世界最大のARコミュニティAWE Niteの東京支部であるAWE Nite Tokyoは、4月30日にトークイベント『イチから学ぶ、「AR×5G」が描く未来』を開催した。初のオンライン開催だったが、connpassでイベントを公開した直後から申込が殺到し、段階的に増席するなど、注目の高さが伺えた。
3月下旬、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクが、5Gの商用開始を相次いで発表した。6月には楽天もこれに続く見通しだ。大手テック各社がARグラス開発も進めるなか、「5GがARそして未来の社会をどのように変えるのか」は、まさに旬の話題だった。
ちなみに、AWE(Augmented World Expo)は、世界最大のxRカンファレンスだ。AWE Niteには、サンフランシスコを始めとする世界10カ国にローカルチャプターがあり、互いに連携して活動しているという。
本イベントは3つのセッションで構成。日本の「AR×5G」領域で活躍する豪華メンバーが、5Gの現状や「AR×5G」による次世代エンターテイメントの可能性を語った。また、AWEの創業者であるOri Inbar(オリ・インバー)氏もニューヨークから登壇。海外の動向やユースケースを語った。本稿ではイベント全体を俯瞰してレポートする。
最初のセッションでは、NTTドコモ イノベーション統括部 クラウドソリューソン担当 担当部長の秋永和計氏が5Gの概要を解説し、MESON プロデューサーの伊藤淳氏が実際に「AR×5G」を試用した所感を共有した。
秋永氏は、「5Gは、高速大容量、低遅延、同時多数接続という特徴があり、影響を与える産業は多岐に渡る。このため、各社ともパートナーと“協創”して、適用領域を模索している。特に、映像表現領域において、xRへの期待が高まっている」と5Gのトレンドを説明した。
「2Gで写メ、3Gでムービー、4Gではリアルストリーミングがキラーサービスとなった。次は何かと考えたとき、ARやVRでこれまでなかったような映像表現をできることへの期待は大きい」(秋永氏)。
これを受けてMESONの伊藤氏は、ARグラスを装着した新たなスポーツ観戦体験を実現するプロジェクトにおける、5G試用の体験談を共有。5G通信環境下ではわずか10分間で、端末の温度が10〜15℃上昇、バッテリーは約20%消費したほか、通信接続も不安定だったという。「まだ暴れ馬的な技術だ」と評した。
一方で、5Gの圧倒的な通信速度には「感動した」という。Google Playの温度チェッカーアプリをインストールして、1秒以下でダウンロードが完了したときには、5GによるAR発展の可能性を大いに感じたそうだ。「5Gの速さなら、ネイティブアプリ相当の機能に、ウェブページくらいの気軽さでアクセスできる」(伊藤氏)。
伊藤氏の着目点はこうだ。「ARやVRの開発では、機能が豊富なネイティブアプリはコスト面などで利用ハードルが高く、手軽に利用できるWebARでは機能面が不足するという課題があるが、5Gはこれを一気に解決する可能性がある。新しい機能にシームレスに接続できれば、体験は全く違ったものになる」。秋永氏は「5Gは今後もどんどん進化する。従来のアーキテクチャをいかに変えていくかなど、繰り返し使って検証いただきたい」と呼びかけた。
次のセッションでは、「AR×5Gで変わるエンターテイメント」というテーマで、Graffity CEO 森本俊亨氏と、ENDROLL CEO 前元健志氏が登壇した。
Graffityは「ペチャバト」や「HoloBreak」など、スマホを使ったARシューティングバトルを中心に開発している。森本氏は「5Gが必要になるのは、大人数が参加する大会やイベント。新しいeスポーツの形を作っていきたい」と今後の取り組みに意欲を見せた。
ENDROLLは、名古屋グランパスエイトの本拠地である豊田スタジアムで、KDDIの5G回線と、KDDIが提供予定のARグラス「NrealLight」を掛け合わせた実証実験を行う計画だ。前元氏は「ユーザーがプレイしたときの反応をつかむことが重要」と話し、内容は企画中とのことだが狙いは明確だ。
