建設業界DXの現在地--「DX銘柄2020」選出2社が始めたこと、止めたこと - (page 2)

Q6:DX推進によって、新たに生まれてきた課題は。

真下氏:自動化や機械化を進めると、裏の仕組みがわからなくなってしまう。効率は上がるが、どういうやり方が一番いいのかをきっちり考えていないと、作業がブラックボックス化してしまう。

 また、データが取得できるようになり、分析していくと新たな気づきがあり、さらにデータが欲しくなる。しかしそれはデータを集める仕事を作り出している可能性もある。デジタル化を進める際に気をつけなければいけないポイントだと思っている。

佐々木氏:現場発の取り組みは効果を実感でき、活用の度合いが高いが、インフラとして整えたときに、数多くある現場のセキュリティをどうするのかが課題。これは絶対解決しなければいけない問題だと認識している。現時点では現場のセキュリティレベルを保ち、細かなルールを決めて運用している。

鹿又氏:新たなシステムを使用する数が増え、アプリの使用率が上がれば、通信速度やハードウェアのスペック不足が浮き彫りになってくる。すでにこうした声はあがり始めている。

Q7:DXを推進する上で必要なものは。

真下氏:DXは手段の1つなので、目的をきちんと定めること。何をするためにしていることなのかを忘れないようにしたい。もう1つは、事業としてどう貢献していくかを考えておくべき。DX前に比べて環境がよくなるのは事実だが、それにはある程度の投資をしないといけない。その投資に対して、どう貢献していくのは突き詰めないといけない。

 新規事業も同じだが、デジタルで稼げているわけではない。本当はデジタルで収益を上げる形にしなければいけない。ビジネスをする上で何が必要なのかブレイクダウンして進める必要があるが、私たちはあまり得意ではなく、ほかの業界の方のほうが得意。そういう方と一緒にビジネス起点でDXを考えたい。

佐々木氏:やはり、DX推進そのものを目的にしないこと。社内でアンケートをとったときに「効果が実感できない」という声も上がった。効果が実感できるものを提供していくことがDXの推進には必要で、そのためにアンテナを張っておくことが重要だ。

鹿又氏:私たちのDX推進は専門の部署を立ち上げたわけではなく、数年前から自然発生的に起こっていた動きを集約したもの。有効な技術に敏感な最前線の存在は不可欠だと考えており、その存在を許容する社風が必要だ。もう1つは「新しいものに飛びつかない」こと。裏を返せば、スクリーニングにきちんと時間をかけられる時間軸の許容が大切。「急がば回れ」はあると思っている。

Q8:建設DXの未来はどこに向かっているのか。

真下氏:私たちの仕事は、お客様と社会に対して生活や働く空間=場を提供し、それをよくしていきたい。そう考えると提供するものはハードだけではなく、ハード×デジタルというのが、DXを進めた先にあると思っている。場を作り出す手段として建設の行為があり、その作り方を新しい技術とデータを使って高めていく。そのためにたゆまぬ努力をしていかなければならない。

佐々木氏:DXの未来となる山頂を探しているところではある。私たちの仕事は快適な空間の提供で、それを作る過程に建設がある。将来的には、建築物のプラットフォームのようなものができ、それに各社が相乗りして独自のシステムになるようなことが起こってくるのではないか。デジタルでの取り組みがそうしたツールになればいいと思っている。

鹿又氏:大きく目指すのは2つの山。1つは現在のビジネスモデルをより洗練、進化させる。建設業に携わる就労人口が減少する中、外国人労働者の方が増えたり、ほかの業種から入ってくる人もいる。そうした人が安心して働ける現場にしていくこと。

 もう1つは、私たちが提供するのは空間に違いないが、いずれはDXの力を借りて、ユーザーエクスペリエンス(UX)の形で、インタラクティブな空間提供につなげる。おぼろげながらこの2つの山が見えている。

Q9:共創していく上でスタートアップに意識してほしいことは。

真下氏:スタートアップの方と鹿島建設とでは、文化、考え方、アプローチの仕方がだいぶ違う。しかし2つのものが混じり合い、重なる部分がなければシナジーは出ない。そのためお互いが近づくことが大切だと思っている。スタートアップの方に比べると動きが遅かったり、意思決定に時間がかかったりすることは事実。しかし、私たちは実証実験のためのフィールドを提供できる。

 お互いのやり方を理解し、小さな成果を出しつつ、全体を見通せる大きなストーリーの中で目の前の一歩を組み立てていきたいと思っている。両社で新しいものを作っていこうという関係づくりが大切だと思う。

佐々木氏:スタートアップの方との関係づくりはやり始めたところ。それほど経験があるわけではないが、実感したのはスピードと担当者が持つ権限の違い。お互いが歩み寄りながらやっていく必要がある。

鹿又氏:現場から上がってくる事例の中にもスタートアップの方とのコラボがあった。現場使われていたシステムの問題点などの改善を迅速にやっていただけて、大変ありがたかった。これにより、その後の普及スピードも変わってくる。

単独でできた時代は終わり、DXを加速するのは共創

 2社によるリアルなDXの取り組みからスタートアップとの関係づくりまで、話しが広がった今回のパネルディスカッション。桜井氏は「建設や不動産、金融といったリアル産業の未来はアップルなのではないかと考えている。どういうことかというと、スマートフォンにもハードとソフトの側面があり、OSやアプリがアップデートされて便利になる。一定周期でハードも改善され、進化していく。建設の現場においても、今までオフィスや店舗だった場所が新たな使われ方をしはじめるなど、ハードは変わらずソフトが進化していくような動きがある」と説明した。

 最後に真下氏は「やれること、やりたいことはたくさんある。単独でできた時代は終わり、いろいろな特徴を持っている会社とシナジーを作ることが大切。だからこそ未来ができる」と関係作りに積極的な姿勢を見せる。

 佐々木氏は「先進的なことばかりではなく、地道な取り組みでもDX推進の効果が出ることを理解してほしい。さらに進めていこうとすると自社だけではできない。新たな取り組みを一緒にできる人を探したい」と、新たな広がりを目指す。

 鹿又氏は「建設業界は3Kと言われ、敬遠する人もいた。これからはこうした人たちにも魅力を感じるようになっていただければと思う。DXはそのためのツールであるという認識で推進していきたい」とした。

 オンラインイベントには、国土交通省 不動産・建設経済局長の青木由行氏、経済産業省 商務情報政策局情報技術利用促進課 課長補佐の宮本祐輔氏らも登場。オープニングメッセージに登場したデジタル改革担当大臣の平井卓也氏は「建設業界のDXは正直に言って遅れている。だからこそ、鹿島建設やダイダンのように果敢にチャレンジしてもらいたい。徹底的に国民目線ですべてのシステムを見直すのがデジタル庁の考え方で、これは一般企業にも通じること。日本にはポテンシャルがあり、今後必要なのは決断と覚悟。政府とともにがんばっていただきたい」とコメントを寄せた。

「建設業界におけるDXの今後の方向性」をテーマにパネルディスカッションを実施した
「建設業界におけるDXの今後の方向性」をテーマにパネルディスカッションを実施した

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