大企業の若手・中堅社員が集結し、企業や業界の枠を超えたイノベーション、事業共創のきっかけづくりの場として拡大しているコミュニティ「ONE JAPAN」。同コミュニティでは、「大企業から世の中を変革する」をテーマに、企業内で新規事業や既存事業変革に挑戦する“チェンジャー”創出のための支援プログラム「CHANGE」も実施している。
10月31日に開催されたオンラインイベント「ONE JAPAN CONFERENCE 2021」では、そのCHANGEに選抜された5チームによる決勝ピッチを実施。3カ月にわたり、100名以上の講師やメンターの支援を得ながらアイデアをブラッシュアップしてきた成果を発表し、審査員によってグランプリが決定した。ここでは、それら5つの発表内容を紹介しよう。
グランプリに輝いたのは、在宅医療現場に皮膚科医の診察を届けるサービス「皮膚科診察依頼アプリ」を発表したマルホの田中氏。同社は皮膚疾患に特化した製薬メーカーで、営業職として在宅医療の現場をよく知る同氏ならではの経験や知識、課題感から生まれたアイデアだ。
在宅医療は、足腰が弱った高齢者や、「人生の最期を自宅で迎えたい」という願いを持っている末期がん患者など、病院に行くことができない人に対して、在宅医による訪問診療を行う医療サービス。田中氏によると、その在宅医療を受ける人は、深刻な皮膚疾患に悩まされている場合が少なくないという。
身体の自由がきかず、部屋の片付けも十分にできないうえに、頻繁に入浴することも難しい。そうしたことから皮膚疾患を発症しやすく、しかし通院がそもそも困難なので放置してしまいがち。在宅患者のおよそ7割がなんらかの皮膚疾患に悩まされ、症状も悪化する一方だと説明する。
在宅医が患者宅を訪問して診療するものの、田中氏が京都府内の在宅医300名近くにヒアリングしたところ、その8割が内科医で、多くの医師が「皮膚疾患の治療に自信が持てない」と回答した。他の皮膚科医に診療を依頼しようにも、気軽に相談できる皮膚科医とのコネクションがないため、患者の皮膚疾患を「見て見ぬふり」するしかない実情もあるという。
一方で、皮膚科医にとって在宅医の業務は、多忙なわりに報酬が少ないことから、積極的にかかわりたくないと感じている人も多い。なかには使命感をもって在宅医療にチャレンジしたいと考える皮膚科医もいるものの、手を挙げることで自分1人に診察依頼が集中してしまうという懸念から在宅医療にかかわれずにいるケースもあるようだ。
「皮膚科診察依頼アプリ」は、そうした在宅医と皮膚科医をつなげ、双方の悩みを解決するマッチングアプリとして展開する。在宅医が自分の担当している患者情報を登録すると、アプリを通じてその情報を得た皮膚科医が在宅患者の診察のため訪問し、患者は皮膚科医に診察料を支払う。サービスプラットフォーム側はそのうちの1%を手数料として徴収する、というのが基本的なビジネスモデルだ。
田中氏は「皮膚科医会公認のサービスとして展開するため信頼性が高く、皮膚科医が直接診察する安心感も提供できる。この2つが価値になる」と強調。同氏が勤めるマルホにとっても、皮膚疾患治療用の医薬品販売につなげられるというビジネス上のメリットは大きい。
まずは、すでに実証を行っている京都エリアからサービス提供を開始する考え。4カ月で約2500人の在宅患者をサポートし、それをロールモデルとしていきたいとしている。京都府内では年間利用者数2.5万人、サービス手数料381万円、医薬品売上5090万円の売上を見込み、4年後には全国展開を進めて年間利用者数119.6万人、サービス手数料1.8億円、医薬品売上24.3億円を達成したいと意気込む。
グランプリの決定を受けて田中氏は、協力してくれた多くのメンバーに感謝を述べつつ、「事業を確実に前に進められるように頑張りたい」と述べた。
NTTドコモの子会社、ドコモCS関西の坂東氏が発表したのは、専業漫画家を増やすためのプラットフォーム「MANGA Works」。自身がかつてインディーズの漫画家として活動していた経験から、漫画を専業にするハードルの高さに課題を感じ、専業漫画家として生活していける漫画家人口を増やして日本の漫画市場を盛り上げることを考えた。
漫画家人口は現在30万人以上いるが、プロと呼べる漫画家はそのうちわずか2%。平均月収20万円以上の「専業ライン」にいるアマチュア漫画家は19%で、その他大部分の79%は他に本業をもちながら漫画を描いている人だという。
そんななか、漫画を描くことで一定の収入を得ている人の65%は、漫画誌への連載というような形ではなく、企業からのプロモーション関連の依頼に応える形で漫画を提供していることも明らかになっている。企業が商品やサービスのプロモーションのために漫画を利用する案件は近年増えてきており、2010年前後からの数年で8倍以上になったと板東氏。
クラウドソーシングサービスでも、告知・PR用の漫画のニーズは、広告等における写真撮影やイベント・セミナー動画の制作を上回る伸びを見せているとのこと。坂東氏はここに目をつけ、漫画家と企業を直接つなげるマッチングプラットフォームを運営することで、専業漫画家を目指す人を支援することを狙っている。
当初のターゲットは主にBtoCビジネスを展開する中小企業。これまでは、漫画を活用することの価値を理解していても、費用の高さ、自社商品にマッチする漫画家を探すことの難しさ、制作期間の長さ、といった課題がネックになりがちだった。しかしMANGA Worksでは、漫画家と企業を直接つなげ、「豊富な価格バリエーションで、予算に応じた漫画家を選べる」こと、「読者属性に応じたターゲティングができる」こと、「パッケージ化による納期の短縮が可能なこと」という3つの価値を提供することを目指し、課題解決を図る。
実際にプロトタイピングを実施し、漫画家が描いたサンプルを用意してさまざまな企業に提案した結果、2週間という短期間で5社から発注意思の提示を受けられたという。クライアント企業から20%の手数料を受け取るというビジネススキームで、現在はNTTドコモ内でテストセールスによる検証を実施しているところ。すでに企業から依頼を受け、5案件の調整が進んでいるという。2026年度に売上規模14.4億円が目標、その後は海外展開も目指したいとした。
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