顧客の心に火をつけるデータ活用

効率的に失敗することがマーケティングの要諦 - (page 3)

ビッグデータは数字だけではない

 「データ」にはさまざまなものがあります。多くの方は、昨今話題のビッグデータに想起される形で、サイトのアクセスデータや店舗のPOSデータのようにITツールを駆使して大量に取得するデジタルデータを思い浮かべるでしょう。

 一方、今までも数多く存在していたにも関わらず見えなかったものがあります。それらはインターネットによってその影響力がはっきりと可視化され、注目され始めました。リアルな場で起こっている現象(消費者行動)がデータ化されたとも言えるその代表例が「クチコミデータ」です。クチコミを通じて、ブランド支持者の存在や彼らの発言内容が分かるようになったことで、マーケターは進化の手立てを講じられるようになりました。

 企業発のオウンドメディアとして注目株の「サイボウズ式」では、記事のPV以上にコメント内容(つまりクチコミデータ)をつぶさに見ているそうです。マーケティングの最前線ではこのようにクチコミデータが活用されています。ビッグデータは数字だけではありません。


 また、皆さんがPCやスマートフォンでこの記事を読んでいるまさに今も、「ログデータ」として閲読時間やシェア数、コメント数が取得されています。そのシェア数やPV数などに応じて、たとえばライターや編集者は今後の記事内容を検討し、EC管理者は商品の並び替えやメールマガジンの内容を精査します。ログデータは、どこから来て、どういうページを眺め、どのページで関心を失ったかを記録した、言わば生活者の意思を反映します。

 Googleアナリティクスのアカウントをつくるのは簡単ですが、継続的にチェックし改善を図り続けるのは案外難しいもの。ほったらかしにすることなく定期的に検証することは、顧客に対して日々アンケートを実施していることと同義です。顧客を知る洞察力を高めることにも通じます。

 さらなるデータとして注目されているのは、センシング技術をつかった「リアル行動データ」です。GPSやiBeaconに代表されるように、人の行動をデータ化できるようになったことで、商業施設の集客力を評価したり、O2Oプロモーションを実施したりと、ウェブよりも市場が断然大きいリアルのマーケティングの現場で新たな動きがあります。

 また、都市レベルまで俯瞰すると、ネットワークにつながったモノが得る「IoTデータ」の潜在力を認めることができます。たとえば、自転車やパーキングメータ、バス停などのモビリティから収集するIoTデータは、観光や交通渋滞などの影響を可視化し、公共交通サービスの改善や観光資源の活用など、都市のマーケティングをデータドリブンにします。

 今回の連載では、デジタルに精通しているCNET Japan読者の皆さんに、これら多様なデータと向き合う企業や自治体の取り組みを紹介していきます。また、既述の「好奇心」に焦点を当てるべく、デジタルとはなるべく縁遠い業界や企業にも着目し、経験と勘が中心の世界にデータを持ち込んだ彼らの創意工夫から、顧客の心に火をつけるデータ活用の可能性と課題を浮き彫りにしたいと思います。

 次回、取材第1弾は「クチコミデータ」がテーマです。「クチコミは最良のセールスマン」と20世紀のビジネスマンは公言しましたが、それは21世紀にどこまで通用するのか。リアルな場から発せられるクチコミデータに着目して地道なマーケティング活動を行なっている仕掛人への取材や、それを対象にした研究を題材にクチコミの有用性、活用のポイントやフレームワークを論証し、お伝えします。

廣部 嘉祥

クチコミマーケティング協議会(WOMJ)メソッド委員会所属 個人会員
コンテキスト・エディター

2007年よりデジタルエージェンシーへ入社後、ファッション、ホテル、ITサービス、製薬等各種グローバル企業のデジタルマーケティングから PRプランニングまでを担当。2012年よりメソッド委員会に所属し、2015年夏より現職。

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