パナソニックが、おにぎり専門店の運営に乗り出した。同社の新規事業創出プロジェクト「Game Changer Catapult」が2月6日に、東京・浜松町にオープンした「ONIGIRI GO」(東京都港区浜松町2丁目2-9佐藤ビル1F)がそれで、アプリによる事前注文および決済を行うとともに、ロボットでおにぎりを作り、できたてを提供。デジタルを活用することで、将来的には、1坪および1人での運営が行える省人型、狭小型のおにぎり店の実現を目指すという。
パナソニック アプライアンス社カンパニー戦略本部事業開発センターGame Changer Catapultビジネスプランナーの池野直也氏は、「日本人は、コンビニなどで日常的におにぎりを購入しており、日本全国で年間80億個ものおにぎりが消費されている。だが、おにぎり専門店は全国に約800店舗に留まる。その背景には、おにぎりの販売価格と、製造コストや人件費といった店舗運営コストが見合わないこと、おいしいおにぎりを握ることができる技術を持った人が少ないことが理由。ロボットやアプリを活用した省人型、狭小型のおにぎり店を実現できれば、世界に誇ることができる健康食のおにぎりを、もっと食べてもらえるようになる。これが成功すれば、中国の「ラッキンコーヒー」のように、日本のなかに、一気におにぎり店を増やすことができるだろう」と、この店舗の成功に期待を込める。
Game Changer Catapultでは、おにぎりを作る「OniRobot(オニロボ)」を開発。2019年9月には、東京・新橋で、期間限定の実験店舗をオープンするといった取り組みも行ってきた。
今回オープンしたONIGIRI GOでは、ハードウェアの改良を目的としたものではなく、省人型、狭小型での店舗運営の可能性やアプリの利用といった観点での検証を行っている。新橋の実験店舗での実績を踏まえて、アプリの改良やオペレーションの改善、コストの見直しなどを行い、それを反映した店舗運営としている。
なお、世界に1台しかないOniRobotは、現在、改良を加えている最中であり、今回のONIGIRI GOでは、別のロボットを使用している。
ONIGIRI GOがあるのは、東京・浜松町。JR浜松町駅や都営地下鉄大門駅からも3分ほどの位置だ。もともとはカレー屋だった約7坪の1階フロアに店舗をオープン。JR浜松町駅に通じる道路に面しているため、人通りが多い。また、Game Changer Catapultが入居しているビルも同じ浜松町にあり、ONIGIRI GOからも5分ほどの位置。社員がすぐに駆け付けられる立地だ。
ONIGIRI GOの看板が掲げられているものの、パナソニックの名前はあえて出していない。だが、店舗の運営に関わっているのはパナソニックの社員。池野氏が、ONIGIRI GOの店長を務める。取材当日も、店内では、池野氏をはじめ、3人の社員が調理や接客を行い、店舗の前では、店の紹介文を入れたティッシュを、パナソニック アプライアンス社事業開発センターで、Game Changer Catapultの事業統括を行う真鍋馨氏が配っていた。まさかパナソニックの事業統括責任者が、開店したばかりのおにぎり店の前でティッシュを配っているとは思わないだろう。
その真鍋氏は、「電機メーカーのなかでは、こんな経験はなかなかできないですからね」と、道行く人に声をかけ、その反応を見ながら、楽しそうに仕事をしていた。その一方で、「ONIGIRI GOを事業化できるようにしたい」と意気込む。
ちなみに、ONIGIRI GOの名称は、米アマゾンの無人店舗である「Amazon GO」や、JR東日本のチケットレスサービス「タッチでGo!新幹線」など、新たな店舗やサービス形態に、「GO」という名称が使われていることから命名している。
ONIGIRI GOの仕組みはこうだ。スマホを使って、専用サイトから事前注文を行い、指定した時間に店舗に出向くと、できたてのおにぎりが用意されている。テイクアウトが8割以上を占めているが、店内に用意された3席のカウンターで食べることもできる。支払いは、クレジットカードやLINE Pay、PayPayなどの利用が可能だ。最終的には、店舗オペレーションの効率化のためにも、スマホで事前注文して、キャッシュレスのみでの支払いを目指しているが、いまは、直接、店舗を訪れて、その場で注文したり、現金で支払ったりすることが可能となっている。
