音楽ストリーミングの隆盛で変わるメジャーとインディーズの勢力図 - (page 2)

Joan E. Solsman (CNET News) 翻訳校正: 編集部2019年07月09日 07時30分

ストリーミングが世界最大の音楽市場に

 ストリーミングは既に、米国では間違いなくレコーディング業界最大のビジネスだ。2019年には、世界でもレコーディング音楽の最大の市場になる見込みだ。

ストリーミング音楽の人気はインディーズのアーティストとレーベルを静かに盛り立てている。
提供:Ollie Millington/Getty Images
ストリーミング音楽の人気はインディーズのアーティストとレーベルを静かに盛り立てている。
提供:Ollie Millington/Getty Images

 ストリーミングには、世界中の音楽を実質的にすべて聴けるようにし、リスナーが好きなようにパーソナライズできるという特性がある。この特性がインディーズのアーティストやレーベルに恩恵を与えていると、機械学習によるレコメンデーションサービスを手掛けるCanopyのCEO、Brian Whitman氏は語った。同氏は、ここ3年近くSpotifyのパーソナリゼーションサイエンティストを務めている。

 「ディスカバー機能に触れることで、ユーザーが聴く音楽の多様性は高まっている。すべてのリスナーがインディーズ音楽を聴きたいわけでなくても、聴く機会は増えている」(Whitman氏)

 メジャーレーベルのアーティストは、ストリーミングサービスの目に見えるランキングを今でも牛耳っているが、インディーズに後れを取っている。世界最大の音楽ストリーミングサービスであるSpotifyで最もストリーミングされたアーティストは、Ed Sheeran、J. Balvin、Billie Eilish、Justin Bieber、Khalidと、すべてメジャーレーベル所属だ。Spotifyで最も登録者が多いプレイリストも、メジャーレーベルのスターの楽曲をまとめた「Today's Top Hits」だ。

 だが、6月初旬にRolling Stoneが発表した調査結果によると、世界のビッグアーティストのストリーミング件数は過去3年間で大きく落ち込んだという。2018年の米国での音楽ストリーミングの成長の98%以上が、トップ500圏外の楽曲によるものだった。

 その理由の1つは、インディーズではアーティストを育成する伝統があることだろう。また、バックカタログ(リリース済みの楽曲リスト)の価値を最大限に生かすために必要な、戦闘的な性質も関係がありそうだ。

 「メジャーレーベルは原則的に、シングル曲のヒットを重視し、アルバム全体をじっくり育てようとはしない」と語るのは、パンクやRiot Grrrlなどのジャンルを手掛け、Elliott SmithやBikini Killで知られるレーベルKill Rock StarsのCEO、Portia Sabin氏だ。「われわれはバックカタログの価値を理解している。カタログこそが主要な収入源だと理解しているので、定期的にカタログの内容に注意を払っている」

Kill Rock Star所属のRiot Grrrlムーブメント開拓バンド、Bikini Killの再結成ツアーで歌うKathleen Hanna。
提供:Ollie Millington/Getty Images
Kill Rock Star所属のRiot Grrrlムーブメント開拓バンド、Bikini Killの再結成ツアーで歌うKathleen Hanna。
提供:Ollie Millington/Getty Images

 数年前、あるいは数十年前にリリースされた楽曲を含む楽曲カタログのストリーミングへの関心も、音楽業界全体を引き上げる要因になっている。Nielsenが6月に発表した音楽関連の中期報告書によると、エルトン・ジョンの半生を描いた映画「ロケットマン」が2018年にヒットした際、映画公開の1週間後に、このアーティストの楽曲のストリーミングが84%増加したという。

 Kovac氏のインディーズレーベルEleven Sevenは今年に入り、ベテランバンドMotley Crueで、さらに大規模な楽曲カタログの大ヒットを経験した。Nielsenによると、Netflixがこのバンドの伝記映画「ザ・ダート:モトリー・クルー自伝」を配信した週に、楽曲カタログのストリーミングは683%増加したという。

ストリーミングはインディーズに収益をもたらす

 そして、インディーズアーティストがストリーミング時代により多く聴かれるようになるということは、より多くの金が支払われることを意味する。

 レコードの出現以来、音楽ファンは特定の楽曲を選び、対価を支払ってその楽曲を購入してきた。その方法は、レコードでもCDでも、iTunesでのデジタル音楽のダウンロードでも変わらなかった。だが、ストリーミング時代では、ユーザーは実質的に世界中のすべての音楽を集めた膨大な楽曲カタログに自由にアクセスする権利を購入し、金はアーティストや音楽レーベルに別の方法で分配される。

 SpotifyやApple Musicのようなストリーミングサービスは、毎月集まるサブスクリプション料金をすべてまとめ、アーティストには、そのアーティストの楽曲がストリーミングされた回数に比例した額を支払う。つまり、インディーズアーティストはリスナーに自分の楽曲を買わせるために、リスナーの関心を獲得するというハードルを越える必要がないということだ。

Netflixの「ザ・ダート:モトリー・クルー自伝」効果で、同バンドの楽曲ストリーミング量は683%急増し、オンデマンドストリーミングは3040万回に上った。
提供:Jake Giles Netter/Netflix
Netflixの「ザ・ダート:モトリー・クルー自伝」効果で、同バンドの楽曲ストリーミング量は683%急増し、オンデマンドストリーミングは3040万回に上った。
提供:Jake Giles Netter/Netflix

 「ストリーミングは、ゆっくりとだが確実に、より多くのアーティストが生計を立てられる商業的エコシステムを形成しつつある。そして、それに伴い、最大級の収入を得ている世界規模の大スターは、年収の一部をシェアせざるを得なくなっている」(Rolling Stoneの調査報告より)

 だが、だからといってインディーズアーティストの生活が楽になるわけではない。ストリーミング時代には、中堅どころのアーティストは、ファンが新しいコンテンツの定期的な提供を期待する中で、レコーディングやストリーミング、物理媒体による販売、ツアーなどからの収入を調整するために懸命に働かなければならないと、Kill Rock StarsのSabin氏は語った。

 「昔々アーティストは、CDかレコードが売れれば、ツアーもできる幸せな中堅アーティストになれたものだ」とSabin氏は言う。だが、現代の中堅アーティストの生活は、「能力を最大限使うことでぎりぎりの状態で業界にぶらさがり、なんとか生きているような状態」という。

 とはいえ、それがつらい闘いだとしても、インディーズアーティストには、かつてないほどのブレイクをする可能性がある。

 Symphonic DistributionのBrea氏は「インディーズレーベルであり続けるのはこれまで、非常に困難だった。だが今、インディーズは成長し続けており、新しいインディーズ音楽産業になろうとしている」と語った。

この記事は海外CBS Interactive発の記事を朝日インタラクティブが日本向けに編集したものです。

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