ソーシャルメディアへの投稿は、これまでも広告のターゲティングのためにデータ収集の対象となってきた。また、大規模な顔認識データベースの構築に、こうした投稿が利用されたケースもある。そして今、同様のデータが新型コロナウイルスの感染拡大に伴う隔離状態を維持するために、企業や各国政府によって利用される可能性が浮上した。
今回、イタリアと米国に拠点を持つ研究グループのGhost Dataは、外出が制限されているイタリアの人々を対象として、3月に入ってアップロードされた50万件以上のInstagramの投稿を収集した。Ghost Dataはさらに、収集した画像や動画をLogoGrabに提供した。LogoGrabは、人や場所を自動的に特定する画像認識技術を擁する企業だ。同社による分析の結果、少なくとも3万3120人の住民が隔離の指示に違反していたことが判明した。
Ghost Dataの創設者であるAndrea Stroppa氏は、イタリア政府に同グループの調査結果を提供したとことを明らかにした。今回のソーシャルメディア投稿を利用したデータスクレイピングは、プライバシーに関する懸念を引き起こすものではないというのが、Stroppa氏の見解だ。同氏はその根拠として、研究グループが分析を行う前に、プロフィールや特定の場所に関するデータを削除し、データを匿名化している点を挙げた。また、同氏は公衆衛生の側面も意識したという。
「プライバシーは非常に重要だというのが、われわれの見解だ。これは基本的な人権だ。しかし、政府や関係当局をできる限り支援することは重要だ。毎日数百人もの人が亡くなっているのだから」と、Stroppa氏は述べた。
イタリアは、これまでに報告された死者が6800人以上、感染が確認された症例が6万9000件以上を数え、新型コロナウイルス感染拡大の中心地になっている。新たな感染者の数を減らすための方策として、イタリア政府は生活に必須ではない事業を停止し、国内の移動を禁止する指示を出した。
テクノロジー企業もまたこの取り組みに参加している。たとえば、Vodafoneなどの携帯電話事業者は、位置情報のヒートマップを提供している。
平時であればプライバシーに対する懸念を引き起こすであろう政府の措置も、パンデミック(世界的大流行)状態にある現在は容認されつつある。世界各国で、プライバシーの統括責任者が、緊急事態のもとでは人命救助が最優先されるとして、データ保護基準の制限を解除している。
世界保健機関(WHO)は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡散を監視するために、テクノロジーの積極的活用を呼びかけている。シンガポール、中国などの国々の事例は、使用している携帯電話によって人の動きを追跡するなどの監視ツールが、効果的な方法であることを示している。
それでも、プライバシー保護団体は、政府がデータ保護に関する規則をどこまで曲げ続けるかについて、疑問を提起している。こうした団体は、今回のパンデミックが封じ込められた際に、このような監視戦術が果たして本当に撤廃されるのかという点に、疑問を感じている。
欧州の人権擁護団体の連合体であるEuropean Digital Rights(EDRi)は声明で、「現在のパンデミックを監視し、理解を深める上で、質の高いデータの使用は、科学者や研究者、公共機関の保健当局の重要な任務の支援につながる。だが、現在の異例の事態の中で政府や企業がとっている措置の中には、現在および将来の表現の自由やプライバシーをはじめとする人権に深刻な影響を及ぼす恐れを有するものもある」と述べた。
この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。
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