地方創生と電力という2つの課題解決を同時に進める仕組みが、イーネットワークシステムズとNext Commons Labが運営するエネルギープラットフォーム「SOCIAL ENERGY(ソーシャルエナジー)」だ。地域プレイヤーが、オリジナルの電力プランを販売し収益を得られるというエネルギープラットフォームで、収益の一部は地域活動のために還元される。
2社が持つアセットをかけ合わせることで生まれた新しいビジネスモデルは、地域課題解決とエネルギー問題にどんな未来をもたらすのか。イーネットワークシステムズ 取締役の大澤哲也氏と、Next Commons Lab(NCL) 代表取締役の家冨万里氏に話しを聞いた。
――イーネットワークシステムズとNCLについて教えて下さい。
家富氏 NCLは、自治体、起業家、企業など多様なセクターと協働し、地域資源を活かした事業創出、コミュニティづくりに取り組む一般社団法人 Next Commons Labが母体となり立ち上げた“組合型”の株式会社です。組合型株式会社というのは、NCL内での呼称で、全国各地でまちづくりや社会的事業を担うプレイヤーが出資参画する協同組合に近い組織になります。
大澤氏 私たちイーネットワークシステムズは、LPガス事業を手掛ける三ッ輪産業を傘下に持つ三ッ輪ホールディングスのグループ会社で、2015年4月に設立しました。電力・都市ガス小売のOEMプラットフォームを運営しており、提携事業者を経由し、電力、都市ガスをお客様に供給、販売しています。
――SOCIAL ENERGY立ち上げのきっかけは。
家富氏 NCLでは地域社会の課題解決に奮闘する人のためのビジネスモデルを作りたいと考えており、それを電力の切り口でできないかと考えたのがきっかけです。一般的に、電気契約する際には多くの方が大手電力会社と契約する事が多く、地域経済の5~10%にもあたると言われる電気料金のほとんどが地域外に流出してしまう現状があります。その一部を地域内に留めることで、地域活性化に役立てたいと考えました。ただ、電力事業は仕組みが大掛かりで、地域ごとに独自で立ち上げること難しい。そんなときに電力、都市ガス小売のOEMプラットフォームを運営するイーネットワークシステムズを知り、サービスの相性が良いのではないかという思いからご一緒させていただくことになりました。
大澤氏 SOCIAL ENERGYのお話をいただいた時、魅力に感じたのは、NCLが各地域の地方創生を担う方々と直接のつながりを持っている点です。電力企業である私たちが、今欲しているものの1つが次の段階のマーケティング手段。デジタルマーケティングではリーチできない層、例えば地域に根差したニーズであるとか、ウェブサイトやスマートフォンには触れていない層にはどうアプローチすればいいのか、これは今どの企業でも思っていることだ思います。この部分を解決する手段がNCLにはあるのではと感じました。
お話を進めていくうちに気づいたのは、地域のために活動するプレーヤーが、地方という小さなマーケットの中でマネタイズしていくのは難しいということ。その部分をSOCIAL ENERGYが担えれば思っています。
――すでに、複数の団体とプロジェクトを進められていますが、立ち上げまでの期間は。
大澤氏 構想は2〜3年前にスタートしたのですが、細かい部分の調整に1〜2年を費やしました。イーネットワークシステムズが電気の供給からお客様との契約、請求書などを担当し、NCLの方には地域プレーヤーとのやりとり、ブランドコンセプトなどをお願いしています。
家富氏 実際SOCIAL ENERGYを始めてみて感じたのは、多くのエンドユーザーの方にとって電気を自分ごと化するには距離があるという現状でした。それを送電のあり方から説明して理解してもらうのは難しいなと。ただ、私たちの思いに共感し、仲間になっていただいた地域プレーヤーの方は、SOCIAL ENERGYの仕組みを深く理解してくれている。それならば、複雑な説明ではエンドユーザーの方には、地域プレーヤーの背中を見てもらうことで広げてもらおうと思いました。
第1弾となった宮城県石巻市の一般社団法人 フィッシャーマン・ジャパンとの取り組みはまさにそれで、フィッシャーマン・ジャパンのみなさんが奮闘される姿を地域の人に見てもらうことで、徐々に広まっていったと思っています。
大澤氏 フィッシャーマン・ジャパンは「フィッシャーマン電力」というブランドで電力販売事業を開始していただいたのですが、その名の通り、石巻市を中心とした漁業に携わる人たちが立ち上げた団体です。電力事業で得た収益は、水産業の担い手を増やし育てる、若者が水産業に関わる機会を創出する、海の環境を守るといったことに還元していく予定で、取引のある水産加工業者や海洋資源や問題に関心が高い個人のお客様に対し、電気を販売しています。
