2月1日から28日にかけて、オンラインイベント「CNET Japan Live 2023」が開催された。共創の価値を最大化させる「組織・チーム・文化づくり」をテーマに、連日組織変革や社内ビジコン、アクセラレータープログラムなどの取り組みが紹介されるなか、2月17日のセッションにNTTコミュニケーションズ(以下、NTT Com)が登場。「掛け合わせで新たな価値創造・社会実装を目指す! NTTコミュニケーションズのオープンイノベーションに関する取り組み紹介」と題して、NTTドコモグループが展開する共創プログラム「ExTorch(エクストーチ)」を中心とした、自社のオープンイノベーションに関する最新動向について語った。
NTT Comでは、自社の新規事業やイノベーションの創出を支えるための専門組織として「イノベーションセンター」を設置している。同センターは、社会課題の解決等を目的としたプロデュース部門(BizDev)、先進技術や次世代サービスの研究開発部門(Technology)、「KOEL」というデザイン専門家組織(Creative)+技術戦略や知財戦略を担う部門(Strategy)という4つの部門(BTC+S)で構成される。「“四位一体”となってオープンイノベーション、CSV(Creating Shared Value)、xTech、新規事業、IOWN(※NTTが2030年の実現に向けて推進する次世代コミュニケーション基盤構想)に取り組んでいる」と、イノベーションセンター プロデュース部門 担当課長 田口陽一氏は説明する。
今回登壇した5名が所属するビジネスプロデュース部門では、新規事業の創出を目的として、社外の企業や組織、社内の事業部門や研究開発組織と協働し、イノベーションセンターで四位一体となる共同チームをビルドする役割を担う。加えて、新規事業創出に向けたビジネスプランナー人材の育成も行っている。
新規事業開発に向けた具体的なプログラムとして、グループのNTTドコモ、NTTコムウェアの社員も参加する社内ビジネスアイデアコンテスト「ZERO ONE DRIVE」や、そこで生まれたアイデアの事業化を目指す社内スタートアップ制度の「BI Challenge」を運営。さらに外部とのオープンイノベーションプログラムとして、ExTorchに取り組んでいる。
「我々は、NTTドコモグループの『あなたと世界を変えていく。』というスローガンと、『かけ合わせよう。あなたの個性を、みんなのチカラに。』という行動原則の下で新規企業の取り組みを進めている。皆様と共に、新しい価値を創造していきたい」(田口氏)
ExTorchは、パートナー企業のサービスや技術と、NTT Comのサービスやアセットを掛け合わせ、新たな価値を創造することを目的としたオープンイノベーションプログラムである。ExTorchというネーミングについて、イノベーションセンター プロデュース部門 野坂佳世氏は、「たいまつを意味する『Torch』と、“外へ、超えて、さらに”を意味する接頭辞の『ex』を繋ぎ合わせたもの。『社外との共創によって想像を超えて灯火が拡がり、想像を超えた世界を作っていく』というコンセプトで名付けた」と説明する。
ExTorchは2019年にスタートし、2022年途中までは公募型で外部の共創パートナーを募集して年に1度マッチングをおこなっていたが、現在は通年型で募集・マッチングを行う形となっている。第一期、第二期のプログラムでは、子会社を通じて事業化されたファシリティマネジメントサービスの「Beamo」を筆頭に、具体的な事業化に向けて走り出している事業アイデアを複数輩出している。
ExTorchの運営を1年ごとの公募型から通年型に変更したことに併せ、支援を行う事務局側でも体制を変更している。ExTorchの実施によってオープンイノベーションに一定の成果は出ていたが、それ以外にも社内から「スタートアップを紹介して欲しい」、「新規事業に挑戦するので支援をして欲しい」といった声が掛かることが多く、1年間のプログラムに対応していた従来の体制では、事務局はそれらの個別な要望に答えにくかったという。そこで今年度、新たに部門・業界カットでメンバーが各部署を担当し、新しい情報を拾い続けると共に社内の要望にタイムリーに答えられる組織に変更した。
「私たちが事業部とパートナー企業の間に入り、事業部にヒアリングした要望をもとにパートナー企業を紹介したり、逆にパートナー企業の事業内容に合いそうな事業部を探してアプローチをするなど、双方向で課題や要望に合わせた柔軟な支援を通年で行い、オープンイノベーションの加速に努めている」(野坂氏)
その際に、スタートアップ情報の収集に関しては、グループのNTTドコモベンチャーズや、イノベーションセンターの技術戦略部門内のシリコンバレーチームと連携して情報をキャッチアップしているという。
