「共創の価値を最大化させる『組織・チーム・文化づくり』」をテーマに、さまざまなキーパーソンから、事業を成功に導くチームづくりのヒントを聞くオンラインカンファレンス「CNET Japan Live 2023」。2月27日は、NTT西日本が運営する大阪のオープンイノベーション施設「QUINTBRIDGE」よりライブ形式で、「QUINTBRIDGEはなぜ盛り上がっているのか?~開業1年を前に運営メンバーが裏側をセキララにお伝えします~」と題したセッションが開催された。
2022年3月のオープンからまもなく1周年を迎えるが、その間に数多くの共創を生み出してきた運営の裏側について、イノベーション戦略室のメンバーが赤裸々に語り尽くした。進行はCNET Japan編集長の藤井涼が務めた。
大阪の京橋にあるQUINTBRIDGEは、地上3階建て、延べ床面積4000平米という西日本では最大級のオープンイノベーション施設で、スタートアップ、自治体、大学、企業らの架け橋となる共創により、社会課題の解決や新規事業の創出に貢献している。オープンからわずか1年で法人会員は591組織、個人会員は9106名まで増えており、10代から80代までと利用者の年齢層も幅広い。延べ利用者数は5.6万人を突破し、毎日200から300名が来館するという(※2023年2月末実績)。
QUINTBRIDGEの1階は新たなチャレンジの発信拠点をコンセプトに、ワークスペースやカフェも併設されたフルオープンなスペースになっており、イベントも主にこちらで開催される。2階はQUINTBRIDGEでつながった仲間たちとプロジェクトを行う活動拠点となっており、ミーティングスペースやプロジェクトスペースが設けられている。3階は事業創失の促進拠点として、VCやベンチャーが入居できるテナントオフィスのスペースになっているが、4月のリニューアルでより多くの企業が入居できるようになる。
イベントやワークショップ、交流会などがすでに年間で240回以上、1日に1〜2回のペースで開催されているというから驚きだ。その約7割が会員持ち込みによるもので、会員をパートナーとした共同イベントも開いているという。2022年12月に大阪・関西万博の関係者と開催した「TEAM EXPO 2025 MEATING」は最大規模となる366名が1階のワンフロアに集まり、大いに盛り上がりを見せたという。
法人会員の属性は7割がスタートアップ、次に企業、自治体、大学が並ぶ。開設当初はNTT西日本からの紹介が多数を占めていたが、現在は会員の友人や知人からの紹介、SNSの口コミを通じての入会が多いという。参加者からは居心地の良さ、気軽に利用できる雰囲気、イベント会場としての魅力など、主にリアルならではの出会いの場であるという点が喜ばれているとのこと。
また「学ぶ、繋がる、共創する」の3軸でプログラムを提供している。ビジネスの基礎を学べる「ビジネス共創アカデミー」や、地域創生人材を育成する「地域創生Coデザインカレッジ」の開催。さらに、ピッチやネットワーキングマッチングの機会提供、業界や地域の課題、また未来社会の創造についての取り組みや、オンラインでのマッチング機会を提供する仕組みにもトライアルしている。
NTT西日本のアセットを共有して連携するパートナーと共に課題解決に挑むプログラム「ビジネス共創ピッチ」は、18社の応募から3社が採択され、現在PoCに着手しているという。もう1つの「未来共創プログラム」は、5年〜10年先の未来事業を創出する約6カ月間のプログラムで、101社の応募から10社が採択されている。
これだけのプログラムなどの運営を、現在はNTT西日本のイノベーション戦略室に所属する9名で行っているという。セッションには事業開発担当シニアマネージャー・オープンイノベーションプロデューサーの及部一堯氏をはじめとする7名が登壇した。会員と一緒に共創活動をするコミュニティメンバーと、ウェブでの発信や仕組みづくり全般を担当するマーケティングメンバーがいるが、両者に明確な境界はない。
冒頭では、事業開発担当マネージャーの今田梓氏と村山七海氏がQUINTBRIDGEの施設を説明。続いて、進行を務めたCNET Japan編集長の藤井より、(1)なぜ会員が急上昇したのか?、(2)なぜ共創案件が短期間で生まれてきているのか?、(3)なぜ大企業であるNTT西日本がスピード感を持って取り組めているのか?といった質問が投げかけられた。
まず、会員が急上昇した理由について、及部氏は連携パートナーの存在が非常に大きいと話す。「QUINTBRIDGEは他のオープンイノベーション施設や地域の金融機関をはじめ、現在44組織と連携し、全国7地域からたくさんの方々に参加していただいている。その中で、広く人脈を持つ人たちが集まり、その方たちがイベントを主催することで活動が広がり、認知度を上げることにもつながった」(及部氏)
