拡張現実(AR)は着々と浸透している。ARが「the next big thing(次の大変革)」と言われ始めて10年近いが、その最終的な姿は予想もしないものになるかもしれない。ARメガネやスマートフォンアプリももちろんあるが、筆者が最も期待しているのは、自動車に関連するARだ。自動車には購入、教習、運転といった、ARで改善するべき分野が数多くある。自動車関連のAR技術が持つ重要性は、「Pokemon GO」などに比べてはるかに高い。
自動車を販売する段階で、ARは現実のショールームではできないことを実現する。ディーラーの店頭に、あるいは在庫のあるカラーに限定されることなく、希望のモデルを希望の場所に置いた状態で見ることができるのだ。新車を自宅の敷地内に、好きなカラーで置いてみて、そのまわりを歩けるというのは、ショールームとは根本的に違う体験になる。また、わざわざ自動車展示場まで出かけていくよりずっと気軽に、自動車を目の前に呼び出せるということでもある。ディーラーの店頭ならではというサービスもあるが、ARを使った販売前のプロセスは、最近の、できるだけデジタルで自動車を購入したいという関心の高まりともうまく合致する。
自分の自動車を理解するために、読者をばかにして書かれているかのように思えてしまうオーナーズマニュアルのページを延々とめくり続ける。そんな時代も変わりつつある。2015年に、現代自動車(ヒョンデ)はARオーナーズマニュアルの提供を開始した。車内やボンネット内部の何かにスマートフォンをかざすと、その情報が呼び出され、画面で説明してくれるのだ。
Audi、起亜、Mercedes-Benzといった自動車メーカーも、同じようなARオーナーズマニュアルを提供し始めている。まだ業界に広く浸透している段階ではないが、自動車業界でARの開発者がもっと普及し、オーナーのスマートフォンでARのサポートが充実していけば、その状況も解決されるだろう。そうならなければ、メーカーはこの点に関して顧客との関係を失い、ユーザーはYouTubeに走ることになる。
2012年、Mercedes-Benzの「Dynamic & Intuitive Control Experience」という仕組みを見せてもらったことがある。フロントガラスを1台の巨大なヘッドアップディスプレイ(HUD)と見なし、そこに周囲の情報を表示するとともに、ジェスチャーで動くインターフェースのビジュアルキューをサポートするものだった。当時は、信じられないほど未来的に感じたが、これも今ではショールームで見られるようになった。2021年モデルの「S Class」で、AR機能を採用した新しいHUDが登場したのだ。適応型のクルーズコントロールが出現し、カーブで道路の縁が強調されたり、ナビゲーションに従って右左折する地点を示す印が浮かぶように表示されたりする。目的地には、接近するとマップピンが付いたりもする。その様子は本記事内の動画の中でご確認いただきたい。
Cadillacも同じようなARの機能に取り組んでいるが、こちらは使う場所が異なっている。「Escalade」の最新モデルと、次期の電気自動車SUV「LYRIQ」では、AR機能を14インチの湾曲型OLED指示パネルディスプレイに写し出す。こちらは、フロントガラス表示と違って、ディスプレイを見ようとして視線を下げなければならない。その点に関してはやや疑問があるが、その分、画質ははるかに良い。
CadillacはARを違う形でも活用している。右左折地点に近づくなどすると、運転中のタスクについて警告する音声のボリュームが上がる。ARは、何も視覚的なものに限ったことではないという見本だ。
ARが現実味を帯びてきたのは、普及している多くの技術と同様、解決すべき問題があるところで発展するからだ。新しいテクノロジーは、問題を解決することによって、日の目を見るようになるのである。
この記事は海外Red Ventures発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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