25周年を迎えた「グランツーリスモ」シリーズの展望と感じる課題--山内一典氏に聞く - (page 2)

バーチャルをきっかけに挑戦してくれる若者が出てきてほしい

――「グランツーリスモSPORT」でオフィスツアーを行ったときから移転されていますので、今回のオフィスにおけるこだわりを教えてください。

 これまで何回引っ越しをしたかわからないぐらいなんですけど、常に社員が働きやすい環境を整えることを考えながら、その都度物件のサイズや間取りを合わせてオフィスを構えています。今のオフィスに関して言うのであれば、フロアにレーシングスレッド(※「グランツーリスモ7」がプレイできる筐体)が12台設置してありますけど、小規模なイベントなら社内でもできるような状態にしたかったというのはあります。

ポリフォニー・デジタルには、「グランツーリスモ7」がプレイできる筐体が12台設置
ポリフォニー・デジタルには、「グランツーリスモ7」がプレイできる筐体が12台設置
ポリフォニー・デジタルのオフィスで、開発業務が行われているエリア
開発業務が行われているエリア

「グランツーリスモ」開発元のオフィスを公開--ポリフォニー・デジタルのスタジオツアー

――レーシングゲームを愛好しているユーザーは世界中にいますが、世界で見て熱量や考え方に差があると感じることはありますか。

 「グランツーリスモ」に関して言うのであれば、差は無いです。ただ、モータースポーツや車文化の理解度、親しみ度合いで言うと、やはり日本よりはイギリス、イタリア、米国は圧倒的に深くて、関心が高い人も多いです。

 やはり米国はカルチャーを作ることが上手いと感じます。車関係も含めて、日本で生まれたけど文化にならず、米国で文化になったものってたくさんありますから。そこは本当にうまいと感じますね。

――モータースポーツを通じて、ユーザーさんには「グランツーリスモ」は親しまれていますが、リアルな領域でのモータースポーツでもプロモーション展開はしていきますか。

 イゴール・フラガ選手(※2018年に「FIA グランツーリスモ チャンピオンシップ」ネイションズカップでワールドチャンピオンを獲得するなど、リアルでもe-Motorsportsでも活躍している選手)が、スーパーフォーミュラのテストに参加していましたよね。このようなストーリーがたくさん生まれてくるといいなと思います。

 バーチャルなモータースポーツは、資金的なハードルが低くて参入しやすいのがメリットとしてあります。そのなかからすごい才能が出てきて、リアルなモータースポーツに進んでいくという歴史が続いていってほしいですね。

 モータースポーツは総合格闘技みたいなところがあるんです。レーシングドライバーに求められるものは、車を早く走らせるだけではとどまらないところがあります。例えば、人に好かれる才能だったり、自分を売り込むような才能、愛される才能などですね。速く走る以上に、人間の総合力が求められるというところがありますから、人間の限界に挑戦している感覚がリアルなモータースポーツで好きなところです。

 すごく面白い世界ですから、バーチャルなモータースポーツをきっかけに、より難易度が高いテーマに挑戦してくれる若者がたくさん出てきてほしいと願っています。

――お話も出ていますが、イゴール・フラガ選手がSuper Formula e-Motorsportsのアンバサダーとなって、実際に車に乗ってのテスト走行も行いました。このことについてどう感じましたか。

 2018年のチャンピオンシップで、初代チャンピオンとなったときに初めて出会ったのですが、さきほどお話ししたような、レーシングドライバーに必要な能力を持っている人でした。速いですし、人としての魅力もあります。うまく世界を切り開いてほしいと思いますし、そのポテンシャルをスーパーフォーミュラのみなさんが感じたから、今回のアンバサダー任命に繋がったのかなと思います。

 バーチャルな世界とリアルな世界は、手を携えて未来に向かっていくしかないと思うのですが、イゴール選手が今後どうなっていくのかは、将来のモータースポーツを考える上で、ある種の試金石に間違いなくなるでしょう。出会った以上は僕も応援していますし、レースはそういう世界でもありますので。

――電気自動車(EV)が普及していますが、「グランツーリスモ」には影響ありますか。

 影響はないかと思います。「グランツーリスモ7」には、すでにタイカンやテスラなどが収録されています。EV専用のレースも「ポルシェ ビジョン グランツーリスモ」を使って行われたことがあります。

