マンハッタンのバワリー地区、ニューミュージアムからすぐそばにあるホテルのロビーに足を踏み入れると、そこは、ミュージシャンBjörkの音楽が流れる小さな空間になっている。軽快なBjörkの音楽の断片が環境音楽のように再生されている。ランダムに流れ続けているようだ。筆者はそのホテルのロビーで、音に耳を傾けている。この音楽には、パターンがある。ホテルの屋上に設置され、動く雲や鳥を見つめるカメラとつながっていて、音のアレンジは人工知能(AI)が担当している。素晴らしいのは、目に見えないにもかかわらず、それがちゃんと機能して、音楽に聞こえるということだ。筆者はそこで1時間にわたって耳を傾けた。
BjörkはSister Cityホテル(Aceホテルグループが手がけるブティックホテル)のために、AIによって生成される実験的な環境音楽作品「Kórsafn」をMicrosoftと共同で制作した。Sister Cityホテルでは、2つ目となる環境音楽作品だ。アンビエントミュージックのアーティスト、Julianna Barwickが、2019年にBjörkと同様、Microsoftと共同で、このホテルの最初のAIアンビエントサウンドスケープを制作している。Björkの新しい音楽作品は2020年の終わりまで提供される予定だ。
BjörkのKórsafnは、屋上のカメラがとらえた雲や鳥のパターンを調べるアルゴリズムによって生成される合唱音楽だが、時間と共に進化し、Microsoftのデータ収集AIの実験にもなる。この作品は空からの情報を反映しているので、オーディオ機能を備えた天窓、あるいは、データ駆動型の風鈴のように感じられる。現在進行中のこのコンピュータービジョンプロジェクトでは、MicrosoftのAIが、さまざまな光環境や季節下で厚い雲やふわふわした雲、雪、雨、晴天、鳥などを認識する精度を高めるように訓練される。
筆者は今も、ラスベガスで1週間にわたって開催されたCESの喧騒から精神を回復させているところだ。デジタル版のBjörkの作品が流れるこの短い時間が、ラスベガスの砂漠でもあったらよかったのに、と思った。Atelier Ace Hotelのブランド担当バイスプレジデントであるRyan Bukstein氏によると、こうしたAI駆動型アンビエントサウンドスケープは、おなじみの楽曲を繰り返し再生するプレイリストの代わりに、ホテルなどの空間で今後採用されるモデルになる可能性があるという。
筆者はBjörkの大ファンだ。Björkのサウンドスケープに没入するというアイデアを大いに気に入っている。
Bukstein氏によると、2019年にBjörkがニューヨークのアートセンター「ザ・シェッド」で、批評家から絶賛された「Cornucopia」というコンサートを行い、Björkと共にやって来たアイスランドの合唱団が1カ月間にわたりSister Cityホテルの50の客室に宿泊したことがきっかけとなって、このプロジェクトが始まったという。「このレストランでリハーサルをした。ここに来ると、合唱団がレストランで歌っていた。彼らは1日中このホテルのどこかにいて、この空間に痕跡を残した」とBukstein氏。BjörkのプロジェクトはSister Cityホテルで録音されたわけではないが、「あのときの雰囲気がいくらか作品に取り込まれていると思いたい」と同氏は話す。
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