ソニーグループ、直接つながる人を10億人へ--世界を感動で満たすためDTCに投資

「鬼滅の刃」はIPの価値を最大化することができた

 ソニーグループは5月26日、2021年度の経営方針説明を行った。代表執行役会長兼社長CEOの吉田憲一郎氏は、「Purpose(存在意義)を軸とした『感動』の追求や、『人に近づく』という経営の方向性は不変である。クリエイターやユーザーから選ばれる企業として進化を続ける」とする一方、「サービス、モバイル、ソーシャルにおける環境変化を機会として捉え、投資力とグループ連携体制を活かして、進化、成長を目指す」と発言。ソニーグループと直接つながる人を、現在の約1億6000万人から、10億人に広げる目標を掲げた。「世界を感動で満たすための投資領域のひとつがDTC(Direct-to -Consumer)。10億人はDTCにおけるビジョンである」として、長期的な目標であることを強調。達成時期については明確にしなかった。

ソニーグループ 代表執行役会長兼社長兼CEOの吉田憲一郎氏
ソニーグループ 代表執行役会長兼社長兼CEOの吉田憲一郎氏

 ソニーグループでは、「クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす」をPurposeに掲げており、吉田会長兼社長兼CEOは、そこに含まれる「クリエイティビティ」、「テクノロジー」、「世界(コミュニティ)」という3つのキーワードから、「テクノロジーに裏打ちされたクリエイティブエンターテインメントカンパニーとしてのソニーの進化」について説明をした。

 ひとつめの「クリエイティビティ」については、「感動の源泉は、クリエイターのクリエイティビティが生み出す作品である。ソニーができることは、クリエイティビティを最大限に発揮できる場や機会を提供し、作品の価値を最大限に高めることである」と切り出した。

 ここでは、作品価値の最大化を図った事例として「鬼滅の刃」をあげた。原作コミック作品を、ソニーグループのアニプレックスがテレビアニメ化し、それを劇場版へと展開。日本の劇場興行収入は400億円を超えて史上最高となったほか、米国では外国映画における公開初週の劇場興行収入の史上最高記録を達成。アニメと映画の主題歌はソニーミュージックのアーティストであるLiSAさんが歌った。「このIPは世界に広がり。今後は、ゲームへの展開を予定している。クリエイターが作り出した『鬼滅の刃』というIPの価値を最大化することができている」とした。

「鬼滅の刃」は、テレビアニメ化、劇場版、主題歌はソニーミュージックのアーティストであるLiSAさんとIPの価値を最大化している
「鬼滅の刃」は、テレビアニメ化、劇場版、主題歌はソニーミュージックのアーティストであるLiSAさんとIPの価値を最大化している
 

 また、プレイステーション向けゲームのヒットタイトルである「Uncharted」を映画化するなど、ゲームIPの映画化やテレビ番組化のプロジェクトが複数進行していることも示した。

 「そのほかにも、ソニー・ピクチャーズとソニーミュージックの連携など、IPの価値最大化に向けた取り組みを行っており、ソニーの事業の多様性は、クリエイターがクリエイティビティを最大限に発揮することに貢献できると考えている。アーティストとクリエイターの接点を広げることにも取り組んでおり、音楽事業では当社レーベルに所属するアーティストや、音楽配信会社The Orchardを通じた独立系レーベルの所属アーティストに加え、2月に買収を発表したAWALを通じて、どのレーベルにも所属せずに活動する個々のアーティストにもエンゲージメントを拡大する活動を積極化している」とした。

 2つめの「テクノロジー」では、「感動バリューチェーンにテクノロジーは不可欠である」と前置きし、クリエイター向けの「クリエーションテクノロジー」とユーザー向けの「体験テクノロジー」の両方を提供すると述べた。

 ソニーは、創業以来、音と映像の「クリエーションテクノロジー」を蓄積してきたが、そのなかから、コアとなる技術のひとつとして、CMOSイメージセンサーをあげて説明した。「CMOSイメージセンサーは、スマホのキーデバイスとなるもので、世界中のユーザーがクリエイターになることに貢献してきた。積層技術を生かして、さらなる進化に取り組む」とした。

 さらに、デジタルカメラ「α1」が8K動画撮影を可能にしたほか、最新の画像処理システムとAIを組み合わせて毎秒120回の演算処理を行い、「瞳AF機能」を鳥の瞳にまで対応できるようにしたことに触れたほか、クリエイターのためのドローンである「Air peak」、高精細なLEDディスプレイを活用した映画撮影向けのバーチャルプロダクションなどを紹介した。

 また、感動コンテンツの楽しみを提供する「体験テクノロジー」において、最大のチャレンジ」に位置づけたのが「PlayStation 5」だ。「音や映像、コントローラの触覚フィードバックによって、リアリティ、リアルタイム、没入感のあるゲーム体験を提供している」とした。

