ゲームや映像などのエンタメ領域や、遠隔での不動産内覧といったビジネス領域など、活用の幅が広がってきている「VR(仮想現実)」。このVRがシニア世代向けにも活躍している。
元介護職員で、現在は東京大学 先端科学技術研究センター 稲見・檜山研究室の登嶋健太氏は、2014年から高齢者向けにVR旅行体験会を開催している。介護職員だった経験から、リハビリテーションに意味を見出せない要介護者のモチベーションを、VRによって高められるのではと考えたことがきっかけだという。介護施設を利用する高齢者の外出願望を叶えるために、このVR旅行体験サービスをはじめたそうだ。
直近では、2018年4月から2019年2月までに21回の体験会を介護施設で開催したほか、2015年と2017年には米国にある日系介護施設でも体験会を開催。さらに、アクティブシニア向けのVR映像制作のワークショップを、2017年秋から現在までに37回ほど開催しているという。
体験会では、高齢者がVRヘッドセット「Oculus Go」を使って、日本三景「安芸の宮島(厳島)」をはじめ、東京の桜やイチョウ並木などのVR映像を体験。初めて使うOculus Goに戸惑っていた高齢者も、一度VR空間に入ると周りを見渡し、懐かしい景色を楽しんでいたという。中には立ち上がってよく見ようとする人もいたのだとか。
数あるVRヘッドセットの中から、Oculus Goを選んだ理由は3つあるという。1つ目は、非常に安価であること。2つ目は、スピーカーが搭載されているためイヤホンを装着しなくてもいいこと。そして3つ目は、起動が素早いためVR空間に簡単にダイブできること。現状は高齢者には座位でVR映像を視聴してもらっているため、頭を回転させる3DoFで十分と考えているという。
VR旅行体験会を実際に開催した、ふれあいライフ原で副施設長を務める青森浩之氏は、「自分がいる地元の映像を映して、“今はこういうふうに変わっているよ”と見てみるのも認知症のリハビリになる。VRが持つ可能性の広がりを感じている」と期待する。
登嶋氏は「(高齢者の中には)旅行に行きたいと目標を描いても、体力との乖離に落ち込み、リハビリに意味を見出せない人も多い。そうした方々に、VRを通じて行きたい場所の具体的なイメージを持っていただくことで心の支えとなるのではと考え、このプロジェクトを開始した。VRはそこにいながら、別の空間に飛ぶことができる。高齢者にとって夢を叶える福祉機器になっていくのではないか」と思いを語った。
同氏は現在、東京大学の先端科学技術研究センターで、VR旅行体験が高齢者の心と身体、認知機能にどのような影響を与えるかを研究をしている。今後もこの研究を続けながら、高齢者が楽しみながら脳や身体を活性化できるVRプログラムを作りたいとしている。
また、インターネット活用の啓蒙活動をしているアクティブシニア組織と連携して、VR映像制作のワークショップを主催しているが、この組織とともに、全国各地の介護施設をマッチングする仕組み作りを始めているという。「VRをつくる楽しみ」「VRをみる楽しみ」をつなぎ、双方がコミュニケーションできるVR空間を作ることで、シニア(広い年齢範囲)にとって生活に彩りになるようなサービスを目指すとしている。
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