NTTグループとスタートアップが生み出したシナジー--電子お薬手帳、スマートビデオ、次世代セキュリティ - (page 3)

インターネットに生まれた“ほころび”を次世代セキュリティ技術で解決

 続いて、ドコモ・ベンチャーズが出資するセキュリティベンチャーのMIRACL(ミラクル/英国)と、NTT、NTTソフトウェアの3社によるデータ暗号化・認証技術における協業事例が紹介された。

 MIRACLは、デバイス、個人を認証するための情報を暗号鍵(クライアントキー)の中に埋め込み、それを3つに分割して、異なるサーバ(分散型暗号鍵発行局:D-TA)で管理するという方法で、英国政府などにも導入されているという。ひとつのサーバでユーザー認証をする従来の方法では、その認証サーバを攻撃された場合にはセキュリティリスクが一気に高まる。これを分散させることで、サイバー攻撃などに対するリスクを軽減することができるという。たとえば、ユーザーの情報に不正アクセスしようとした場合には、3つの鍵を開けなければ情報を盗み取ることができない。加えて、MIRACLを使った環境ではトークンを使ってユーザー認証できるため、ユーザーの端末やクライアントサーバにIDやパスワードを保管する必要がない点も特長だ。


現在のインターネットセキュリティの問題点

従来のネットセキュリティとMIRACLの技術の違い

 MIRACL代表のBrian Spector氏は、「いまIoTデバイスが世界で爆発的に増えているが、新しいタイプのデバイスが増えた場合には情報セキュリティのアーキテクチャも変わっていかなければならない。ひとつのパスワード、ひとつの証明書で認証するセキュリティは35年前に誕生したが、これでは今の時代のICTには対応できない。今後もインターネットが拡大すれば、多くの情報セキュリティの問題が生まれるだろう。旧態依然としたセキュリティ技術では、信頼性の高い状態でセ キュリティの役割を果たせなくなる」と語り、IoTによって多様化と肥大化が加速するインターネットにおいては、新たなセキュリティ技術が必要である点を強調した。

MIRACL 代表のBrian Spector氏
MIRACL 代表のBrian Spector氏

 では、MIRACLはNTTグループとどのように協業しているのか。この点について、NTTサービスイノベーション研究所で、次世代の暗号技術を研究している早川和宏氏は「MIRACLの技術は私たちが研究している次世代暗号化技術ととても高い関連性があった。特に、(分散型鍵発行局による)認証技術については、NTTグループのビジネスにとっても非常にインパクトがあり、今後の研究に生かしたいと考えた。MIRACLの技術の上にNTTが蓄積してきた技術や知識を投入し、より多機能で使いやすい製品を共同開発していきたい」とコメント。両社は「MILAGRO」というオープンソースプロジェクトを立ち上げ、グローバルに開かれた技術へと進化させていくのだという。

 また協業の意義について早川氏は、「協業の形にはさまざまなものがあるが、スタートアップとの協業で最も重要なのはスピード。新しい技術を広めて市場を形成していくためにはスタートアップのスピード感は大きな力になる。また新しいアイデアや考え方によって(研究開発に)多様性が生まれる点も重視している」と語った。「Brian Spector氏の説明の通り、長年使われてきたインターネットの技術にほころびが見えている状況で、そこに新しい選択肢を提供することが、今後のIoTやプライバシー保護といった課題に対処していく上で非常に重要だ」(早川氏)。

NTTサービスイノベーション研究所の主幹研究員である早川和宏氏
NTTサービスイノベーション研究所の主幹研究員である早川和宏氏

 一方、最新技術を製品化、サービス化し販売しているNTTソフトウェアの中野健司氏は、MIRACLとの協業について「NTTソフトウェアはもともと認証連携のプロダクトを持ち顧客に提供してきたが、これにMIRACLの技術を組み込むことでより強固なセキュリティ環境を提供できるものと考えた」と説明。 NTTグループ各社や金融系企業などにサービスの提供を進めているという。「インターネットの拡がりが進む中、2020年に向けて鍵配信と認証連携の仕組みを普及させるべく、プロダクトとビジネスを拡大していきたい」(中野氏)。

NTTソフトウェア ビジネスソリューション部ディレクターの中野健司氏
NTTソフトウェア ビジネスソリューション部ディレクターの中野健司氏

“大きい企業が小さい企業に勝つ”という時代は終わった

 イベントではそのほか、カナダでドローンによるセンシングとビッグデータ解析を活用した農業分野での活用事例を紹介したPrecisionHawkや、イスラエルのテクノロジ産業の状況を解説したCarmel Venturesが登壇。また、NTTドコモ・ベンチャーズからは、3月にドコモ・イノベーションビレッジでの新設が発表された「Villageソーシャル・ア ントレプレナー」コースなどが紹介された。

NTTドコモ代表取締役副社長の吉澤和弘氏
NTTドコモ代表取締役副社長の吉澤和弘氏

 NTTドコモ代表取締役副社長の吉澤和弘氏は、「NTTグループはこれからも社会の課題解決や人々の豊かさに繋がる製品やサービスを次々と生み出していきたい が、自分たちだけでスピード感を持って尖ったアイデアを形にしていくことはなかなか難しい。世の中にある多くのスタートップ企業のアセットと協業すること で製品やサービスを生み出していくことが非常に重要だ。今は大きい企業だから小さい企業に勝てるという時代ではなく、競争の中では(事業スピードの)速い 企業が遅い企業に勝つという時代。今後もNTTドコモ・ベンチャーズを中核に、NTTグループの事業部とスタートアップ企業による協創を推進していきたい」と語った。

CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)

-PR-企画特集

このサイトでは、利用状況の把握や広告配信などのために、Cookieなどを使用してアクセスデータを取得・利用しています。 これ以降ページを遷移した場合、Cookieなどの設定や使用に同意したことになります。
Cookieなどの設定や使用の詳細、オプトアウトについては詳細をご覧ください。
[ 閉じる ]