 なお、PlayStation 5については、「2020年6月から量産を開始した。当初は木更津にパイロットラインができ、その後、中国で量産ラインが動いたが、一人も現地には行けなかった。それでも量産ができたのは、連携を含めた実行力によるものだと判断している」とも述べた。

バーチャルリアリティシテスムは新たな「体験テクノロジー」への挑戦

 新たな「体験テクノロジー」への挑戦としてあげたのが、「バーチャルリアリティシテスム」である。「PlayStation VR」で培った知見を活かし、最新のセンシング技術を盛り込むことになるという。さらに、Sony AIとの取り組みについても触れ、プレーヤーの対戦相手やパートナーとなるゲームAIエージェントの開発を進めていることも紹介した。

 3つめの「世界(コミュニティ)」については、感動体験や関心を共有する人々のコミュニティを増やし、広げていく「コミュニティ・オブ・インタレスト」(感動体験や関心を共有する人のコミュニティ)への取り組みをあげた。

 アニメを世界中に届けるFunimationやCrunchyrollなどのDTCサービスや、「PlayStation Network」でのアニメ関連サービスの提供によるアニメファンとゲームファンとの連携、12カ月間で8倍にも増加し、560万人の有料会員を持つインドのSTCサービス「Sony Liv」を紹介。ゲームでは、ソニーグループ最大のDTCサービスであり、コミュニティサービスとなるPlayStation Networkに触れ、「コミュニティとしてのユーザーエンゲージメントの維持、向上、拡大が今後のチャレンジになる。『PlayStation Plus』や、『PS Now』の進化、発展に取り組む。コンテンツ面では、サードパーティースタジオやデベロッパーとの関係強化、自社スタジオでのコンテンツ開発投資、人材獲得を通じて、魅力的なコンテンツをゲームコミュニティに届ける」と語った。

ネットワークサービスの拡大
ネットワークサービスの拡大

 さらに、「モバイルとソーシャルは、プレイステーションコミュニティの発展にも不可欠になる。『Fate/Grand Order』は、アニメ関連IPのモバイルゲーム展開の代表例であり、中国でもヒットしている。こうした取り組みを、海外を含めて積極化していく。今後は、プレイステーションが持つ自社IPのモバイル展開にも一層注力する」と述べた。

 ソーシャルへの展開では、「コンテンツの作られ方などが変わるだけでなく、クリエイターがユーザーと直接つながるようになっており、次の大きなチャレンジのひとつと考えている。プレイステーションにおけるソーシャルに向けた取り組みも検討している」とした。

 ソニー・インタラクティブエンタテインメント 社長兼CEOのジム・ライアン氏は、「今後もソニーグループ内で連携し、新たな体験を届けたい。なかでも、ソニー・ピクチャーズとの連携によるゲームIPの映画化やテレビ番組化は特筆できる取り組みである。現在、10プロジェクトが進行中である。また、ソーシャルとエンターテインメントの融合にも取り組む。ユーザーのことを考え、より多くの選択肢を提供したい。すでに、実験的なモバイルゲームやアプリの提供に手応えを感じている。モバイル分野は模索している市場のひとつにすぎないが、豊富なIPを活用し、スマホゲームを作ることができるプレイステーションのフランチャイズを用いて、モバイル市場を開拓していく」と述べた。

 ここでは、「サービス、モバイル、ソーシャルは、ソニーが感動を届け、世界を広げていくには重要な要素になる。また感動を届けるためには外部パートナーとの協業が大切である」(吉田会長兼社長兼CEO)とも述べた。

 また、「ソニーグループが直接感動を届けことができるコミュニティ・オブ・インタレストのひとつひとつはニッチだが、エンターテインメントはソーシャルによって広がるようになってきた。現在、ソニーグループは、全世界で、エンターテインメントを動機として、約1億6000万人のユーザーと直接つながっている。これを10億人に広げたい。世界を感動で満たすことをPurposeに掲げるソニーグループの今後の成長のためには、10億人の動機に近づき、つながることに力を注ぎたい」と語った。

 10億人達成への道筋については、「ゲームではすでに約1億人とつながっている。いまあるものを大きくしていくこと、新たなコミュニティ・オブ・インタレストを作っていくこと、M&Aによって広げたり、作ったりするものもある。アニメやゲーム、そして地域ではインド、あるいは領域ではモバイル、ソーシャル、サービスといったところから伸ばしていく」とした。

 加えて「ソニーIDやソニープレミアムといったソニーの統合的なプラットフォームでの10億人をイメージしているわけではない。モバイルゲームはソニーがダイレクトにつながるものになるが、パートナーと一緒に届けた方がいいものもある。鬼滅の刃は、全世界で約4000万人が劇場で鑑賞した。これはソニーが直接つながったユーザーではないが、劇場というパートナーと一緒に世界に広げた。さらにこのコンテンツをほかのDTCプラットフォームで展開することもあるだろう。こうした取り組みが、10億人の実現につながるサービスになる」と述べた。

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