NTTドコモ(ドコモ)は1月17日から19日までの3日間、同社の研究開発や最新技術などの取り組みを紹介するイベント「docomo Open House'22」を開催している。同イベントは今回オンラインでの開催となるが、報道陣に向けてオフラインでの展示も披露された。
その中で、ドコモの6G-IOWN推進部長である中村武宏氏は、5Gの高度化(5G Evolution)や6Gに向けた取り組みについて説明。現在「デジタルツイン」に代表されるフィジカル空間とサイバー空間を融合・連携させた取り組みが進められているが、そこで求められているのが、双方の空間を接続するネットワークの高度化であるという。
そうしたことから5G Evolutionや6Gなどの実現に向けては、高速大容量通信や低遅延など5Gが持つ性能の強化はもちろんのこと、エリアカバーの大幅な拡張や、さらなる低消費電力、低コスト化など新たな要素が求められているとのこと。その技術研究開発に向けた国同士の競争も非常に熾烈を極めている状況だという。
実際、5Gまではおよそ10年をかけて新しい規格を作り上げてきたが、6Gは各国の技術開発競争が加速し、3年前倒しで進んでいるのではないかと中村氏は説明。「技術開発競争で日本が負けないよう、イニシアティブが取れるよう積極的な貢献をしていかないといけない」と話し、ドコモでも6Gに向けた積極的な研究開発に取り組んでいるとのことだ。
5G Evolutionや6Gの実現に向けて同社が開発に取り組む技術は大きく8つの分野が存在し、今回のイベントでは各分野における代表的な技術も展示されている。中でもカバレッジを広げるための取り組みとして紹介されたのが「置くだけアンテナ」である。
これは直進性が強く、建物内などに電波を届けにくい高い周波数帯の電波を届ける技術で、電波を伝搬する「誘電体導波路」にプラスチック片を置くと、そこから電波が漏えいして電波が届けられるというもの。あらかじめ建物の壁などに誘電体導波路を埋め込んでおくだけで、中継器などを設置する必要なく建物内に電波を届けられるメリットがあるという。
より広範囲にカバレッジを広げるための取り組みとして紹介されたのが、衛星や、成層圏を飛行し地上のエリアをカバーする基地局システム「HAPS」などの活用である。特にHAPSに関して、ドコモは国内外のさまざまなプロジェクトと協力しての取り組みを進めているそうで、1月17日にはドコモとエアバス、日本電信電話(NTT)、スカパーJSATの4社が、HAPSの早期実現に向けた研究開発や実証実験の協力体制を構築する検討を推進する覚書を締結したことも発表している。
一方、さらなる高速大容量通信の実現に向けた取り組みとなるのが利用する周波数帯の活用、より具体的に言えばテラヘルツ波に分類される300GHzまでの活用だ。だがテラヘルツ帯はミリ波寄りも周波数が高いことからより直進性が強く、また伝搬時の損失も大きいことから、利活用を進める上ではそれを克服するための技術が必要になるという。
そこでドコモでは6Gのシミュレーターを開発し、テラヘルツ波に分類される100GHzを活用しての評価ができる仕組みを整備。あくまでシミュレーションの段階ではあるものの、8GHz幅の100GHzを利用して100Gbpsを超える通信速度を達成できることを確認できたとのことだ。
中村氏によると、ドコモでは5G Evolutionや6Gに向けた通信技術だけでなく、そのユースケースの開拓も並行して進めているとのこと。同社は5Gでもサービス開始以前よりユースケース開拓を進めてきたが、6Gではサービス開始の前段階から開拓に取り組んでいく方針とのことだ。
具体的には8Kの映像伝送やV2Xに関する取り組みなどが挙げられたが、中でも中村氏が6Gに向けた「ぶっ飛んだ方向」のユースケースとして紹介したのが「人間拡張基盤」である。これは人間の身体から動きや五感、神経などあらゆる情報をセンサーなどで取得してネットワークでサイバー空間に送り、ロボットや別の人などにそれを伝えて動かすというものだ。
中村氏は「(6Gの)超高速ネットワークでネットワークが人の神経になる」と話し、取得した人の動きなどを現実に反映させることで、スキルの共有や伝承で社会課題解決につなげるだけでなく、脳波を取り出して相手の思いを伝えるテレパシーのような仕組みなども実現したいとしている。実際ドコモは1月17日、H2LやFCNT、富士通の技術協力を得て人間拡張を実現する基盤を開発したことを発表しており、会場でもセンサーで取得した人の動きを、直接人に伝えて手を動かすなどの取り組みを披露していた。
そしてもう1つ、5G Evolutionや6Gに向けた取り組みとして中村氏が説明したのが、NTTが開発を進めている次世代ネットワーク「IOWN」だ。中村氏は、光を中心とした技術の活用で超大容量、超低遅延かつ超低消費電力を実現できるIOWNが「2030年代の情報基盤になる」とし、同社の6Gに向けたホワイトペーパーにもIOWNに関する要素を盛り込むなどの取り組みを進めているという。
IOWNとの連携が進んだことはドコモがNTTの完全子会社となったことが大きく影響していると見られるが、中村氏は「以前からNTTとはIOWNを含め密に協力して活動していた」と説明。通信の基礎技術だけでなく、ユースケースの開拓に向けた取り組みでもNTTの開発した技術を活用し、共同で取り組んでいきたいとしている。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス