ゲームの企画・開発・運営などを手掛けるCygamesは、4月に3DCG制作を主体とした子会社「CySphere」を設立。その経緯や狙いについて、CySphere代表取締役を務める伊藤聡氏に聞いた。
Cygamesは「グランブルーファンタジー」や「ウマ娘 プリティーダービー」をはじめとしたゲーム、ならびにアニメーション製作を中心に事業を展開。今回設立されたCySphereは、ゲームやアニメーションなどに関する幅広い3DCG制作業務を担う。そしてテレワークをベースとし、多様な働き方へ対応する仕組みを整えているという。
伊藤氏は、大手ゲームメーカーのCGディレクターとして従事したのち、Cygames には2018年から制作管理として携わり、CySphereを設立した。
――まず、CySphere設立の背景や経緯について教えてください。
現状において、Cygames内部における3DCGの需要がかなり高くなっていることが背景にあります。そこでCygamesの人員体制のさらなる強化が課題のひとつとしてありました。それをCygames内部だけではなく、外からも力添えをして、よりCygamesの力を上げていくという狙いがあります。そして将来的には外部の会社からの仕事も受けつつ、より広い範囲で業務の遂行ができるようになることが目標であり、目的でもあります。
以前からもCygamesとして、こうした子会社組織の設立は検討していたようなのですが、なかなかマッチする人がいなかったところで、私のキャリアを踏まえて子会社代表のお話をいただいたのが、本格的に設立へといたったきっかけでもあります。
――Cygamesは3DCGを含め、グラフィック周りにかなり力を入れている印象がありますし、多くの方が関わられているように感じられます。さらに強化する必要があるということでしょうか。
確かに携わっている人数は多いです。ただ昨今は働き方改革が進み、ひとりずつの専門性も高まっているところがあります。より多い人数でしっかりとした面白いゲーム、そしてクオリティの高いグラフィックを作っていくことが大事であると考えたとき、これを遂行していくには、さらに人が必要になってきます。
――今のところ、メンバーはどういった方々なのでしょうか。
立ち上げ時は、私を含めCygamesからの転籍者で構成していました。最初に3DCGチームから何名か加入していただきたいと考えていて、マネージャー陣に相談のうえ、即答で前向きにやりたいと言っていただいた方々が参画してくれました。
今は基本的にCygames側のプロジェクトに携わって主要なところを務めつつ、CySphereの仕組みづくりや採用活動を進めている段階です。設立から数カ月が経過していますが、すでに外部から新たなメンバーも加わり、福岡在住の方などもいらっしゃいます。
――CG業界において、テレワークをベースとして立ち上げられた3DCG制作の会社はあまりないと伺ってます。
テレワーク自体、新型コロナの流行を発端として、各社が本格的に取り組み始めたものだと思っています。そこでネットワーク環境や機材、自宅での作業環境などの課題が実体験として感じられて、そのなかで徐々にテレワークでの作業もできるようになっていきました。Cygamesでは、比較的早い段階でテレワークに対応したシステム構築やワークフローを作ることができたと思います。
このベースがあったからこそ、早いスピード感で自宅からでも仕事ができる会社を立ち上げられました。大手でもテレワークに移行した会社は多いですが、ゼロベースで作り始めたところは初めてのケースではないかと思いますし、こういうやり方もあるというひとつの提示になればと考えています。
――テレワークをベースとすることで、地方在住の人材も採用していく狙いがあるとしています。
まだまだ優秀な方が全国各地に眠っていると感じています。ゲーム業界で働いていたことがあり、開発におけるベースを知っていて、育児や介護などさまざまな事情で離れてしまったけれども、復職してもう一度やってみたいと考えている方もいると思います。自宅からでも働けるというところで、全国の方に手を挙げていただきたいです。
すでに優秀な人材が集まっていることも一つのアピールポイントです。転籍したメンバーもそうですし、採用が決まっているなかでも、大手で従事されていた経験もあるかなり優秀な方が集まっていますので、若い方に教えられる環境も十分にあります。即戦力の方だけではなく、若くて意欲はあるけど、いきなり上京することが不安な方、地元から離れにくいという方にもお力添えいただきたいですし、サポートしてスキルを引き上げることもできると感じています。
――テレワークをベースとした働き方で、メリットやデメリットを感じているところはありますか。
メリットは自宅で仕事ができるということで、通勤の時間がなくなることですね。CySphere立ち上げ時のメンバーは既婚者が多いのもありますが、今まで以上に家族との時間がとれることをメリットの一つに挙げていますね。
デメリットは、Cygames時代からもそこまで大きな問題はなかったですし、テレワークでの作業に慣れてきたこともあって、あまりないと思っています。
――人によるところはあると思いますが、クリエイティブに携わる方は集中するために、ひとりで作業したいというところで、自宅で作業ができるテレワークは相性がいいイメージがあります。一方で、3DCGを扱うからこそ必要な機材を自宅で用意するのが難しく、会社に出社する状況もあります。そうした機材周りは全て配送すると伺ってますが、これで解消する考えでしょうか。
その通りになります。機材についてはハイスペックなものを用意していますので、PCが遅くて作業にならないということはないです。周辺機器なども用意していますし、特にCG制作ではディスプレーの色見を気にする方も多いですが、それに対応できるものを用意して配送します。オフィスワークと遜色ない3DCG制作業務の環境を整えられます。
