世界72の国と地域にアクセスできるグローバルネットワークを持つ総合不動産企業リストが、不動産価値の見える化に乗り出した。営業担当者による経験と勘による部分が大きかった不動産価格の算出を、専用ウェブサイトにアクセスすることで、数十秒で導き出す「mAI List(マイリスト)」を開発。5月27日からサービスを開始した。
経験回数が少なく、大きな金額が動く不動産の購入、売却は、かなりの決断力が必要になる。誰が言っている金額が正しくて、損をせずに買ったり、売ったりできるのか。そうした疑問と不安をAIとビッグデータを使ってmAI Listが解決する。
リストは日本をはじめ、ハワイ、アジアなどの高級不動産取引を数多く手掛けてきた不動産会社。富裕層をターゲットにしているため、高価格帯の不動産の資産価値を確認したり、売買をしたりといった機会も多いという。
「従来、不動産を売却しようとすると複数の不動産会社に問い合わせ、 物件の特徴や詳細情報など同じことを何社にも伝え、 その中から最も条件がマッチした不動産会社に売却を依頼する。そうした手間がお客様には負担だった」とリスト IT事業部執行役員の船津修一氏は、不動産売買の難しさを説く。
「金額が大きい物件は事例も少なく、査定に時間もかかり、いくつかの不動産会社とやりとりをしていると何週もの週末がつぶれてしまうこともある」(船津氏)ほど、不動産売買のハードルは高い。このハードルを下げるために、不動産査定をするサービスはすでにいくつか登場しているが、リストが主力とする高級不動産は、データ量が少なく該当しないこともあるとのこと。「物件のボリュームが少ない分、データベースを使って査定すると実際の金額とブレが出てしまうことがあった」と船津氏は現状を話す。
そこでmAI Listでは過去10年の不動産取引情報とAIから不動産価格を査定する他社のシステムにリストが持つ過去の取引データをかけ合わせることで、独自の不動産価格査定システムを構築。現在から30年後までの物件推定成約価格や、貸し出した場合の推定利回りを算出する。
「従来の査定システムでは、物件名、販売価格、所在地、専有面積などを入れることで平均価格を割り出せるが、高級不動産にはこれらの条件に加えて、マンションブランドや立地、建物に関する歴史などを加味することで、価格が大きく変わってくる。単にデータを使って算出するだけではあらわれない価値を加えることが必要」とリスト IT事業部 課長代理の松村知幸氏は独自データの重要性を話す。
今回、過去10年分の取引データを投入しており、「精度はかなり高い」と松村氏は自信を見せる。リスト内に実取引の記録がなくても、似ているであろう物件をもとに算出し、予測値を提示。幅広く活用できるようになっている。
松村氏は「通常、営業担当者が算出した価格を元に売買が成立するが、お客様の中には『本当にこの価格でよかったのか』と疑問が残ってしまう方もいる。それはほかに比較するものがないから。mAI Listがあれば、営業担当者が提示した価格に対しての客観的なデータになる。それがお客様の味方になるはず」と、従来の提示額を補完する材料になると位置づける。
船津氏も「不動産は営業担当者が個別にお客様とやりとりし、関係を築きながら売買契約に結びつく。しかし、IT化によって不動産価格の可視化が進む今、透明性の観点から本当にその形だけで良いのかという気持ちはある。現在も試行錯誤は続くが、不動産会社の仕事をIT化していく上ではやらなければならないこと。もちろん、お客様と営業担当者の間で、最終的な売買価格が前後することもあるが、そこは機械ではできない業務なので、人間の仕事だと思っている」と続ける。
ユーザー側は、知りたい物件情報を入力することで、簡単に不動産価格の予測値がわかることがメリット。検索した物件は「マイリスト」として、リスト化でき、複数の不動産を所有している人でも、使いやすくなっている。
ユーザーターゲットは、都心の一等地に住み、非居住用不動産なども所有するいわゆる富裕層。「複数の物件を所有するユーザーが多いため、資産の入れ替えや、所有不動産の価値を一覧化できる仕組みがなく、全体像を把握しづらいと感じているお客様は多い。そうしたお客様向けとしても、資産をウェブサイト上で一度に確認でき、さらにその価値をその場で確認できるメリットは大きい」(船津氏)と管理面からの需要にも期待する。
さらに船津氏は「mAI Listの登場により、お客様と営業担当者のコミュニケーションが変わってくるように思う。今まではお客様と不動産会社が1対1の関係だったが、これからは、付き合いのある不動産会社が持っている不動産だけでなく、さらに広い視野で探せるようになる」と続ける。
現在、ウェブページからのみの提供になるが、「スマートフォンアプリでの提供も早めに取り組みたい」(松村氏)と、より使いやすい環境の構築を目指す。今後については、海外不動産の取扱数を増やすなど、リストならではの展開を見据える。
「高級不動産は物件ボリュームが少ないため、不透明な市場になりやすいが、そこの部分をmAI Listで変えていきたい。不動産会社とお客様との密なコミュニケーションに加え、幅広い視野で物件を売買できるようになれば、海外投資家の方が日本の不動産を見る目も変わってくる。そうした新しい市場を築いていきたい」(船津氏)。mAI Listは2020年内に1000人へのサービス提供を目指す。
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