また、大阪府の43市町村と連携して活動する外郭団体の大阪スマートシティパートナーズフォーラムと一緒に活動し、自治体の課題に気づく機会を得ているという。オープンイノベーションデザイナーの下川哲平氏は「開業時の会員の集め方が特徴的で、既存の営業ルートを使いつつ、社外のコミュニティで自ら何かやりたいという“ギバーの精神”を持っている面白い人たちにお声がけした。そこからできあがったエコサイクルがスタート時点から結構回っている印象がある」(下川氏)
初めての挑戦でもあるQUINTBRIDGEについては少人数で回すこともあり、「まず最初にチームとして“ありたい姿”を言語化する作業を丸2日かけて行った」と事業開発担当シニアマネージャーの浮田昭夫氏は振り返る。
「そこで出てきたキーワードの1つが『Self as We』。会員をゲストではなくNTT西日本も含めて共創を作り出す一員と捉え、一緒により良い未来を共感し、社会課題を持ち寄ったり、問いや共感が生まれたり、個性が自然と発揮される場所を目指した。さらにチーム共通の価値観として、何もしないことが唯一の失敗と考えてチャレンジを続ける『Try it First !』と、チームとして1人にしないさせない『One Team』を掲げた。このように行動指針を具体的に言語化できたことで、メンバーが増えた時も文化が継承でき、一体感が強まった」(浮田氏)
さらに事業開発担当シニアマネージャーの浦狩亜紀氏は、場を作る要素として「発信の機会を増やすことが大切」とし、「SNSでの発信のほか、ライブラリにはアフターの記事を載せている。そのほか他社と共同でプレスリリースを出したりと、多面的に情報を出していくのは非常に重要」と話す。
QUINTBRIDGEの特徴と言われるものにスタッフのホスピタリティの高さがある。その1つにコミュニティのサポートもあり、事業開発担当マネージャーの宮永峻資氏は「自身も会員の輪の中に入るようにし、一緒に盛り上げることを重視している」と話す。たとえば、あるテーマで話したいという会員に共感する他の会員を集める「テーマギャザリング」というイベントを開催しているという。
「(イベントの成果として)NTT西日本との事業共創ではPoCが9件、会員同士で進んでいるものが約30件、さらにマッチング件数は100件以上ある。それらはイベント本番よりも交流会で生まれていることから、私たちはリアルな出会いを重視している。たとえば、愛媛県が用意した実証フィールドでPoCを行う会員をマッチングする時も、ピッチイベントの後にビジネスについて議論できる場を用意し、直接つながりができることで次のフェーズにつながっていくきっかけになった」(下川氏)
もちろん、NTT西日本としてのオープンイノベーションにも力を入れている。その1つ、「Shining Startup!」という様々なスタートアップが登壇するピッチイベントでは、会員だけでなくNTT西日本グループの社員もしっかり巻き込んでいるという。QUINTBRIDGEの取り組み内容についても、3カ月ごとに役員やグループ会社の社長が参加する会議で紹介しており、関心や期待を高めてもらうことで、前に進むムーブメントを生みだそうとしている。
「今の世の中は、1社だけで新しい事業を作っていくことは難しい。QUINTBRIDGEの多様性によって事業共創が生まれやすくなり、イノベーターも増えて外部ともつながり、社会を良くしていく取り組みにつながる。実はそこに(NTT西日本の)社長自らが強い想いを持っており、いろいろな方面に宣伝していただいていて、活動しやすい状態になっている」(及部氏)
QUINTBRIDGE運営チームの中には、就業時間の約2割を使って通常と異なる仕事ができる「社内ダブルワーク制度」や、自分のしたい仕事にチャレンジできる「ジョブトライ制度」を利用して参加しているメンバーもいる。普段はNTT公式ビジネスチャットツール「elgana(エルガナ)」を使って交流し、総務人事部、業務委託先らとも連携しながら運営を進めているとのこと。
ここまで話を聞くと“ソフト面”に強い施設と思われるかもしれないが、実はハードウェアの開発支援も行っており、3Dプリンターなどが使えるファブスペースも設けられている。ロボットの運用検証など様々な実験にも利用できるという。
開設1年で予想以上の成果を挙げることができたQUINTBRIDGE。2年目以降は、業界・社会・地域の課題を解決し、特に社会実装にコミットして実績を残すことを目標に掲げている。3月24日に開催する1周年イベントでは、会員と共にどのようなことができるか考えるワークショップも実施予定で、今後の戦略に落とし込んでいくという。
最後に及部氏は「QUINTBRIDGEは(関西の企業に関わらず)共創したい皆さんをお待ちしている施設なので、何かやりたいことがあればぜひご相談していただけたら」と呼びかけ、イベントを締め括った。
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