10月はじめのある曇天の日、筆者は、オハイオ州ハミルトンの迷路のような工業建築群の周りを、レンタルのジープラングラーで走り回っていた。ハミルトンは、シンシナティの北およそ50kmに位置し、人口は6万2000人を少し上回る程度。同州の他の地域と同様、農業が主要産業だ。
筆者は、80 Acres Farmsという名の農場に向かおうとしている。といっても、皆さんが思い浮かべているような、中西部の広大な小麦畑ではない。テクノロジー主体の屋内農場が、約930平方メートルの、これといって目立たない倉庫にまるまる収まっているのだ。
食品と農業は、オハイオ州の経済を支える2大産業である。農場の数はおよそ7万8000で、州別の農場数で見ると米国のどのランキングでも上位に入っている。主な農産物は大豆、トウモロコシ、小麦だ。
だが、米国の農業は困難な状況に直面している。2019年4月に発表された2017年の農業センサスによると、全国の農場数はおよそ200万で、総面積は9億エーカー(約3億6400万ヘクタール)、2017年の総生産額は3890億ドル(約43兆円)だった。この3つの数字は、いずれも5年前と比べて下がっている。農場の数も、農業用地の面積も減り、存続している農場の収入も減り続けているのだ。
こうした減少傾向には、物価の下落や気候変動、中国との貿易戦争など多くの理由がある。大規模な農場による収益の集中化が進んでいるという背景もある。米国では、2017年にわずか4%未満の農場が、農業総生産額の3分の2以上を占めていた。
80 Acres Farmsは、シンシナティおよびその近隣地域に、新鮮な地元の農産物を届けようとしているだけではなく、米国の食料体系を根本から変えようと考えている。
「われわれは、(食品)業界がかなりの危機的状況にあり、内側から立て直しが必要だと判断した。農家は苦労していて、子どもたちには農業を継いでほしくないと考えている」と、80 Acres Farmsの最高経営責任者(CEO)Mike Zelkind氏は語った。同氏が目で追う先では、「Sam」と名付けられたロボットが、ハミルトンの倉庫内にいくつも重ねられた出荷用コンテナの間で、葉物野菜の入った容器を器用に運んでいるところだった。
筆者がここを訪れたのは、80 Acres Farmsがオハイオの一角で農業をどう変えつつあるのかを見るためだ。そして、その姉妹会社であるInfinite Acresが、「世界に食料を供給する」という究極の目標を掲げて、同社の持続可能な技術をどのように他の農場に販売しているのかを知るためだった。
Zelkind氏と、80 Acres Farmsの社長でありInfinite AcresのCEOも兼任しているTisha Livingston氏が、この農場を構想したのは、2015年だった。当時、「制御環境農業」は、わりと新しい産業だった。もっと広く知られている名前で言えば、「屋内農業」あるいは「垂直農法」である。屋内農業とは、気候を制御した農業の一種で、人工照明などの技術を利用して屋内で農作物を栽培するのが一般的だ。
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