218万円のモデル。試着するための予約。Vogueの表紙への掲載。2015年に登場したとき、「Apple Watch」はフィットネストラッキングデバイス以上のものだった。ファッションアイテムであり、ステータスシンボル。手首に装着する贅沢品だったのだ。
2020年、Apple Watchは5周年を迎えた。現在では、世界中の多くの人々がApple Watchを装着して、会議中に席から立ち上がることや休憩を取ること、1日の最後にもう1回エクササイズをすることを思い出させるリマインダーとして使用している。かつてファッションアクセサリーだったApple Watchは、今では健康とフィットネスに欠かせないツールとなっている。
Apple Watchが普及したからといって、ファッションに敏感な人々への魅力が失われたわけではない。市場調査会社のStrategy Analyticsによると、2019年、Apple Watchの販売台数はスイスの腕時計業界全体を大幅に上回ったという。同社は、Appleが2019年に推定3100万台を出荷した一方で、スイスのすべての腕時計ブランドの総出荷台数は2100万台だったとしている(AppleはApple Watchの年間販売台数について詳しく説明していないが、Apple Watchと「AirPods」を含むカテゴリーの2019会計年度の売上高が約245億ドルだったことを明かしている。前会計年度比で41%の増加だ)。
「Swatchなどのスイス企業は、スマートウォッチ戦争で苦戦を強いられている」(Strategy Analytics)
苦戦しているのは、スイスの腕時計業界だけではない。2015年にApple Watchが発売されたときは、テクノロジー業界の多くの大手企業やスタートアップがスマートウォッチやフィットネスバンドを作っているように思えた。サムスンやソニー、Fitbit、Pebble、Misfit、Jawbone、その他さまざまな企業がスマートウォッチを製造していた。サムスンのように、今でも販売を続けている企業もあるが、Pebbleなどのほかの一部の企業は他社に買収されたり、市場から撤退したりした。スイスの腕時計ブランド各社も、デジタルへの移行を試みている企業があるとはいえ、苦戦を強いられている。
Strategy AnalyticsのアナリストであるSteven Waltzer氏は、「スイスの腕時計ブランドがスマートウォッチ分野で一撃を加えるチャンスは、ますます小さくなっている。SwatchやTissot、TAG Heuerなどが挽回するための時間は、もうあまり残されていないのかもしれない」と語った。
Appleにとって、Apple Watchは最も成功した製品の1つになったが、その事業規模は高い人気を誇る「iPhone」には遠く及ばない。Apple Watchを活用するには、依然iPhoneが必要であり、Apple Watch自体の機能性は限られている。スタンドアロンのヘルストラッカーになるには、まだ多くの機能が不足している。それでも、Appleは2015年の時点ではほぼ不可能に思えたこと、つまり、新たなヒット製品を見つけるということを、何とかやり遂げた。
Appleが今日のスマートウォッチの売り上げに占める強大なシェアを見ると、Apple Watchがどのようにして始まったのかを忘れてしまいそうになる。同社が2014年9月に初代のApple Watchを発表したとき、成功は保証されていなかった。このデバイスが実際に発売されたのは、それから7カ月後のことで、動きの速いライバルたちはその間に対策を講じた。ユーザーが購入したところで、スマートウォッチが本当に必要な理由、あるいはその機能や使い道については、はっきりしていなかった。
Appleの最高経営責任者(CEO)のTim Cook氏にとって、Apple Watchは大きな腕試しの機会だった。Steve Jobs氏が指揮を執らなくても、Appleは魅力的で誰もが欲しがる製品を作り出せるということを、Cook氏は示さねばならなかったのだ。当時、完全な新商品として成功を収めたAppleの最後の製品は2010年の「iPad」で、この第1世代iPadは、2011年に亡くなったJobs氏によって発表された。
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