新型コロナウイルス感染拡大防止のため、各社が2~4月にかけて急遽開始した在宅ワーク。「働き方改革」に伴い、業務の中にリモートワークを取り入れていた企業もあったが、突然にそして十分な準備期間がなく踏み切ったというケースも多かっただろう。
準備期間がなく在宅勤務をスタートしたのは、自宅も同じ。旭化成ホームズでは、急増した在宅ワークの実態について調査を実施。その報告書をまとめ、「『ワーク・ワークバランス』を保つ新たな暮らし方を探る」をテーマにオンライン記者勉強会を開催した。
調査はウェブアンケート形式で実施。4月3~8日に全国の就業している20~69歳、3万5816名を対象にスクリーニング調査を行い、その後、4月10~13日に、スクリーニング調査で在宅ワークを実施している人でかつ希望者に向け本調査を実施した。そのうち、戸建持家の人が計1971名、集合賃貸の人が計1837名となり、今回は戸建持家の人の回答を中心に解説した。
なお、調査前となる3月17日には休校が開始され、4月7日には一都三県と大阪、兵庫、福岡に向け非常事態宣言、4月17日には全国的に非常事態宣言の発令となり、調査は非常事態宣言の間で実施されたことになる。
旭化成ホームズ くらしノべーション研究所顧問の松本吉彦氏は「住宅居室には『居』を過ごすリビング(L)、『食』事をするダイニング・キッチン(DK)、『寝』る寝室と3つの機能があり、これに『仕事』が加わると、どこが在宅ワークスペースになるのか、選択肢はいろいろある」とし、LD派41%、寝室などの個室派54%になったという結果を示した。
松本氏は「LDか個室かは、住宅内の個室の数が影響している。5LDK以上の家では専用個室が作りやすいため個室派が多く、4LDK以下の家ではLD派が半数を占めた。自分専用の個室があるという人も3割程度に上る」と内訳を話す。
年代別では、40代以下の女性にLD派が多く、50代以上は個室派の傾向が出ている。「これは、子どもが独立して部屋が空き、専用個室を確保できる環境にある人が多いため。女性40代以下のLD派は、家事空間が近くにあるほうが効率的なのかもしれない」(松本氏)と分析する。
調査の中では、在宅ワークを実施した人の生の声として「リビングで仕事していると子供が遊んでいる姿を見守りながら出来るので育児と両立できる」や「キッチン、浴室と近いので家事と両立しやすい」などを紹介。一方、個室派は「家事の動線から離れている場所であること」と家族と離れたり、集中できる仕事環境を整えることで「こもり感が有り、仕事に没頭できる」などの意見が上がった。
実際、在宅ワークの内容を尋ねるとPC作業、手書き、資料を拡げるなどの個人ワークと、ウェブ会議や電話といったミーティングが主になっているという。
在宅ワークのメリットとしては、LD派、個室派ともに「家族と過ごす時間が増える」「自由な時間やタイミングで仕事ができる」などを挙げる人が多く、「家族時間増」と「家事並行」に貢献している。さらに「地震、火事などの災害時に対応しやすい」「空き巣など防犯上のリスクが減る」など、「防災防犯」面でも安心感を得ている人が多いことがわかった。
デメリットとしては、「日常生活との切り替えがしにくい」「常に仕事のものが目に入ってしまう」など、仕事と日常の切り替えに苦労している人が多く、これは女性のほうが感じやすいという結果が得られた。
こうしたことから、LD派は生活空間との融合、個室派は生活空間との分離を求めており「実際にはどちらの要素も必要。バランスをとることが課題」(松本氏)とした。
くらしの変化についてもまとめた。くらしの時間的比重が職場から家庭にシフトしたことによって、増えた時間のトップは「家族と過ごす時間」。そのほか、睡眠や自由時間も増加傾向にある。ただ、仕事の時間が増えたという人も4分の1程度いた。一方、減った時間では「職場の人とのコミュニケーション」がトップ。「日々の運動量」と答えた人も多かった。
変化がはっきりと現れたのが「夕食開始時間」だ。オフィス通勤から在宅ワークに変わったことで、夕食の時間は帰宅後20~22時台から18~19時台に、平均で57分早まったとのこと。「特に小学生以下のお子さんがいるご家庭でこの傾向は顕著に現れた。面白いのは、仕事の時間が増えているにもかかわらず、夕食の時間が早くなっている人がいること。それは家族と食事をしてから、また仕事をするというスタイルがでてきているからだと考えられる」と松本氏は解説した。夕食の時間は早まる傾向にあるが、就寝時間は23時台とあまり変化は見られなかった。
今回の調査では、家族構成についても言及。二世帯住居では、キッチンが2つあり、世帯別に夕食を取る二世帯と、キッチンが1つで、両世帯一緒に夕食をとる二世帯の2つを比較。小学生以下の子供がいる世帯はダイニングテーブルで仕事をするLD派が多い一方、キッチンが1つで親と同居している家庭では、共用のLDKでは仕事がやりにくいためか、個室派が多くなっているとのこと。
また、夕食の時間も親と同居しキッチンが1つの家庭では、親に合わせて夕食をとるためか夕食時間がより早まる傾向にあったという。
調査結果から、在宅ワークになると夕食時間が早まり、生活リズムが正常化してきているとのこと。「通勤していると帰宅時間で生活のリズムが決まるため、ズレが生じるが、在宅ワークでは家族によって生活リズムが決まるため、夕食時に家族がそろう。これだけでも在宅ワークのメリットは非常に感じられるのではないだろうか」と松本氏はまとめた。
今回のテーマになっているワーク・ワークバランスとは、働くことによって対価を得られる有償の仕事と、家事など無償の仕事のバランスという意味。「自営業を除けば、有償労働と無償労働の配分は、仕事の時間を減らし、早く帰宅すれば、無償労働の時間に割ける。ところが今回の新型コロナ感染拡大を受け、一部で急速に在宅ワークが広がった。それに伴い新たな課題が露出した。有償と無償の配分は自分で決められる。むしろ自分で決めなくてはいけない。時間と空間の両面で自分が決める余地が大きくなっている」と、立命館大学 産業社会学部教授 社会学者の筒井淳也氏は説明する。
筒井氏は今回の調査結果を受けて「在宅ワークによって夕食の時間は早まったが、就寝時間は変わらない。夕食後は家族とのコミュニケーションや家事、または仕事の時間として使われている。在宅ワークによる大きな影響は通勤時間の削減により生まれた時間。家事や仕事、自由な時間は自分の裁量によって割り振りができるようになってきた」と感想を述べ、今後の暮らしに求められるのは、柔軟性やゆとりだとした。
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