新型コロナウィルスが猛威をふるい、あらゆる産業のビジネスが大きな影響を受けた2020年だが、「ドローン」の領域についていえば地方出張が止まるなどの困難に負けず、さまざまな分野で新展開が見られた1年だったと言えるだろう。
今年も数多くのドローンに関連する取材をしてきたドローン専門ライターの筆者が2020年を振り返りたい。まずご紹介するのは、特に存在感を見せたANAのドローンによる輸配送だ。
ANAホールディングスは2020年にドローンによる輸配送の実証実験を繰り返し実施した。コロナ禍で本業が大打撃を受けるも、かねてより手がけてきた新規事業をきっちり進める姿勢には、ヘリコプターから始まったという“元ベンチャー企業”の気骨を感じた。
4月、新型コロナウイルス感染症緊急経済対策を受けて、厚生労働省は通称「0410対応」と呼ばれる事務連絡を行った。これにより特例的・時限的措置ではあるが、電話やオンラインでの診療や服薬指導などが初診から可能となった。
医師による診察の受診と、処方薬の授受。いずれかが直接対面のままでは、“非接触”には片手落ちだ。ANAホールディングスは、遠隔診療ニーズが高まっていることを受けて、遠隔での診療や服薬指導などと処方薬のドローン配送を組み合わせた実証実験を実施。国内初となる成功を収めた。2020年はコロナ禍における「0410対応」を機に、新たな医療様式が垣間見えた年となった。
7月、北海道旭川市では、旭川医科大学の医師が同大学隣接地にある特別養護老人ホームの患者をオンライン診察して、医師が出した処方箋をもとに同大学敷地内にある薬局の薬剤師が処方薬を調剤、オンライン服薬指導を行ったうえでANAホールディングスが処方薬をドローンで配送した。「0410対応」では、調剤した薬剤の温度管理を含む品質保持が求められているが、炎天下での飛行に備えてトッパン・フォームズがロガー付きのボックスを提供した。
11月、五島市の二次離島である嵯峨島では、福江島にある診療所の医師がアバターロボットを使って画面越しにお互いの顔を見ながらオンライン診察を実施。同様に、福江島にある調剤薬局の薬剤師がオンライン服薬指導を行い、ANAホールディングスが処方薬をドローンで配送した。ちなみにアバターロボットは、4月にANAホールディングスからスピンアウトしたavatarinが提供。ANA新規事業同士のコラボレーションとしても注目された。
ANAホールディングスは12月にも福岡県西区能古島で、セブンイレブンのネットコンビニ商品や、アイン薬局で調剤された処方薬をドローンで即時配送。注文から約20分で能古島へ品物を届けたという。この実証実験で機体を提供したACSLは、5kgペイロードの中型物流ドローン原理試作機を用いた飛行に成功したという。
ドローン輸配送という視点で産業を見渡すと、2020年は国内でも動きが活発だった。楽天は長野県白馬村で、最大1600mの高度差がある場所で目視外でのドローンによる物資配送に成功した。神戸市六甲山でも山上へのドローン配送実証実験が行われ、“空飛ぶクルマ”で有名なSkyDriveが最大10kgまで積載可能な物流機体を提供した。
ところで、ドローン輸配送のニュースでよく見かける「レベル2、3、4」という分類について、改めて確認しておきたい。いま日本では2022年度中のレベル4解禁に向けて、新たな制度が検討されている。各企業はこれをマイルストーンとしており、2020年もレベル2や3の環境下における実証実験で技術開発に磨きをかけた。2021年も官民の動きはさらに活発になるだろう。
レベル2とは、ドローンの機体を操縦者あるいは補助者が視認できる範囲での飛行。レベル3とは、ドローンの機体を目視では確認できない状況下での、無人地帯に限った飛行だ。そしてレベル4とは、人がいる上空での目視外飛行で、2022年度中には飛行可能となるよう制度が整備されている。つまり、レベル4が解禁されて初めて住宅地や都市部における飛行が可能となり、ドローン輸配送ビジネスが現実味を帯びてくるというわけだ。
いずれフードデリバリサービスで注文した料理が、ドローンで配送される日も訪れるだろう。しかし、都市部でのサービス提供は、きっとずっと先の話。まずは、ANAが進めてきたような海上ルートを飛行する離島地域をはじめ、万が一の墜落にも被害を最小限に抑えられ、社会課題の解決が急がれるエリアで、2022年以降にサービス提供が始まると見られ、2021年はそのための最終準備段階の年となるだろう。
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