政府のデジタル臨時行政調査会は4月11日、東京電力総合研修センターにて電気事業の点検におけるドローンの活用技術などの視察を実施。デジタル副大臣兼内閣府副大臣で、デジタル臨時行政調査会事務局長も務める小林史明氏が視察のため現地を訪れた。
デジタル臨時行政調査会は、社会のデジタル化に向けた構造改革のため、規制や行政で抱えている課題などを一体的に検討し、改革を急速に進めるために設置された。
今回の視察は、内閣総理大臣を務める岸田文雄氏からの、センサーやドローン等の活用を推進するためのテクノロジーマップの整備という指示を踏まえ、ドローンの自動走行技術とAI診断技術の精度を体感するために実施。東京電力パワーグリッドとNTTデータ、日立製作所が設立した有限責任事業組合となるグリッドスカイウェイによるドローンの運行システムを活用し、送電などに用いる鉄塔の点検作業を自動化するというデモが披露された。
鉄塔の点検には、「目視規制」、つまり設備点検などで人による目視が必要という規制がある。現状ではスキルを持った2人の人員が訪れ、直接登って目視で点検している。危険を伴うだけでなく、山間部の鉄塔の点検の場合、現地にたどり着くまでに時間と体力を要するし、水田に設置された鉄塔は登るために水田に入る必要があり、地権者に迷惑がかかるなどの問題を抱えていた。
そこでドローンを活用することにより、人が直接現地に赴かなくても点検をできるようにすることで、一連の問題の多くが解消され5倍の効率化が図れるという。
なお今回の視察で用いられたシステムは、ドローンの飛行形態の「レベル3」を想定し、無人地帯であれば人による目視が不要な「目視外飛行」ができる。
有人地帯でも目視外飛行ができる「レベル4」の運行は2022年12月の認可が見込まれているが、視察時点ではまだ認められていないことから、現状はあくまでレベル3で運用できる無人の場所での利用を想定しているとのことだ。
今回の視察においてはまず、「操縦者」がタブレット上でドローンの飛行ルートなどを定めて飛行計画を作成し、それを「運行管理者」が確認して認可。認可を受けた操縦者が指示を出してドローンを飛行させる。
ちなみに飛行に当たっては、現地に赴いた「補助者」があらかじめ飛行するドローンを運搬、設置したり、飛行前の現地の安全性を確認したりするなどの措置を取っているとのこと。将来的にはドローンポートを設置した無人での運用も検討しているようだ。
ドローンには2K解像度のカメラを搭載しており、映像はタブレットで直接確認できる。映像をズームして細かな部分を確認することも可能なほか、保存された映像を後からギャラリーで確認することもできる。また、AI技術を用いてドローンの映像から鉄塔部分だけを抽出し、異常のある箇所などの状況を診断する仕組みも用意しているとのことだ。
グリッドスカイウェイのマネージャーである秋本了氏によると、2021年10月に全国の電力会社に向けて実施したアンケートでは、約85%の鉄塔が、レベル3で飛行できる無人地帯に設置されているという。しかし、ドローンの一連の制御にはLTE通信を活用しているため、システムが運用できるのは85%のうちLTE通信が入る場所に限られるとのことだ。
また秋本氏は、現在のシステムは試験導入段階であり、実運用にはユーザーの管理や飛行要件の検証など、さらなるブラッシュアップが必要であるとも説明。それゆえ実際の現場に導入されるのは来年以降になるとのことだ。
なお一連の視察を終えた小林氏は、自動化されたドローンの操縦の簡便さや、遠隔で送られてきた鉄塔の映像が非常にクリアで、細かなサビなどを確認できる様子に驚いていたようだ。その実用性を実感し、「目視点検の分野ではドローンとAIによる画像判断が生きることが明確になった」と話している。
さらに小林氏は「1つの分野で開発された技術が別の分野に広がっていくことができると思っている」とも発言。今回の知見をさまざまな省庁で共有し、河川の堤防など、別の分野にも応用していくことにも期待し、技術を生かせるよう制度改革に意欲を示した。またその際はグリッドスカイウェイのように大企業からスピンアウトした企業や、スタートアップ、中小企業などの技術を生かすことへの期待も示している。
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