農林水産省の「フードテックを活用した新しいビジネスモデル実証事業」、7社の成果とは - (page 2)

“養殖ビッグデータ”によって牡蠣養殖をスマート化

 リブル取締役の高畑拓弥氏は、「低環境負荷・高付加価値な牡蠣養殖のスマート化に向けた大規模データ収集事業」の発表を行った。

 リブルは牡蠣養殖を手がけているが、「牡蠣の種の効率生産・安定供給のために全国の事業者に向けて品質の高い種を提供しており、民間企業で人工種苗作りから生産まで手がけて技術実装までしているところは当社のみだ」と高畑氏は語る。

 2022年10月に水産庁から三倍体種苗(産卵しない種で生殖にエネルギーを取られないため成長が早い生物の種苗)の養殖における規制緩和が行われたことから、今回の事業では「三倍体種苗を提供した先が育てるための具体策を実装していくためのデータ収集で活用した」と高畑氏は語る。

 従来の牡蠣養殖では、海中に吊されたホタテ貝などに牡蠣の種を付けて育てる方法が主流だが、リブルでは一つひとつバラバラな状態で育てる「シングルシード手法」を採用する。

陸上ラボで育成した牡蠣種苗をバスケットに入れて育てる「シングルシード手法」を手がける
陸上ラボで育成した牡蠣種苗をバスケットに入れて育てる「シングルシード手法」を手がける

 「シングルシード手法は工業的な管理ができるため、データに基づいてどういう気温や水温、環境下のときにどのような作業を人が施せばいいのかを具体的に出せる可能性を感じ、養殖ビッグデータの取得に向けて今回の事業で取り組んだ」(高畑氏)

 今回導入したシングルシード手法では、潮の満ち引きに左右されずに牡蠣の浸水・干出時間を人為的にコントロールできる「フリップファームシステム」を導入した。「今までのデータに基づくと、この場合には浸かっているとまずい場合に『干上がらせてください』といった形の指示が明確に出せるのが一番の特徴だ」と高畑氏は語る。

 同社が元々持っていたデータから仮説を立てた最適作業指示がほかの漁場でもできるかを実証したところ、「テストマーケティングを含めて飲食店から高い評価をいただき、100%の再購入意欲をいただいた」(高畑氏)という。

実証事業の詳細。従来の漁場から出荷したものと遜色なかったとのことだ
実証事業の詳細。従来の漁場から出荷したものと遜色なかったとのことだ

 「来年度以降にほかの地域に展開するにあたって、同じようなセンサーを入れてリアルタイムでデータを取り、この条件下なのでこういうアクションを取ってください、もしくは来週までにこんな作業をしてくださいというような養殖技術の最適作業指示を出していくような形で実装していく予定だ」(高畑氏)

ゲノム編集によって作成したアレルギー低減卵の安全性を確認

 プラチナバイオの石井氏は「食のバリアフリーを実現するアレルギー低減卵の社会実装」事業の成果を発表した。

 アレルギー低減卵というのは、卵に含まれるアレルゲン物質の「オボムコイド」をゲノム編集により除去した卵のこと。オボムコイド以外のアレルゲン物質は通常通り存在するものの、加熱するとほかのアレルゲン物質はなくなるため、「加熱調理することでアレルゲン物質が残存しない」と石井氏は説明する。

アレルギー低減卵の概要
アレルギー低減卵の概要

 今回の事業では、臨床試験と社会コミュニケーションの2点を実施した。

 「事業パートナーと提携し、アレルギーに精通する医師の指導のもとで患者の血清試験分析を行った。、社会コミュニケーションについては、本製品の安全性や付加価値を丁寧に発信する必要があるため、安心・安全への配慮や誤った情報が独り歩きすることを防止するための広報戦略、情報発信基盤作りなどに取り組んだ」(石井氏)

 通常の卵では卵白の濃度を増やすアレルギー反応が見られるのだが、アレルギー低減卵では「濃度を増やしても反応が見られなかった」(石井氏)という。

 安全性向上に向けた臨床試験としては、患者への経口負荷試験の準備を進めているとのことだ。社会コミュニケーションについては広報戦略や基盤となるコンテンツを作成したため、「そういった情報のコントロールをしながらアウトリーチ活動を戦略的に実施し、アレルギー問題の解決に取り組む関連機関との連携も強化していきたい」と石井氏は語った。