 僕は、サーキットを周回するレースにおいて、EVはフィットしていないと感じています。バッテリーが交換式になれば話は別になりますけど。

 そもそもEVは、それ自体がゲーム機みたいなものと感じているんですよ。どこに充電ステーションがあって、残りの充電量を考えながら目的地までたどり着くところに楽しさがあると思うので。レースをするにしても、サーキットで周回を競うものではないかなと。EVの面白さを最大限に活かすなら、アドベンチャー的なレースのほうが、頭もすごく使いますし楽しくなると思いますね。

――以前、日産GT-Rのメーターなどをデザインされていましたが、広く多分野において、ポリフォニー・デジタルが持つポテンシャルを発揮する機会はあるのでしょうか。

 ないとは言えないです。僕ら自身は、そういった取り組みは面白いと感じますので、お話があればやってみようとなりますから。実際「Gran Turismo Sophy」(※ドライビングスキルはドライビングマナーを学習したAIエージェント)もそうでしたし。

 今、自動車メーカーは“車のスマホ化”というところに、一様に邁進されていますので、もしかしたら、そこで何かお手伝いをする機会があるのかもしれません。

自動運転の時代が来るが、人間が自由を簡単に手放すとは思えない

――長い車文化の歴史で25年は一端かもしれませんが、そのなかでも25年での移り変わりについてどのように感じていますか。

 僕自身は車が大好きな少年として育ちました。そして「グランツーリスモ」がリリースされた1997年というのは、今振り返ると、車文化のピークだった時期だと感じています。その後、スマートフォンで手軽にモバイルインターネットができる状況になるなど、世の中にたくさん楽しいものがあふれるようになりました。そのたくさんある楽しいもののひとつに、車の楽しさがある、という風に変化しています。

 かつては、“世界はひとつのもの”であることを錯覚していた時代が、数百年ぐらい続いていたように思うんです。世界は意識していない、と言いますか、自分の生まれた村や街が世界の全てだったという感覚ですね。そこに、例えばグーテンベルクが活版印刷を発明して、それが大量に複製されて、多くの人が同じ本を読むようになったとき、人間は初めて世界というものを意識したと思います。

 でもメディアが生まれたことで、なんとなく“向こう側にある世界”みたいなものがイメージできるようになって。もっと言うと、“僕らはひとつのユニバースに住んでいる”という感覚も持てるようになってきたと。よくよく考えると、この感覚を持てるようになったのは、人類史においてごく最近に起きた出来事になりますし、長い間、人類は凄く狭い世界を生きていたと思うんです。

 今は、インターネットが登場したことによって、パーソナライズだったりレコメーションエンジン、何らかのプラットフォームに没入するという流れがあって、ひとつのユニバースだった時代というのは、もうすでに変わりつつあると。たくさんの宇宙(マルチバース)に分裂していく時代なんだと思ってますし、その流れは止められないでしょう。そういった宇宙のなかのひとつに、車の宇宙があると。

 それぞれの宇宙はお互いに見えません。例えば、うちの親は多くの人々に遊ばれている「フォートナイト」を知りません。あれほど大きな宇宙なのに。でも、これまでのようにひとつのユニバースにする必要はないと思いますし、みんなそれぞれの宇宙で幸せに過ごせばいいと思うんです。そして大事なのは、それぞれの宇宙のスケールを考えて、そのなかで経済がまわるサイズにキープすることだと考えます。それが今後のテーマなんだろうという気がしています。

 僕もかつてのように、全ての人に対して車の楽しさを訴求することは難しいかもしれない。ですが、世界中に自動車産業がありますし、大きな規模で新しいアイデアや価値が生み出されています。これらを合わせた力というのは、車の宇宙をキープするのに、十分な力を持っていると思ってます。

――車の技術進化において、自動運転も発展してきていますが、これについてはどう感じていますか。

 自動運転に関する事情に詳しいわけではないので、個人的な考えにはなりますけど、自動運転についてはいろいろなハードルはあると思いますが、確実に自動運転の時代はやってくると思います。ただ、その時代が来たからといって、自分で車を運転するという自由を人間が手放すとは思えないところがあります。

 車の免許を取得して、初めて車を動かしたときの感激は大きいですし、単純にどこまででも行けるという驚きがあって。何より、どんでもない自由があるんです。

 ともすれば人を傷つけてしまう危険性もはらんでいますが、免許という制度のもとに自由に運転していいというのは、よくよく考えるとすごいことです。そしてそれが社会的に容認されてきたのは、人類において歴史的な産物だと思います。あれだけ大勢の人間がコントロールしている車が日々走っていて、社会的な生活ができていることは奇跡に近いし、人間は素晴らしいと思います。そして、そこで得た自由を簡単に手放すとは、僕は思えない気がしています。

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