――テレワークでは、コミュニケーションの課題もよく聞かれますが、そのあたりで取り組んでいることはありますか。
確かに座席にいて近い環境であれば、状況を把握しやすく、困っているところに声をかけやすいというところはありました。テレワークでは、どうしても相手のことが見えにくくなることはあるので、ショートミーティングや1on1は頻度を高めにしています。ショートミーティングはほぼ毎日やっていますし、1on1はマネージャーが部下とセッティングして、こちらもほぼ毎日ですね。何らかの形で、一日一度は必ず顔合わせをするようにしています。
――クリエイティブな作業でテレワークとなると、プライベートとの境目なく働いてしまう、いわゆる働きすぎの課題もあるかと思います。
打刻なり管理の仕組みは作っていますが、前提として、自分のスケジューリングを意識して、時間を守って作業を遂行していただける方を採用していきます。今のメンバーは、仕事とプライベートをきっちりと切り替えをしながら作業を行っていますが、今後人数が増えていくなかで、そういった問題も出てくる可能性もありますので、そこは注意して見守っていきます。
――CySpherにはビジョンと、3つのフィロソフィーがあると聞いております。それぞれ設定した意図などを教えてください。
どれも私が考えて付けました。3つのフィロソフィーについて、まず「最高峰の力を結集する」ですが、これはテレワークが中心というのもありますし、ゲームのディレクターを経験して身に染みたことでもあるのですが、仕事はひとりの力でできるわけではないと。大きなことをするのであればなおのことです。力のある方がしっかり集まっていただいて、全員の力で一つのものを作り上げていくことを考えて付けました。
2つ目の「新たな領域へ挑戦する精神を忘れない」は、CGに携わる人間は、新しい領域や技術、表現について、挑戦を忘れてしまうと伸び悩みが出てくるものです。会社としても、次の領域に挑戦する意気込みをしっかり示す意味で、設定したものです。逆にいうなら、CGをやっているからこそ出てきた言葉です。
3つ目の「仕事もプライベートも最高の結果を出す」は、テレワークだからこその言葉です。テレワークで自宅での作業となると、仕事とプライベートの線引きが重要になりますが、通勤時間が無くなったことによるプライベートの時間も大事にして、充実したものにしてほしいというメッセージです。
ビジョンとなる「3DCGで世界中の人々に最高の感動を」については、CGは形になるものですけど、映像媒体を通じて見るもので、物として手元に残るものではないんです。ただ、感動する気持ちは、その人にとって長い時間残るものです。ゲームに親しんでいる方であれば、好きなゲームをプレイして、ビジュアルがすごいという感動や、ストーリーに心揺さぶられたという感動、熱中して遊んで楽しかったという感動が少なからずあって、そうした記憶は残るものです。そうした感動を提供したいという想いを込めて設定しました。
――CySphereとして求める人物像というのはありますか。
スキルも大事ですが、私が一番大切にしていることは、相手に対して敬意を持っているかどうか、ですね。これは譲れないところがあります。
CGというのは、ひとりだけの力でできるものではありません。人に教えることもあれば教わることもあります。全員でひとつのものを作り上げていくとなったときに、相手への敬意がないと置いていかれますし、そういう方に教える気持ちも下がってしまいます。相手に対して、しっかりと敬意を持ってほしいですし、そういう方を求めます。特にテレワークを主体にした働き方になると、なおのこと相手のことを考えられるかが重要で、連絡の文面一つでも大切にするというのは、とても大事だと感じています。
――ちなみに、3DCGのクリエーターに対してのマネジメントで意識していることや、他の職種とは異なる特徴はありますか。
3DCGのクリエイティブに携わっている人間からすると、最終的な成果は人の目による“見た目”で判断されるということ、その評価が大部分を占めるところがあります。いろんな工程があるなかで取捨選択しながら、最終的なイメージをしっかり作りあげて、ユーザーに見ていただくことが一番大切です。CGのマネジメント視点から見れば、決して過程もおろそかにしてはいけません。経験から来る予測と判断、ひきだしの多さこそが重要で、それらを駆使し、その見た目をいかに高められるかというのがマネジメントのポイントになると思います。成功経験だけでなく失敗の経験量も必要になる所が特徴のひとつです。
――会社における人数規模は、どの程度を見込んでいるのでしょうか。
今想定している目標では80人ほどの規模を考えていますが、ここ1年ぐらいでは、まず20人規模ぐらいまでいけるといいかなと思っています。
――今後の展望などはありますか。
最高の感動を提供する会社というのは、常に追い続けていきたい目標として掲げていきます。まずはCygamesの子会社として、CGにかかわる人員を含めた補強に取り組みます。そして、Cygamesにはさまざまな子会社がありますので、そのなかで連携を取りながらCG面でのサポートができればと。その先にはサイバーエージェントグループ、そしてグループ内にとどまらず、ゲーム業界に向けて外部の会社と取り組むといった仕事を受けること。
さらにその先となれば、CySphereとして自社コンテンツを作っていきたいというのも願望としてあります。できればゼロベースから作り上げることを、自分たちの力で試したいです。その大きな目標に向けて、何年後にどうこうというよりは、ひとつずつしっかりと段階を踏んで進めていきます。
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