能性を考え続けている。生成AIは、膨大な重要データへの扉を無邪気に開いてしまうかもしれない。その結果、会社の機密情報などが漏えいする可能性もある。AIの導入がもたらすメリットとリスクのバランスを考える必要がある」とWhite氏は言う。

 このバランスを念頭に置いた上で、重大なAIインシデントのニュースに注意を払うようWhite氏は勧める。

 サイバーセキュリティのインシデントが、実際に影響を受ける人はわずかでも、その危険性を多くの人に伝える役に立つように、データの漏えい、虚偽情報の生成、訴訟といったAIに係るインシデントも、新しい技術の導入を検討している経営陣に立ち止まり、熟考する機会を与えてくれる。

 「リーダーには慎重さだけでなく、好奇心も必要だ。積極的に関わり、チャンスを正しく見極める必要がある」と、White氏は語った。

この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。

CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)

-PR-企画特集

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]