こうした取り組みに感銘をうけてくださる方は非常に多い。SOCIAL ENERGYは、地域プレーヤーの信頼、信用が軸になって広がっていける仕組みだと感じています。――地域の方の信頼を得るためにSOCIAL ENERGYとして取り組んでいることはありますか。
大澤氏 私たちがというよりは、地域プレーヤーの方がやはり軸ですね。地域プレーヤーはその土地で生まれた人だったり、一度就職などで土地を離れて戻ってきた人など、地元に接点を持った人たちなんです。そういう意味では飛び道具になる宣伝文句みたいなものはなくて、コツコツとコミュニケーションを重ねながら、丁寧に説明していくこと。顔の見える人間関係作りが一番大事だと思います。
家富氏 もちろん一筋縄ではいかなくて、苦労する点も多いですが、よいコミュニケーションを築くことが大切だなと思っています。
――地方における電力会社切り替えの課題はどんなところでしょう。
大澤氏 地方に限りませんが、法人契約で重要なのはとにかくコストが下がること。このあたりは大手電気との競合になりますから、厳しい部分も多いです。個人のお客様では、やはり切り替えの手間ですね。検針票を探して、新たなプランを検討してとなると腰が重くなる人は多いです。
あとは既存の契約期間に縛りがあって、すぐには変えられないというケースも多かったです。法人契約で規模が大きいと違約金を取られる契約内容の場合もありますから、あと1年は変更できないなどのお話も聞きました。家富氏 日本はインフラが優れているので、新しい電力サービスを改めて検討する機会が少ないんですよね。当たり前のように大手の電力会社と契約に至る方が多いです。ただ、私は今、岩手県遠野市に住んでいますが身近に海も山も広がる。そうした自然環境や地球環境に配慮した上で、どう暮らしていくか、同時に地域が元気であり続けるにはどうしたら良いかを考えた時に、一番身近な電気から変えましょうというのはシンプルだけど、心に届く言葉かなと思っています。
大澤氏 電気自由化がスタートして数年経ちますが、現時点でも7割が大手電力をそのまま使っている状態です。今までの電気は説明せずに販売できましたが、これからの電気は説明商品。きちんと説明することで、不安感を払拭していくことが必要だと感じています。新しい電力会社と言うと「停電しやすくなるのでは」というイメージを持たれる方もいらっしゃるかもしれませんが、創業80年を超える老舗LPガス事業者を傘下に持つグループとして、今までの実績とあわせて、安心して使っていただけることをより多くの人に理解していただく努力をしていきたいと思っています。
――すでに複数のプロジェクトが進んでいます。今後の展開を教えてください。
家富氏 今一緒に立ち上がってくださっている地域プレーヤーの方と事業を成長させていくこと、新しいパートナーを開拓していくことですね。そのために必要なのは絶えず地域プレーヤーの方とコミュニケーションをとることだと考えています。
少し先の話になりますが、森林資源、海洋資源を通じた温室効果ガス吸収推進の動きをSOCIAL ENERGYにどうつなげていくのがいいのかということも見据えて取り組んでいきたい思います。
大澤氏 温室効果ガス吸収推進の動きは、2〜3年先の話しになるかと思います。日本は国土の70%が森林のため、CO2の吸収量は多い。環境には非常に有効ですが、この部分の見える化が進んでいません。三ッ輪ホールディングスは3月に三重県尾鷲市と「22世紀に向けたサステナブルシティ」実現に向け協定を結び、この部分の見える化にも取り組み始めました。CO2排出を削減する取組を推進する一方で、きちんと吸収する仕組みも整えている。この環境価値を国内外にしっかりと示していこうと考えています。
家富氏 戦略的なことで言えば、SOCIAL ENERGYとしてのブランドメッセージの訴求に力を入れていこうと思っています。地域の課題解決や環境問題などを含め今後目指す世界観を発信していきたい。思いを伝える術としてSNSにも力を入れていきますので、身近な部分から私たちの動きを知っていただけたらうれしいです。
大澤氏 電力自由化によって、電気は数百というプランが生まれています。この中で選んでもらうためには価格で競争をしていかなければならない。その価値観はもちろん大切ですが、私たちが目指しているのは地域創生やサステナビリティ。これをきちんと考えないといけない時代にきていると思います。その考えるきっかけにSOCIAL ENERGYがなれたらうれしい。未来に向けてあたらしいムーブメントを起こす、そうした事業にしていきたいと考えています。
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