パナソニックがビジネスにおけるAIの活用を積極的に推進している。AIソリューションセンターを設置し、社内におけるAIの困りごとにワンストップで対応。普及、実装活動に努める。独自の「DAICC」(Data & AI for Co-Creation、ダイク)コンセプトの元、新たなツールであるAIを社内にどう浸透させ、使いこなしているのか、その戦略と展望について、AIソリューションセンター所長の九津見洋氏が話した。
「現在は『Cyber Physicalの時代』、ものづくりを中心にして成長してきたパナソニックにとって、AIを活用することが飛躍につながる」(九津見氏)とAIを位置づける。「Compute」「Algorithm」「Unique Data」「Domain Expertise」の4つをAIを活用する要素とし、パナソニックが注力するのは、Unique DataとDomain Expertise。「フィジカルカンパニーだからこそ所有できるデータと幅広い専門知識をいかし、私たちが持っているデータ、知識を活用するのが基本的な考え方」とする。
この際、Compute、Algorithmの2つは「道具」とし、「AIエンジニアは道具を使いこなす大工のような存在。AIを使いこなして困りごとを解決する。パナソニックのAIは『DAICC』である」(九津見氏)とコンセプトを話す。
道具であるAI技術は、外部から取り入れることを基本戦略に据える。2017年に米国のデータ会社であるアリモを買収したことをはじめ、同年には学習データ量に応じて自動的に最適なモデルに変化する教師無し機械学習技術を北海道大学大学院 情報科学研究科教授の有村博紀氏、喜田拓也准氏、東京大学大学院 新領域創成科学研究科講師の佐藤一誠氏と共同研究成果として発表。2018年には、AI技術を活用したスマートホームシステム「Casper AI」を開発、販売する、米国のBrainofTと連携を開始している。
九津見氏は「外から持ってきた技術とパナソニックが持つ従来の強みを掛け算して、自分の道具を作っている」とし、道具としてのAIをコストと性能を両立する「Embedded」、AI判断の根拠から対策を打つ「Explainable」、使うほどに進化する「Evolutional」の3つに分類。これらをパナソニックが掲げる「くらしアップデート業」にかけあわせ、宅内、移動体験の2つのアップデートを実施している。
宅内では、くらしの統合プラットフォームとして「HomeX」を紹介。12⽉からパナソニックのIoT住宅「カサートアーバン」100世帯以上へ実装をスタートする。「お客様が暮らしの中でどのようなことをしているのか、利用状況などからセンシングプラットフォームに貯まったデータをAI処理してサービスやアプリケーションとして提供する」と、家電や住設が、ユーザーと企業をつなぐ新たなタッチポイントになることを示した。
このほか、歩行機能をAI使って向上する「歩行支援ロボット」や人間が見ても理解できない画像を取得するセンサー+AIを使いプライバシーを守りながらセンシングする「コグニティブセンシング」、カメラ本体に搭載された画像認識機能を入れ替え、削除ができるデバイス&サービス「Vieureka(ビューレカ)」といった、宅内アップデート事例を紹介した。
移動体験でのアップデートでは、大阪・門真の本社敷地内で提供している「自動運転ライドシェア」の例を挙げ、「MaaSのパッケージとしてレベルを上げる取り組みをしている」と紹介。加えて降車すると車で自動でパーキングへ戻る「無人自動バレーパーキングシステム」や車載セキュリティなどの取り組みも話した。
宅内、移動体験の両面で実績を積み上げるAIだが、2018年で80件、2019年は11月時点で100件を超える案件のコンサルティングにあたっているという。約2年半ほどやってきて、課題も見えてきた。それが、プロセスとリソースだ。プロセスでは標準化する部分に力を入れる。導入の際、どういう手法で取り組むべきか、データはあるのかなどの情報から、暗黙知を形式化させていく方針だ。一方、リソースでは量的拡大と質的向上を目指す。「AI開発プロセスの標準化にトライする。誰でも一定のレベル開発ができるよう、気をつけるポイントを標準化する活動を推進していく」(九津見氏)と目指す方向を定める。並行して取り組むのは、AI倫理の問題。「社内にAI倫理委員会を設立し、導入にあたって配慮すべきことはなにかをアドバイスできる仕組みを導入している」(九津見氏)とこちらの取り組みも同時に進める。
リソースについては、以前掲げた2020年にAI技術者を1000人する目標に対し、その進捗を報告。「人材育成プログラムの受講者が積み上がっている。最近では『アドバンス』や『OJT』など、職場に研修生を送り込んでいるほか、ハイレベルに対応したプログラムを展開している」(九津見氏)と現状を説明。DAICC AIエキスパートとして3人の尖った人材が育っていることも紹介した。
尖った人材の一人である、パナソニック AIソリューションセンターモビリティソリューション部主任技師の阪田隆司氏は、機械学習モデルを構築するコンペティションのプラットフォームである「kaggle(カグル)」のグランドマスター。グランドマスターの称号を持っているのは世界で171名。日本人では9人目という快挙だ。
阪田氏は「kaggleのコミュニティを通して社外の人とつながれるなど、技術面のメリットは大きい。機械学習の勉強はデータが手元にないことがネックになる場合もあるが、実ビジネスに近いデータを使って機械学習を体験でき、参加者同士のディスカッションも盛んなため、勉強ができる」とkaggleについて話した。
ただし「kaggleは競技。目的は精度のいいモデルをつくること。一方ビジネスはAIが現場でどう使われるかが大事。ビジネスの現場ではkaggleで培った技術センスが生きてくると感じている」とコメントした。
現在、AI人材育成プログラムの参加は応募制が基本。九津見氏は「実業の中で活躍できるレベルに上がってきたと思っている。一方で、人数としては中堅レベル以上の規模感が足りない。1000人見込みとしていたが、当初想定していたレベルでは足りない。量、質の両面で拡充が必要」とコメント。さらなるAI人材の獲得が必要だと訴えた。
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