私はビッグテックによるリモートワークの未来に関する考察にやや戸惑っている。おそらく、私だけではないだろう。
数カ月にわたるリモートワークで、多くの企業やその従業員は、9時から5時までの典型的な勤務体系は必要だろうかという疑問を持ち始めた。仕事の多くがPCの前でできるようになりつつあり、そのPCは誰でも世界中のどこからでも接続できる時代なのだ。
とりわけIT企業は、効果的な仕事は地域やタイムゾーンを超えられるという考え方に以前から関心を持っている。月額のサブスクリプション料金と引き換えに、それを可能にするソフトウェアを提供できるからだ。
だから、そうしたソフトウェアの1つである「Microsoft Teams」を提供するMicrosoftが、在宅勤務の落とし穴について、かなり厳しい警告を出したことに私が驚いたのも無理はないと思ってもらえるだろう。Microsoftは企業向けソフトウェアで長年オフィスワーカーの生活を支配してきており、過去18カ月のTeamsの爆発的な成長で新たな成功を収めてきた。
Microsoftは、2020年初頭に全従業員に在宅勤務を命じたことで何が起こったかを調べるために、米国の従業員を対象に調査を実施した。その結果、全社的な在宅勤務によってコミュニケーションの意味が薄れ、部署の異なる従業員同士が会話したり、仕事で協力したりする時間が減少したことが分かったという。
Microsoftの研究者は、リモートワークが今後の生産性とイノベーションに悪影響を与える可能性があるとした。また、対面でのやり取りの代わりに使われるメールやインスタントメッセージ、その他のコミュニケーション方法では、従業員がアイデアを共有したり、新情報を得たりすることがより困難になったとしている。こうした問題は、長期的なリモートワークポリシーの導入を選んだ企業の生産性とイノベーションを阻害する可能性があるとMicrosoftは述べた。
Googleも、リモートワークに関する議論での立ち位置がはっきりしないIT企業の1社だ。「Google Workspace」はパンデミックの中で同社が特に力を入れている事業であり、「Microsoft Office」と競っている。また、ビデオ会議の分野でZoomとTeamsの成功に一撃を加えようとしている。
だが、Googleはクラウドでのコラボレーションを仕事の未来として推進し、自社の従業員に対し、望むなら恒久的なリモートワークも可能だと言いながら、その選択を阻害する提案もしている。つまり、リモートワークを選択すると給料が下がる可能性がある。
リモートワーク用ソフトウェアに大きな商業的関心を持ちながら、リモートワークを義務化した後に組織規模でのコミュニケーションの減少に直面するのは、難しい状況だ。Microsoftの名誉のために言うと、同社はテクノロジーだけでは長期的にリモートワークを定着させることはできず、リモートワーカーからの持続的な多数の苦情を解消することにもならないと指摘することで、これを認めている。
同社はまた、「ハイブリッドワークパラドックス」と呼ぶ問題も取り上げている。これは、従業員がリモートワークの柔軟性を望みつつ、一方で対面でのやり取りも求めるというものだ。
例えば、パンデミック中の在宅勤務は、通勤の必要がなくなり、同僚に気を散らされる心配もないため、ワークライフバランスが改善し、仕事に集中しやすくなったと多くのリモートワーカーが報告した。
その一方で、人的ネットワーク形成や社会的交流は大きな打撃を受けた。パンデミック中の働き方について実施された多数の調査で、従業員が少なくとも週に数日は職場で働きたいと思う最大の理由として挙げたのは、同僚と顔を合わせられるからということだった。
Microsoftの調査はまた、パンデミック中に入社した若者や、新しい部署に配属された従業員が直面する問題も明確にした。従業員は、仕事や職場についての情報を、より経験の長い同僚に大きく依存するもので、その多くは非公式の出会いや対面での交流を通じて得るものだ。リモートワークではこうした交流ができないため、新入社員や転属従業員が新たな仕事に順応し、組織になじむのがより困難になっていることが明らかになった。
今後の動きは興味深いものになりそうだ。Microsoftの調査報告が、リモートファーストあるいはハイブリッドワークモデルを検討している企業にどのような波及効果をもたらすのかは興味深い。IT企業はリモートワークの成功に関与しており、その製品やサービスが成功するかどうかは、それらが実際に職場での作業を代替できるかという点に大きく依存している。
それにもかかわらず、Microsoftが(少なくとも現在の方法の)リモートワークは長期的に持続可能であるという考えにやや消極的になっているようなので、ビッグテックが将来の働き方がどうなるか(あるいはどうなるべきか)について送ろうとしているメッセージに疑問を持ってしまうのだ。
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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