対話型AIの登場でグーグルら巨大ITとニュースメディアの関係はどう変わるか - (page 2)

Daniel Van Boom (CNET News) 翻訳校正: 編集部2023年03月22日 07時30分

 現在、この種の条項はカナダで議論されているオンラインニュース法案には含まれていないため、法律が成立すれば透明性の高い取引が期待できる。また、多くの報道機関を包含するために法律の適用対象も広く設定されている。法律が成立すれば、「多様な読者層や地方を対象としている新興企業や小規模なメディアも含まれる」と、カナダのHarder上院議員は言う。

 しかしGeist氏が警告しているように、バランスは非常に難しい。オンラインニュース法案は、インターネットではほとんど存在感を示していない地方のラジオ局や、ニュースを制作していないテレビ局などのグレーなケースにも適用される可能性があるため、GoogleやMetaは難色を示すはずだ。

 Geist氏は、政府がニュース業界を支援すること自体に反対しているわけではない。しかし、この種の支援は税制で実現した方が良いと同氏は考えている。「(MetaとAlphabetに)公平な税負担を課すべきだ。政府が報道に干渉しない仕組みさえあれば、税収をメディア産業やジャーナリズムの支援に使うことに問題はない」

 オーストラリアとカナダが置かれている状況は似ているが、オーストラリアの法律が成立してから2年の間に市場は大きく変化した。2021年には、AlphabetとMetaはどちらも勢いよく成長し、企業価値は過去最高を更新しようとしていたが、現在の状況は違う。Alphabetは1月に1万2000人の従業員を解雇すると発表した。Metaは2022年11月に1万1000人の従業員を解雇し、2023年は効率化の年になると宣言した。2023年3月14日には、さらに1万人を解雇する計画を発表した。

 Googleと比べると、Mark Zuckerberg氏率いるMetaがニュースへのリンクを削除するという脅しを実行に移すことははるかにたやすい。同社が運営するFacebookやInstagramの中心は、基本的にユーザー生成コンテンツだからだ。Metaはオーストラリア政府と争った際、オーストラリアの利用者がFacebookで行っている活動のうち、ニュース閲覧に由来するものは4%にすぎないと述べた。

 「この数字は誇張ではないだろう」とGeist氏は言う。「Metaはニュースの共有を止める口実を探しているのではないかと感じることさえある。ニュースは手間に見合わず、大きな収益源でもない。Metaや、プラットフォームに対する認識に多くの問題を生み出している」

AIという次のフロンティア

 政府やメディアと大手ハイテク企業の戦いは、AIの登場によってさらなる展開を迎える可能性が高い。「ChatGPT」のような「大規模言語モデル」を活用したAIチャットボットは、大量の情報を消費し、合成することで動作する。ユーザーが質問すると、AIチャットボットは答えを返すが、そこに元の情報源へのリンクはない。

 Googleで「今買うべき最高のスマートフォン」と入力すると、CNET、TechRadar、Engadgetといったニュースサイトが作成したおすすめ端末に関する記事が表示される。同じ質問をChatGPTに投げかけると、AIは親切にも「専門家のレビュー」に基づいたおすすめ端末のリストを教えてくれるが、そこにはどのサイトへのリンクも含まれていない。BingやいずれはGoogleなどの検索エンジンにチャットボットが組み込まれれば、ニュースサイトは「リンクバック」という対価なしに、記事を一方的に利用される恐れがある。

 「報道機関にとっては、まさにジレンマだ」とFisher氏は言う。「Microsoftは回答の作成に使われた情報源を把握しているだろうか。もしそのようなデータがあるなら開示し、その内容に基づいて情報の提供元への支払いを見積もるだろうか」

 News Corpは戦う構えだ。同社の最高経営責任者(CEO)、Robert Thomson氏は3月上旬にMorgan Stanleyのカンファレンスに出席し、「これらのAIエンジンはトレーニングされている。専門家が作成したコンテンツを使って、自らも専門家になっていく。AIエンジンが他社の所有するコンテンツを利用していることは間違いない」と述べた

Robert Thomson氏
News CorpのCEO、Robert Thomson氏
提供:Jim Watson/Getty

 (AI企業は)「自分たちはコンテンツを合成し、重要な部分を抽出することで、革新的なサービスを提供していると主張するだろう」と、Thomson氏は続ける。「しかし、われわれのコンテンツがなければ、AI企業はどんなサービスも提供できない」

 オンラインニュース法案をめぐるカナダ政府と大手ハイテク企業の戦いは大きな意味を持つ。この戦いがどう決着するにせよ、最終決戦ではないはずだ。

 

この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。

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