バックヤードには、8台のパナソニックの炊飯器が稼働。さらに予備の炊飯器を3台用意。1升炊きの炊飯器を複数台使うことで、常に炊き立てのご飯で、おにぎりが作れるようにするとともに、受け取りの時間を想定して、必要な量だけを調整しながら炊くことも可能だ。
おにぎりの具は、北海道紅鮭ほぐし、ツナマヨネーズ、鶏そぼろ、ごま昆布、おかか佃煮、博多辛子高菜、紀州南高梅を用意。それぞれの具を、小さな容器に入れて、それを冷蔵庫で使用されている卵ケースを大量に用意して保管。これも家電メーカーならではの発想といえる。
ロボットでにぎったおにぎりを、のりおよび具と合体させて、袋に入れて完成となる。価格は、具によって異なるが、160~190円。新橋の実験店舗では、1個200円以下にしてほしいという要望があったことから、コストを見直し、この価格帯を実現した。お米は「あきたこまち」を使用。今後、雑穀米を用意することも検討している。また、店舗ではカップみそ汁やペットボトルのお茶も販売している。
パナソニックの池野氏は、「ONIGIRI GOでは、待ち時間ゼロ、添加物ゼロ、廃棄ゼロを目指している」と語る。
スマホで受け取りの時間を指定することで、できたてのおにぎりを「待ち時間ゼロ」で提供し、店舗運営の効率化により、具材などにこだわることができるため、「添加物ゼロ」の食材を使用することが可能になる。そして、予約注文を前提とすることで、無駄が出にくく「廃棄ゼロ」を実現できるという。
そして、ONIGIRI GOの運営でこだわっているのは、省人型、狭小型店舗の実現だ。
現在は、オープン直後ということや、現金での決済、その場での注文への対応が含まれているため、3~4人で店舗運営をしているが、将来的には、調理スタッフ1人だけで運営できるような仕組みを確立したいという。
また、バックヤードを含めて約7坪の店舗スペースを持つが、テイクアウトに限定すれば受取カウンターの設置だけで済む。少なく見積もっても、半分以下のスペースでの運用は可能だが、目標は高く、「最終的には1坪で店舗がオープンできることを目指したい」とする。
今回のONIGIRI GOの店舗は、居ぬきで入居。受取カウンター、調理台、ロボットの設置台などを新たに用意し、全体をグレーと木目の落ち着いた色調を採用した。これをモジュール化することも検討しており、新店舗の出店時にも、このモジュールを用いることで、低コストで、迅速な出店が可能になる。
「ちょっとしたスペースがあれば、出店できるという形態を想定しており、異業種の店舗の一角を利用して、おにぎり店を運用することもできるようにしたい」という。
平日の午前7時30分~午後3時までの営業時間であり、土日祝は定休日となっている。そのため、オープンしてからの実稼働日は約10日間ほどだが、パナソニックの池野氏は、いくつかの手応えを感じているという。
「開店初日から、ほぼ毎日のように来店していただいているお客様がいるほか、近くの宅配便会社の人たちは、1日に2~3回も来てもらっている。おにぎりが手軽に食べられ、健康的な食べ物であるということが定着していることを感じる。また、実際に店舗を運営してみて、どのぐらいの来店者数があり、どれぐらいの数が売れれば採算が取れるのかといったことも算出できている。省人型、狭小型店舗の実現により、おにぎり店が成り立つという手応えもある。新規店舗の出店は、現時点では予定はしていないが、それも視野に入れたい。まずはこの店舗の成功を目指す」とする。
店舗の運営期限は現時点では決めておらず、まずは1日200人の来店を目指し、次のステップとして、都内のおにぎり人気店が実現している300人以上の来店を目指す考えだ。
一方で、ONIGIRI GOでの取り組みをフィードバックしながら、OniRobotの改良にも取り組み、これもONIGIRI GOの多店舗化を促進する要素につなげる考えだ。
いよいよオープンしたONIGIRI GOの第1号店舗が、どんな成果を生み出すのか。そして、これを事業化につなげることができるのか。OniRobotのプロジェクトは、いよいよ本番フェーズにはいってきた。これからの動きが注目される。
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