リアル行動データ活用で「不動産・商業施設DX」は高度化する--unerry「Beacon Bank」活用事例

 リアル行動データプラットフォーム「Beacon Bank」を運営するunerry(ウネリー)は、7月28日に東京グロース市場に新規上場した話題のスタートアップだ。月間300億件超の人流ビッグデータをAI解析することで、よりリアルタイムに、より高解像度に、まちや不動産を可視化し、DXの高度化にも貢献している。

 8月30日から2週にわたり開催されたCNET Japan「不動産テックオンラインカンファレンス2022 スマートな住まいや街がもたらす暮らしのイノベーション」の初日には、商業や不動産をはじめとする幅広い業態のマーケティング支援を担当する、unerry Beacon Bank事業部 フロント領域リーダーの星雄大氏が登壇。「月間300億件超の人流ビッグデータを活用した不動産Tech最前線」と題して取り組みを紹介した。モデレーターは、CNET Japan編集長の藤井涼。

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unerryの会社概要と特徴

 unerryは、位置情報を活用し、不動産や商業施設のDXを先進的に進めている。三菱地所の施設に約700個のビーコンを設置して位置情報を取得するなど、エリアや商業施設のDX化を進め、大手企業との取組実績も豊富だ。7月28日には東京グロース市場に上場した。

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 同社が提供するのは「Beacon Bank」。リアル行動データを大量に扱う、ビッグデータのプラットフォームだ。人流データは1.1億ID、月間300億件超を超える。独自のAI機能により、来店の可能性が高いユーザーのデモグラや行動嗜好性を推計することも可能だ。さらに同社は、こうしたデータと機能を活用して、分析・可視化のサービスや、ユーザーに行動変容を促すデジタル広告配信サービスなども提供しているという。

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 星氏は、同社の特徴を4つ挙げて紹介した。1つ目の特徴は、リアル行動ビッグデータを扱う上で外せない「位置情報」についてだ。同社は、位置情報取得経路を3つ持っているという。駅から施設といった屋外での横の動きはGPSで捉える。ビル内、地下、電車、商業施設内などの細かい動きは、合計210万個の登録があるBluetoothビーコンで追う。そして実数は、IoTセンサーで計測する。また、スーパーマーケットやドラッグストアなど店舗での購買データとの連携もあるという。

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 2つ目の特徴は、各社が保有するビーコン取得情報をシェアするプラットフォームを運営しているという点だ。従来のやり方では、屋内の動きはビーコンで捉えることができても、ユーザーが1度施設から出てしまうと、その後の行動は追うことができないという課題があった。しかし、さまざまなアプリが相互に反応するような技術特許を備えたBeacon Bankを介することで、取得できるリアル行動データの幅が一気に広がるという。

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 3つ目の特徴は、提携しているアプリの豊富さだ。現在、主婦層が活用しているチラシ系アプリ、移動するだけでマイルやポイントが貯まるなどのポイ活アプリ、天気、交通など、幅広い分野で合計約120のアプリと提携している。もちろん、アプリユーザーの許諾を得た上で、位置情報データを活用しているという。

 4つ目の特徴は、複数の独自AI機能を持つ点だ。どのようなユーザーが、普段どのような場所によく行くのか、あまり行かないのかといった、同社が「行動DNA」と呼ぶリアルの世界での趣味、嗜好、世界観などをひもとけるという。さらに、外食、ショッピング、エンタメ、生活サービスという4つのカテゴリ、合計150項目以上で分析できる。星氏は「焼鳥屋かお好み焼き屋か、くらいの精度で分析できる」と話した。

 こうしたインサイトの基準になる数値を用いて、ユーザーの分析、広告配信に活かすケースも非常に多いという。今後も、移動スピードの計測から移動手段を推計する機能など、機能の拡充を図る予定だ。

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スタンダードな取り組み(1)--分析と可視化

 続けて星氏は、Beacon Bankのスタンダードなユースケースとして、「分析・可視化」サービスについて、詳しく説明。大きくは「館外行動分析」と「館内行動分析」という2つの切り口でサービス提供しているという。

 「館外行動分析」では、ユーザーの性別や年代、居住地、勤務地、同日取った行動や、ペルソナ、来店頻度、競合の利用状況などを推計できる。「館内行動分析」では、曜日や時間帯ごとの動き、フロアをまたいだ回遊の傾向、滞在時間、回遊スポットの相関などが分かる。

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 分析・可視化結果は、レポート提出もできるし、ダッシュボード形式で定常的に見ることも可能だという。ユーザーの居住地や勤務地などの商圏を、マップ形式やリスト形式で可視化することも可能だ。

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 エリアの来訪者、自社の館への来訪者、競合への来訪者の行動を細かく分析することで、「同エリアで他にはどこに立ち寄っているのか」という相関や、例えば「女性のお客様は、ファミレスでもなく、ファストフードでもなく、カフェでもない、つまり専門料理店にかなり行っている、外食好きのこだわったグルメ派が多い」などのように、リアルな嗜好性まで把握することができる。

