CVCファンドの成功に必要なこと--NTTドコモ・ベンチャーズが教える戦略

 朝日インタラクティブは2月18~19日の両日、年次イベント「CNET Japan Live 2020」を開催した。今回のテーマは、「企業成長に欠かせないイノベーションの起こし方」。NTTドコモ・ベンチャーズ 代表取締役社長の稲川尚之氏は2月19日、CNET Japan Live 2020において「コーポレート・ベンチャーキャピタル社長のマインドセット」と題し、講演した。

 大手企業が運営するコーポレートベンチャーキャピタル(CVC)は、投資家や企業などから広く資金を調達するVCとは異なる環境で投資を行っている。CVCならではの成功の秘訣は何か。

NTTドコモ・ベンチャーズ 代表取締役社長の稲川尚之氏
NTTドコモ・ベンチャーズ 代表取締役社長の稲川尚之氏

 稲川氏はNTTドコモに入社後、インフラ設計、資材調達や国際ビジネス、人事などを行ってきた。MBA取得のために海外留学を経験したのち、2013年ドコモ・イノベーションズの社長に就任。シリコンバレーにてベンチャー企業との連携、出資のチームを率いた。2016年7月にNTTドコモ・ベンチャーズの副社長に就任、2018年6月から現職を務めている。

 NTTドコモ・ベンチャーズは、コーポレートベンチャーファンド運営、インキュベーションセンター(/HuB)の運営、NTTグループとベンチャーの事業開発支援を行うNTTドコモの100%子会社だ。オフィスは東京とシリコンバレーに構えている。

 現在5つのCVCファンドを運営しており、2つがNTTドコモから、3つがNTTの持ち株会社からLP出資を受け、総額は700億円。また、同業者であるベンチャーキャピタルとの情報交換も行っている。「米国では日本人同士の仲が良く、競合会社同士であってもカジュアルな場でスタートアップについての情報交換をすることがあるが、日本に帰ってくるとそういった機会がなくなった。イノベーションとしての視点でいえば考えるべき点だ」(稲川氏)。

 同社は投資・事業創出エキスパート混成チームを日本と米国に置き、ベンチャー企業から事業連携の相談を受けて、NTTグループの各会社に企業紹介や事業連携支援を行っている。「われわれが投資したいと言ったらできるわけではない。ベンチャー企業が資金調達した際に、われわれが枠をいただけるという話が成立して初めて投資ができる。特に優秀なベンチャー企業やスタートアップ企業ほど、その枠に入るのが難しいという状況もある。われわれはNTTグループの各会社とベンチャー企業のゲートウェイになっている形だ」と、稲川氏は自社の事業内容を説明した。

NTTドコモ・ベンチャーズの企業体系
NTTドコモ・ベンチャーズの企業体系

国内CVCの28%が利回りマイナスの理由

 稲川氏は、多くの大手企業がシリコンバレーに拠点を持っており、シリコンバレーの情報を収集して東京に提案している現状を説明し、「提案するだけで何も起こらないことも多い。同業者と、われわれの存在意義は何かと話すこともある」とCVCの思いを語った。稲川氏は、「CVC コーポレートベンチャーキャピタル(ダイヤモンド社)」を参考に取り上げ、この中に「CVCの目的」として戦略的リターンと財務的リターンに区分けして議論しているページを紹介した。

 「この本では戦略的リターンの定義を37個挙げており、すべてを網羅している。例えば、“外部の優れたイノベーションを自社に取り込む”“出資先が持つ技術ライセンスを取得する”“シリコンバレーなど国際的な情報源とのパイプを強くする”“イノベーションは社内だけではなく社外にもあることを認知する”といったことだ。すべて当たっている。一方、財務的リターンは、”投資回収金額と投資金額との差額”。つまり投資した金がプラスで返ってくるかといったことで非常にシンプルだ」(稲川氏)。

 しかし、稲川氏はある新聞記事を取り上げて、実情は赤字経営が多く、国内CVCの52%が戦略的リターンを目的とし、28%が利回りがマイナスと回答している実情を説明。一方、海外では戦略的リターンと財務的リターンの両方を目的としていると答えた企業が66%、主に戦略的リターンと答えた企業は26%に留まっている。利回りがマイナスのファンドは5%だ。

 「シリコンバレーで黒字のベンチャーキャピタルは上位5%しかいないと言われ、ユニコーン企業を生む確率は2015年ぐらいの当時で1万4000分の1社とされている。その中で儲けられるファンドを運営するには、戦略的リターンと財務的リターンの両方が必要だとわれわれは考えている」と、稲川氏は語る。

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