「AR×5G」で、エンターテイメントはどのように変わるのだろうか。両氏は、リアルイベントでのインタラクティブ性向上や、街全体をフィールドにしたゲームの日常化を挙げた。一方で、「将来の変化は予測できない。トライあるのみ」だと口々に語った。
たとえば、4Gで「動画を見る」ことは予測できても、「電車でYouTubeを見ながら通勤するようになる」ことは想像できなかったように、ユーザーの行動変容は予測不可能。さらに、5Gによってユーザーからのアップロードが増えて、ゲームのコンテンツ生成プロセス自体が変化するかもしれないという。「何を提供できるかではなく、どういう行動変容が起きるのだろうかという視点で、ひたすら仮説検証と実証実験を繰り返さなければ」(前元氏)。
さらに話題は、ARスタートアップのビジネス戦略にも及んだ。両者の意見はやや異なり、お互いから学ぼうとする姿が印象的だった。「5Gの提供はまだ限定的なので、大企業と組んで実証実験をするのが現実的だが、それではスケールしない。主幹事業としてモバイルARを伸ばし、5GにはR&Dとして取り組むなかで、できることとできないことを把握し、ノウハウを蓄積する」(森本氏)。
「ARが爆発的に普及する未来は確実にやってくるが、時間がかかるし段階的には成長しない。1社だけで成長戦略を描くより、大企業や地方自治体、アカデミアなどからも必要なリソースを獲得し、ビジネスを共創していくことが重要。アセットを貯めながら、キャッシュ・カウを作るビジネスモデルを作りたい」(前元氏)。
最後のセッションでは、AWEの創業者であるOri Inbar(オリ・インバー)氏が登壇。Ori氏は米国の大手電気通信事業者ベライゾン主催のコンペティション5Gチャレンジで、上位3位をxR関連企業が占めたことを例に挙げて、米国でも「AR×5G」の注目度は非常に高いと説明した。
Ori氏は、5GによるAR技術の進化についても解説。「ARは通常かなりの処理とレンダリングが必要だが、5Gの帯域幅と低遅延によって、クラウド上で遅延なしに処理を実行しながら、ミリ秒単位でデバイスにコンテンツを送信できるようになる。その結果、スマートグラスなどのデバイスが小型化し、コンシューマーゲームからエンタープライズ製品まで、幅広い分野で機器の採用が進むだろう」(Ori氏)。注目されるユースケースとしては、Google MapのAR機能や、AR版Minecraftを例示した。
当日は、ニューヨークから参加したOri氏。新型コロナウイルスがAR業界に与える影響について、ポジティブな面を捉えていた。「多くの人が在宅で働くようになり、ARやVRも含むオンラインツールを取り入れて、他者と遠隔でコラボレーションする機会が創出されている。新しいテクノロジーが普及した際の心理障壁低下につながるだろう」(Ori氏)。
当日の配信はZoomだったが、質疑応答はZoomチャットではなく、Slidoとslackを活用した。Slidoには、質問を見た他の参加者が「いいね」する機能や、「いいね」が多い質問が自動的に上位表示される機能もあって、大変効率的だった。
最も「いいね」を集めた質問は、「マジックリープは販売されるのですか?」で、現段階では販売予定とのこと。時間内に回答できなかった質問は、AWE Nite Tokyoのslackコミュニティで、登壇者から順次コメントが寄せられたほか、新たな問いやアイデアも生まれている模様。
本イベントは、「AR×5G」という未知なる未来をテーマに、登壇者と参加者の一体感があり、熱量の高いウェビナーとなった。テーマの旬度や登壇者の顔ぶれはもちろんだが、様々なツールを活用してコミュニケーションの最大化を図る仕掛けが功を奏した好事例ではないだろうか。
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