米航空宇宙局(NASA)の火星探査機「パーサビアランス」は、2020年7月に火星に向けて打ち上げられた際に「MOXIE」と呼ばれる小さな金色の実験装置を搭載していた。MOXIEは、「Mars Oxygen In-Situ Resource Utilization Experiment」(火星酸素現場資源活用実験)の頭文字からとられた名称だ。
それ以来、MOXIEは火星の薄い大気から酸素を作り続けてきた。
そして米国時間8月31日、この実験を行っているチームが科学誌「Science Advances」に掲載した論文で、MOXIEがきわめてうまく機能していることが裏付けられた。実際、この装置の酸素生成量は、地球上の平均的な木1本に匹敵するという。
2021年末の時点で、個別に行われた7回の実験作業で、MOXIEが1時間に6gという酸素生成目標レベルに達していたことが、詳細なデータにより示された。さらにこれらの実験は、昼や夜、火星のさまざまな季節など、大気条件がさまざまに異なる中で行われている。
「われわれが機能を実証できていない唯一の環境条件は、気温の変化が激しい夜明けや夕暮れだ」と、マサチューセッツ工科大学(MIT)のヘイスタック天文台に所属し、MOXIEミッションで主任研究員を務めるMichael Hecht氏は、プレスリリースで述べている。「だが、われわれはこれを可能にする切り札を用意している。研究所でこれをテストすれば、『どのような時間帯でも稼働させられる』という、最後の重要なマイルストーンを達成できるはずだ」
特に科学者や各国の宇宙機関にとっては、MOXIEが確実に成果を出していることは、非常に心強いものだ。なぜなら、宇宙飛行士を火星に送り込むスケジュールの関係で、これらの飛行士が将来火星を探索する際に、安全な環境を保つ方法を解明しておくまでの期限が迫っているからだ。
例えば、SpaceXの最高経営責任者(CEO)を務めるElon Musk氏は、人類を火星に送り込む目標の期日を2029年に設定しているようだ。また、NASAが計画している月探査ミッション「アルテミス1号」は、2030年代ないし2040年代に計画されている火星探査への道を切り開くものだ。「火星での有人探査をサポートするには、コンピューターや宇宙服、居住施設など、さまざまな物を地球から運び込む必要がある」と、MITの教授でMOXIEの副主任研究員を務めるJeffrey Hoffman氏はプレスリリースの中で述べている。「だが、酸素は一体どうするのだ? 現地で酸素を作れるのならやるしかない。それだけでかなり優位に立てるはずだ」
今のところ、MOXIEのサイズはおおむねトースターほどと、非常に小さな装置だ。だが、これは悪い話ではない。この装置を構成している四角く区切られた立方体のサイズを、科学者が何らかの方法で大型化できれば、1時間に6gという現在の生成量をはるかに上回る、大量の酸素を作り出せるようになるだろう。
「われわれは非常に多くのことを学んでおり、そこから得た情報を将来のより大規模なシステムに生かせるはずだ」と、Hecht氏は述べた。
将来的には、数百本の木に匹敵する量の酸素を生成できるようになる可能性があると、研究チームは見通しを語る。そうなれば、火星に降り立った宇宙飛行士の生命を維持したり、クルーを地球に送り返すためのロケットの燃料に必要な酸素を供給したりすることが可能になる。
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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