矢野経済研究所は3月6日、農林水産省の委託事業として実施した「令和4年度 昆虫の輸出に関わる規制調査」の調査結果説明会を発表した。
欧州委員会が発表した「Farm to Fork 戦略」で昆虫は重要な研究分野として位置付けられており、EUでは昆虫事業の推進に向けたルール形成を進めている。日本でも昆虫養殖事業が加速する中で、食用・飼料用昆虫と昆虫への給餌にかかわる規制はどのようになっているのかが解説された。
今回の調査はルール形成で先行するEUのほか、米国と中国、さらにフードテックやアグリテックに力を入れるシンガポールを対象に行われた。
まず、日本産昆虫の輸出可否については、EU、米国、中国、シンガポールともに飼料用昆虫の輸出は可能だという。しかし食用昆虫については米国・中国ともに昆虫向けの特別なルールはなく、一般的な安全衛生要件が適用されるため「可能」という結果になった。食用昆虫の場合、EUは日本が「認可された第三国ではない」ため、シンガポールも「食用昆虫の輸入・販売が認められていない」ことから「不可」となった。
発表を行った矢野経済研究所 グローバル・ビジネスグループ 上級研究員の岡沢洋平氏は「EUは『認可を受けた品目であること』『認可を受けた第三国であること』の2つを満たせば輸出できるが、日本はこの『第三国リスト』に含まれていないため現状では輸出できない」と語る。
米国については「食用・飼料用ともにFDA(米国食品医薬品局)の監督下にあり、食用の昆虫を以前から認めている一方で、ガイドライン等のルール形成の動きはない」と語る。
「昆虫も現行のFDAのルールが適用される。そもそもFDAは昆虫を人間が食べて消費するものという認識があることが改めて発見した。ところが現状でFDAは昆虫に関するカテゴリーの輸入販売に対して特定の規制は設けていない」(岡沢氏)
中国は「食用・飼料用ともに昆虫特有の規則はないため、一般的な要件が適用される」(岡沢氏)という。
シンガポールについては「現状で食用に関しては輸出不可・飼料用に関しては可能だが、EU等の地域を参考に昆虫産業の推進に向けたルール作成を行っており、今後変わってくる可能性がある」(岡沢氏)とのことだ。
EUにおける食用昆虫は2018年1月に発効した「新規食品(ノベルフード)規則」の規制対象となっている。新規食品とはEU域内で人によって伝統的に食べられてこなかったものを指しており、「代表的なところではチアシードやノニ、カンナビジオール(CBD)、微細藻類などがあり、昆虫も新規食品のカテゴリーに含まれる」(岡沢氏)という。
新規食品はこの規則によって市場に出す前にEUから認可を受ける必要がある。
「欧州委員会に申請を行った後に欧州食品安全機関(EFSA)による安全性評価を受け、健康や環境に対して危険性がないことを証明する必要があり、品目ごとに申請が行われる。食用昆虫は提出された個々の申請書に基づいて審査され、安全性が認められれば認可される。2023年1月時点では6件の食用昆虫の品目が欧州委員会によって新規食品として認可されている」(岡沢氏)
認可された食用昆虫の品目が「乾燥状のイエローミルワームの幼虫」「トノサマバッタ丸ごとおよび粉砕状」「ミルワームの幼虫丸ごとおよび粉砕状」「イエコオロギ丸ごとおよび粉砕状」「レッサーミルワームの幼虫丸ごとおよび粉砕状」「脱脂後のイエコオロギ丸ごとの粉末」の6つだ。
「安全評価を行うEFSAはさまざまな要件を考慮して食品の安全性評価を行うため、認可を受けた食用昆虫は『昆虫種』ではなくて『品目』、つまり昆虫種のほかに形状や製法を含むものになる。昆虫に与える餌や給餌方法、養殖環境、処理工程もEU規則にかかわってくるため、申請者は最終形状の試験結果や安全データシートだけではなく、生産にかかわる一連のデータを申請書に盛り込んでいる」(岡沢氏)
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