プロデュース部門では、ExTorch応募者以外のNTT Comの社員に対しても、新規事業やオープンイノベーションマインドを醸成するための活動を行っている。
「既存事業の中でも、先進的な挑戦や新規事業を創ろうとする動きはある。事務局と現場それぞれの取り組みが点になってしまうと勿体ないので、我々の施策を知ってもらい、新規事業創出コンテストに参加してもらって何らかの学びを持ち帰ってもらったり、周囲や社外にオープンイノベーションに取り組んでいる人がいることを知ってもらったりして、全体としての底上げを図っている」(イノベーションセンター プロデュース部門 斉藤久美子氏)
その際には、事務局が行う施策やプログラムの時だけ声を掛けるのではなく、途中の状況を報告し、新規事業に関する情報を定期的に提供するなどの形で、イノベーションセンターに聞けば情報が貰えると思ってもらえるように関係性を構築していく。つまり、「普段から情報をこちらから提供し、新規事業に関して誰がどんな事をしているということが分かっている状態を作っておく」(斉藤氏)のである。
同様に広報宣伝や法務などのバックオフィス部門とも、しっかり事前調整を行う。プログラムを始める前にあらかじめ趣旨を説明しておき、その都度相談しながら進めていくという。
昨今、大企業とスタートアップとのオープンイノベーションが加速しているが、その中でひとつExTorchの大きな特徴といえるのが、共創開始段階で成果物の知財方針を明確にしていることである。NTT Comでは、(1)事業拡大する領域について活動制約は行わないこと、(2)企業の成長に資する知的財産の取り扱いプランを提案すること、(3)革新的技術・ビジネスモデルで優位性を獲得するために必要な知的財産活動をサポートすること――という3点を掲げている。
「知財の問題も、内部と外部にお互いにやりたいことを丁寧にヒアリングして、両社を結び付けるという我々事務局の活動の1つと考えている。大企業側が全ての権利や生まれた権利を吸い上げる方針だと、お互いに寄り添った共創ができなくなってしまう。個社ごとに、スタートアップが成長するためにはどのような知財戦略が良いかという部分も踏まえて、我々から落としどころを提案し、双方納得がいく形で知財の割り振りをする形にしている」(イノベーションセンター プロデュース部門 主査 木付健太氏)
知財の問題を最初にクリアにして心理的安全性を担保した後、NTTグループのアセットを活用した共創型の新規事業開発が始まるが、そこから事務局はマッチングしたパートナーと共創チームに対してPoC等の費用を準備し、事業化に邁進できるように後方支援も行う。
「新しいことに挑戦する段階では、事業部は予算を取っていないことが多い。そのため仮説検証に予算の関係で時間がかかってしまって、タイミングを逃してしまうということが起きないように、予算の面でもバックアップできるような体制にしている」(木付氏)
ExTorchの活動内容は、この3年強でバックオフィスの支援体制を含めて進化を続けている。その中で来年度ExTorch事務局では、社内向けに2つの活動に注力するという。
1つ目は、レポート施策である。「いきなり課題を聞いたりスタートアップを紹介したりしても、現場はすぐには応じられない。そこで、我々側からコンサルティングのような形で、プロダクトが抱える課題や競合について市場概要や外部の評判を交えたレポートを作成し、それをもとにディスカッションをすることで真の要望を引き出す」(木付氏)
2つ目は、通年型への移行に合わせた社内での広報活動の工夫である。「新しい取り組みに注目する社員は、社内に一定数存在している。定期的に周知をして我々の活動内容や、ExTorch経由で様々なサービスが開発されているという成果を、社内に地道に広報していくことが大事と考えている」(木付氏)
もちろん、マッチングを増やすことも通年での大きなミッションとなる。その際、ExTorchでのオープンイノベーション領域に対しては、現在NTTグループは新規事業領域としてXR(クロスリアリティ)やメタバースに注力する方向性を示しているが、共創パートナーについて特に事業の方向性は問わないとのことである。
「注目している業界は多数あるが、領域を絞ることは考えていない。NTTが保有する5G、IoT、データセンター、クラウドなどの技術、インフラやデータといったアセットを有効活用してもらえるような形であれば、どのような業界でもウェルカムなので、是非我々事務局までお声がけいただきたい」(イノベーションセンター プロデュース部門 主査 湊大空氏)
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