出前館はUber Eatsの夢を見るか--両者の戦略からみるフードデリバリービジネスの未来 - (page 2)

GIG WORK or OUT?

 認知度向上の一方で苦境へ陥る出前館が夢見るUber Eatsだが、Uber Eatsが標榜する個人事業主スタイルの配達モデル自体に関して、そもそもどの程度ビジネスモデルとして持続可能性があるのだろうか。

 Uber Eatsが求める配達員の本来のスタイルはギグワークであることは論を待たない。本業の隙間時間に「せっかく暇な時間があるのであれば、移動がてらちょっと配達しようか」という「ついで」のニーズを取りまとめることで、配送コストを抑え、安価なデリバリーを実現するというものである。

 しかしながら、これまでのUber Eatsの方針としては、業務委託でありながら専業的に多くの時間を稼働してくれて、Uber Eats側のニーズに応じた配達を行ってくれる配達員を中心に集める戦略を遂行していたと考えられる。それは例えばUber Eatsで配達員に提供される数々のボーナスに表れているだろう。

 たとえば、「シミ」と呼ばれるボーナスもその一つであろう。シミとは、地図上に現れるヒートマップを指しており(それが染みのように見えることからそのように呼ばれている)、注文が集中していたり配達員が不足していたりするシミが発生しているエリアにおいては、通常の配達料に加えてボーナスが加算されることとなる。これは当然ながら専業的にUber Eatsの配達を行っている配達員に対して、他エリアからシミが発生しているエリアへ集まってきてもらうための合図であることは明白だ。

 このほかに「日跨ぎクエスト」と言われるボーナスも展開している。これは、一定期間の間に指定された回数の配達を実施すると、その分ボーナスが追加されるというものである。クエストの目標値とされる配達回数には100回を超えるものもあり、当たり前ではあるがそのような回数をギグワーカーがこなすことはできず、専業配達員による対応を想定したボーナスとなっている。

 Uber Eatsのビジネスモデル自体が、本来ギグワーカーを前提として構築されていたものの、足元の環境を踏まえた業務委託で、かつ専業的に配達を行ってくれる配達員にシフトしていくこと自体、配達員が確保され続ける以上問題はなく、ビジネスモデルとして成り立っていると言える。しかしながら、今般のUber Eatsにおけるシステム仕様変更により、そのビジネスモデルに綻びが生じているのではないかと思わせられる状況となっている。

 Uber Eatsにおいて専業的に配達を行う配達員が求める平均的な時給は換算1500円前後(500円/配達×3件/時間)と言われている。国が定める東京都の最低賃金が時給1013円であることを考えれば、個人事業主として活動する配達員にとって1500円は決して高い金額ではないだろう。ただし、1回の配達料として500円が発生すると考えるとその見方は変わってくる。Uber Eatsの収支モデルを前提に以下考えてみよう。

<Uber Eats収支モデル>

  ユーザーからの収入 店舗への支払 配達員への支払 決済会社への支払 収益
購入商品
ハンバーガー
1000円 ▲650円 - - -
配達料 200円 - ▲500円 - -
サービス手数料 100円 - - - -
決済手数料 - - - ▲30円 -
1300円 ▲650円 ▲500円 ▲30円 120円
売上高総利益率 9%

※Uber Eatsの手数料率は商品代金の35%
※決済手数料を3%と仮定

 この前提に基づけば、仮に現在Uber Eatsが出前館の2倍の売上高(約200億円)を実現していた場合でも、売上総利益は約18億円となり、この金額でユーザーに対する割引クーポンコストや各種プロモーションコスト、人件費などすべての費用を賄う必要が生じてしまう。(参考までに、出前館ではCDO就任前年時点の広告宣伝費で16億円強を拠出している。なお、CDO就任後の広告宣伝費は39億円)。

 そして、このような状況下、Uber Eatsは収益改善のために大きな仕様変更を断行した。先述のシミおよび日跨ぎクエストの制度を廃止したのだ。これにより、専業として配達を行っていた配達員の収益が時給換算で1200円(400円/配達×3件/時間)程度に下落、最早最低賃金と変わらない金額水準にまで落ち込んでしまっており、従来のような配達を諦める配達員が増加している状況となっている。

 しかしながら、仮にこの状況においてギグワークとして対応可能な配達員が増加し、売上高が変わらずに従来通りの配達を実現できた場合、下記のとおりほぼ2倍の収益率を実現するのである。

【Uber Eatsの収益】

  ユーザーからの収入 店舗への支払 配達員への支払 決済会社への支払 収益
1300円 ▲650円 ▲400円 ▲30円 220円
売上高総利益率 17%

 これが実現すれば、Uber Eatsの収益率は大幅に改善し、ビジネスモデルとしても十分に成立するものになると考えられる。

 しかしながら、本施策により現在のUber Eatsの中核を担う個人事業主を切り捨て、従来通りの配達環境を維持し続けられるのかどうかは未知数であるため、今後のUber Eatsの施策に注目していきたいと思う。そして、このような状況を見た上で、出前館が後追いするUber Eats型の配達モデルについては、やはり明るい未来が見えるものではないと言えるであろう。

フードデリバリーに未来はあるのか?

 ここまで述べた上でまず思うことが、そもそもフードデリバリーサービスに未来はあるのだろうかという点だろう。直接雇用でも個人事業主でも難しいとなった先にフードデリバリーの可能性は残っているのだろうか?

 筆者の答えは「YES」である。そして、Uber Eatsは既にそのための一歩を踏み出していると言えると考えている。即ち、専業的配達から本来の「ついで」的配達への回帰である。専業的配達で生じていた配達料の問題に対して、「ついで」的配達であれば、何かをやるついでに配達をしてあげるというものになるため、従来の配達料に縛られることはなくなるだろう。

 また、Uber Eatsが新たに始めている取り組みとして「チップ制度」が挙げられる。従来の日本の制度においては、「ついで」に何かの対応を行った場合、ボランティアとしての対応と見られることが多く、そこに対価性を見出されることは多くなかった。そこにおいて、今回Uber Eatsが取り組むチップ制が日本に根付くことで、本来あるべき「ついで」的配達が成り立つ可能性が高まっていくものと考えている。

 「ついで」に何かを運んであげて、それに対して「チップ」としてお礼を渡す。このような仕組みが実現すれば、フードデリバリーの未来は明るいと言えるのではないだろうか。


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