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 「館内行動分析」では、ビーコンを細かく設置することで、館内の中心フロアがどこか、他にどのフロアに来訪者がよく行っているのかなどが、一目瞭然になる。

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 滞在時間も、5分未満、5~10分、30~60分、60分以上と細かく可視化できる。実際に、「月またぎのタイミングで屋上に話題のお店をオープンした結果、人が狙い通りに滞留してくれているが分かった」という事例もあるという。

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 このように、リアル行動データを分析・可視化できるからこそ、「誰に」「何を」「いつ」訴求するべきかという、的確な施策を立てて実行できると説明する。

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スタンダードな取り組み(2)--デジタル集客

 さらに同社は、「Beacon Bank AD」として、デジタル広告配信サービスも提供している。Beacon Bankの位置情報を活用した広告だ。位置情報から、競合への来店頻度や、もうすぐ離反してしまいそうな傾向の方などを推計することで、ターゲティングの精度が高まり、許諾を得た上でターゲット群に対して広告を配信できるという。

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 出面は、大きく3つ。TV、YouTubeなどのメディア、ユーザーが使っているSNS、アプリ経由でのプッシュ通知だ。Beacon Bankのデータを活用し、ターゲティングの精度を高めるだけでなく、効果測定もできるため、販促効果に応じて配信プランを最適化できるという。

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 星氏は、Beacon Bank ADの概要説明のあと、「館外行動分析」と「館内行動分析」について、それぞれ具体的な事例も紹介した。

 「館外行動分析」の事例はこうだ。既存顧客の来店頻度が低下して離反の可能性が高まるなどの傾向を捉えて、配信セグメントを生成して、SNS配信を行う。あるいは、館の来訪者がよく立ち寄るスポットを分析して、嗜好性が高い場所をプッシュ配信の拠点として設定することで、立ち寄りを促す。配信後は、来店率や地域シェアなどの数値を効果測定し、次の販促立案につなげていく。

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 「館内行動分析」では、リアル行動データ分析から“あと1歩、背中を押せば動くであろうユーザー”を発見してターゲットに設定し、館内のビーコンに反応したらプッシュ配信をするという取り組みを行った結果、滞在時間の増加、来店率の向上、購買率の向上を実現できた事例もあるという。

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 また、「混雑を可視化」は、コロナ禍でニーズが高まったそうだ。イベント、商業施設、小売店舗向けに、日常の混雑の可視化ソリューションを提供している。2年前に東京ミッドタウンで導入した事例では、イベント会場のモニュメントにセンサーを設置して、イベント会場のゾーンごとの混雑を可視化したという。

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ファクトに裏付けされた意思決定--1to1コミュニケーションも可能に

 最後に星氏は、「スタンダードな取り組みは以上になるが、テナントリーシングと天気プッシュなど、最新の取組も紹介させていただきたい」と付け加えた。

 テナントを探して誘致するテナントリーシングでは、人流データの活用で、ファクトに基づいた意思決定が可能になるという。実際に、東京都内の某エリアの商業施設では、「握り寿司や割烹料理といった専門レストランを頻繁に訪れるが、一方でファミレス、ファストフード、カフェなどもバランスよく使っていることから、来訪者には使い分けが非常にうまい方が多い」と仮説を立てて、Beacon Bankの行動情報から読み取れるユーザーのインサイトを裏付けとして活用。多様なジャンルの飲食店やシェフが集まるシェアキッチンの業態を採用すると意思決定したという。

 天気プッシュは、unerryの位置情報と「tenki.jp」の天気情報を掛け合わせることで、「どのエリアで、どの時間帯で、どういった予報がある時に、誰に対して、どういう配信をする」といった、天気に連動したレコメンデーションを行える。エリア、予報時間、天気、最高気温、湿度などに応じて、訴求内容を変えることで、行動変容を促すという。

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 星氏は、「天気に限らず、自社アプリに私たちの位置情報を組み込むことで、1to1コミュニケーションを進めていくことも可能だ。もしアプリがない、アプリの中に仕組みが入っていない場合でも、提携アプリを使ってプッシュ配信でレコメンデーションすることが可能になってきている」と話して、講演を締め括った。

 講演後の質疑応答も盛り上がった。ここで星氏が改めて強調したのは、「利用規約やプライバシーポリシーにご同意いただいたお客様のみ、位置情報を取得している」という点だ。また、ビーコンを用いるメリットとして、高い分解能の情報を取得できることや、高さ情報まで取得できることなどが挙げられた。

 モデレーターの藤井編集長の「実際に活用してみたい方は、どういうデータが必要なのか、気になると思う」という問いかけに星氏は「ビーコンは設置してからデータを取得できるので、1カ月程度は時間をいただいている。GPSなら過去データもあるので、例えばGPSで館全体を可視化しコロナ前後で物件ごとに比較するなどから始めるケースは多い」と答えた。

 今後の展望について、星氏は「共創という観点がすごく大事だと思う」と語った。例えば脱炭素社会に向けて、エリア全体で移動手段を変容していくなどは、あり得るケースだという。本セッションを機に、unerryとのどのような共創が生まれるのか期待したい。

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