2030年に向けて、教育者はどのように歩んでいけばいいのか。そんなテーマで語られたセッションが「Class of 2030-How do we get there」だ。同セッションでは、MicrosoftのAsia Pacific 部門のAidan McCarthy氏(Principal, K12 Digital Transformation & Strategy)が登壇した。
Aidan McCarthy氏は、学校や教育者がデジタルトランスフォーメーションを実現するためには、ビジョンだけでなく、戦略や新たな制度が必要で、学習環境や組織を再編成する手段も重要だと語った。具体例として同氏は、組織をどのように再編すれば良いのか、教授法などで知られる「5E」モデルなどを用いてアプローチを紹介し、テクノロジーやカリキュラムだけを変えるのではなく、スクールマネジメントやリーダーシップについての議論をしなければ大きな前進にはつながらないと訴えた。
また同氏の講演では、ケーススタディとしてマレーシアの教育政策を取り上げ、同国の教育省で教育改革を進めるディレクターも登壇。マレーシアが21世紀の学びを進めるためにChange Agentと呼ばれる変革に取り組む人材を配置したり、高次の思考スキルを養う学校を認定したりするなど、独自の取り組みを紹介した。
ほかにも、教育分野での注目が集まるAIに関して、パネルディスカッションも実施された。有識者によると、東南アジアではシンガポールを筆頭にAIへの投資が非常に高まっており、マレーシア、タイなどでも同様の動きが加速しつつあるという。
一方で、AIやIoT、ビッグデータなどの高スキルを持つ人材は、もっぱら不足しているのが現状だ。なかでも問題なのは、教育関係者の多くが既存の教育システムは学生の人材育成に有効だと考えている一方で、学生の方は社会に出てからスキルとリソースの不足に課題を抱えているということだ。教育関係者らの認識と学生が直面する現実社会に乖離があり、これをどう埋めていくかが課題なのだ。
有識者のひとりは、産業界との連携を強化してカリキュラムを柔軟に変更することが重要だと述べた。一例として、マレーシアではMicrosoftのデータサイエンスプログラムなど、企業が提供するカリキュラムを取り入れたり、企業の専門家が学校で教えるケースを増やしている。また有識者たちは、高度なスキルを要する人材育成に関しては、ブラックボックスの中の仕組みを教えることが重要だと訴えた。教育分野におけるAIの活用については、学校のスマートキャンパス化の話題があがった。学習者の多様なデータを駆使しながら、AIは学習者がめざす未来にむけてエンカレッジする役割になることが重要だと語られた。
BETT Asia 2019では、21世紀の学びを実現するために必要な教育ソリューションも数多く展示された。STEM教育向けの教材や、生徒のコラボレーションを促すツール、教室のIT環境など、学びの選択肢を広げるソリューションを参加者たちは体験できた。いくつかを紹介しよう。
Microsoftのブースでは、STEM教育分野で人気のある教材「Minecraft: Education Edition」を体験できた。同教材は現在、115カ国3500万人以上の教員や生徒に利用されており、専用のコミュニティには世界中の教育者らが実践したレッスンが500以上も集まっているという。同教材はSTEM教育だけに限らず、歴史やアート、言語学習にも用いられることが多く、子どもたちが楽しんで学べる環境を提供している。また、Microsoftのブースでは、教員や働き方を変える分析ツール「Microsoft MyAnalytics」や、学習者が技術を楽しく学べるオンライン学習「Microsoft Learn」、さらに本格的なテクノロジーが学べる「Microsoft Professional Program」などのコンテンツも展示された。
Microsoft Office365をベースにした学習プラットフォーム「LP+365」を展示したのは、英国企業のLearning Possibilitiesだ。同プラットフォームは学習者主体の個別学習を実現し、さらには他の生徒とつながって学習できるコラボレーション機能も搭載。宿題の提出や試験も実施できるようにした。現在はK12や大学を中心に20カ国100万人以上の利用者がいるという。
シンガポールの企業Apar Technologies は、SMAC(Social, Mobile, Analysis, Cloud)の技術を基盤とした学習プラットフォーム「eLite SIS」を展示した。同プラットフォームは、大学での学びが多様化している背景を受けて、学生が受講したオンラインコースやキャンパスの異なる複数の講座などを一元管理できるもの。学習履歴をトータルで把握できることで、一生学びやキャリアアップにつなげることができる。
Actiontecはワイヤレスディスプレイ「ScreenBeam」を活用した模擬授業の場を提供。教育者はテクノロジーの専門家ではなく、教室のネット環境に不具合が出た場合も、どう対応して良いのか分からない。そんなストレスから解放できるツールとして、担当者は製品をアピールした。
IDEA Digital Educationは、アニメーションで学べるSTEM分野の学習教材「IDEA」を展示。同教材は、学習者の習熟度に合わせた学習が可能なほか、データの集計も可能。教育者向けにはICTスキルを高めるためのプログラムが用意されているほか、教員の利用率も把握できるようになっている。デジタルトランスフォーメーションがどれだけ進んでいるのかを客観的に把握できるのではないかと担当者は話した。
以上、BETT Asia 2019の模様をお伝えした。全体を通して言えることは、「教育×テクノロジー」のサミットであってもテクノロジーの話がメインではなく、課題の先にあるものが“人”であるということ。教育トランスフォーメーションの実現は、人が変わらずしてあり得ないということだろう。
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