今後の事業展開
今後の事業展開

4つの中華メニューを約2分で調理できる炒め調理ロボットを開発

 TechMagicの石渡氏は「個人の嗜好・健康状態に併せたパーソナライズ可能な炒め調理ロボットの開発」事業の成果を発表した。

 同社は飲食店様やセントラルキッチン向けに調理ロボットや業務ロボットの開発を行っており、今回の事業では調理から鍋の洗浄まで自動化するロボットの実証を行った。

TechMagicが開発した炒め調理ロボット
TechMagicが開発した炒め調理ロボット

 最終的な目標は味付けの濃さや食材の量目の調整、食感の調整などのパーソナライズだが、今回の事業ではそれらのカスタマイズに取り組んだ。

 「豚肉野菜炒め」と「卵炒飯」、「回鍋肉」、「チャーシュー炒飯」の4つのメニューに絞って調理の検証を行い、「1メニューあたり約2分以内で調理できることを目指したが、現状は若干そこを超えて124秒ぐらいになった」と石渡氏は語る。

4つのメニューに絞って調理の検証を行った
4つのメニューに絞って調理の検証を行った

 調味料のカスタマイズについては、液体調味料を計量しながら調理鍋の方に供給する装置を搭載しており、検証の結果、目標重量に対して±10%以内の供給が可能だと確認できたという。

 調理の成功率は95%を目標にしていたが、「社内の官能評価で100%達成できた」と石渡氏は語る。

 今後の事業展開については、2022年にローンチしたパスタの自動調理ロボットで店舗のスペースや消費電力が導入の障壁になることが分かっており、「本事業で開発た調理ロボットは、炒める部分と洗浄する部分、液体調味料を供給する部分をモジュール化し、店舗のスペースや業態に合わせたモジュール単位での組み合わせが可能にすることで広く普及できるようにしたい」(石渡氏)という。

 パーソナライズ対応については、味付けの濃さや食材の量目の調整、食感に応じた炒め調理パラメータの自動生成を行い、「まずは個人の嗜好に合わせたカスタマイズから取り組んで、パーソナライズするための基盤を作っていきたい」と石渡氏は語った。

昆虫を使って畜産排泄物から有機肥料と昆虫タンパク質飼料を生み出す

 ムスカ代表取締役会長の串間充崇氏は、「昆虫を活用した革新的有機廃棄物処理システムのスケールアップに向けた、単位面積あたり生産性の検証事業」の発表を行った。

 ムスカは家畜排泄物をイエバエの幼虫に消化させることで、「1週間で昆虫タンパク質飼料と有機肥料の2つに再資源化できる」(串間氏)という。

 成長したイエバエの幼虫を家畜の飼料にし、一方でイエバエの糞を植物を生産するための有機肥料として使えるというわけだ。

「肥料と飼料を1週間でゴミから再資源化できるのに加えて、環境負荷を低減できるが、課題としてコストダウンするためのスケールアップが必要だった」(串間氏)

 ムスカのプラントでは前処理工程と、イエバエによる処理工程と、製品化工程の3つのプロセスがあるが、今回はイエバエ幼虫による処理工程の大型化を実施した。

ムスカが導入した有機廃棄物処理システム
ムスカが導入した有機廃棄物処理システム

 「単位面積当たりの処理量は9.4倍になり、非常に大きな効果を得ることができた。今後は豚の糞をベースに、1日当たりの処理量が10tから30tの大型システムを3年後に稼働できるように考えている」(串間氏)

実証の成果
実証の成果

 肥料を生み出す従来型のたい肥化に対するメリットとして串間氏は処理期間の短さを挙げた。

 「たい肥化は一般的に3か月から6か月かかるとされており、非常に優れた完熟たい肥を作る場合は数年かかるという人もいる。われわれはたった1週間でそれと同等以上の付加価値を持つ有機肥料に変えられる。さらに昆虫タンパク質を同時に生産し、飼料として活用できる」(串間氏)

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