洋菓子ユーハイムは11月30日、世界初のバウムクーヘン専用AIオーブン「THEO(テオ)」を発表した。画像センサーを搭載し、焼き色を見ながら用意されている材料を使ってバウムクーヘンを焼成する世界初のAIオーブンで、2021年より実証実験を開始する。
THEOは高速電装イメージセンサーを搭載し、職人の生地の焼き具合をAIが再現する。芯棒に生地をつけてオーブンの中に入ると扉が閉まり、数分焼く。焼き上がったら扉が開き、焼成過程にあるバウムクーヘンが出てくる。画像センサーが焼き色を見て、次の層の生地をつけて再びオーブンへ。これを繰り返しながら、30分ほどで1本を焼き上げる。機械学習を利用することで、職人が5~10回焼けばその職人の焼き方を学習すると言う。
単にバウムクーヘンを焼くだけでなく、遠隔操作もTHEOの特徴となる。上部に遠隔操作のためにアバターイン(Avatarin)と共同開発したアバターを搭載しており、すでにユーハイムの滋賀工場と愛知三河安城の工場での遠隔操作の実験を行なっている。これにより、将来的に菓子店の間の遠隔操作や消費者によるアバターを使った焼成体験などが可能になるという。
今後の展開としては、2021年3月4日に名古屋市にオープン予定の「BAUM HAUS」で、THEOが焼いたバウムクーヘンを販売することを1つのマイルストーンとし、2021年初めより実証実験を開始すると言う。
ユーハイム 代表取締役社長の河本英雄氏は、開発の背景について2015年に訪問した南アフリカでスラム街の子供たちに出会ったことから、地球の裏側にお菓子を届けたいという思いがあったと語る。
合わせて、以前からユーハイムが課題と考えていた食品添加物の排除も後押しした。同社は2020年3月に「純正自然宣言」として、加工材料から添加物を排除する方針を打ち出している。「量産に役立つ添加物を使うことなくどうやって量産するかというテーマがあった」と河本氏は説明する。それは、添加物を使う前の時代の職人の技術を復活させることでもあった。
THEOは同社に40年勤務した職人のデータから学んでいる。最初は後ろ向きだったというこの職人も、収集したデータを見ると、予想していたほど焼けていなかったことや、材料の状態により焼き方を変えた方がいいなどのことがわかったことから、姿勢が大きく変わったという。「職人技術とテクノロジーの親和性は高い。二つを掛け合わせた過程を経ることで、お菓子が格段に美味しくなる」(河本氏)
THEOの潜在性として、アバターインとともに進めるテレポーテーション技術を利用して当初の目標である南アフリカにバウムクーヘンを届けることに加えて、美味しさの改善、さらには地産地消と職人の技術の結びつきなどにも影響を与えることができると見る。また職人のレシピがデータ化され知財化されることで職人の地位向上、さらには職人ネットワークの構築にもつながると河本氏は語った。
河本氏は最後に、ここ数十年を化学の時代とし、そこでの自社の姿勢を「添加物を取りこむ流れに対してどう防御するのか」だったと説明する。これからの工学の時代では「攻めでやっていきたい」と述べた。
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