Chef Stepsのオンラインクラスやワークショップでは、Modernist Cuisineに掲載されているような創造的な料理を家庭でも容易に実践できる。利用者は「オンラインクラス」「レシピ」の中から自分の知りたいものを選ぶだけ。あとは美しいビジュアルの動画か、文字と写真で構成されたガイドラインで、料理のノウハウやレシピを学べる。
こうしたクラスはほかでも多く見られるが、Chef Stepsと一般的なクラスとの違いは、科学的なアプローチを用いていることにある。料理は加熱の温度、時間、食材の下ごしらえの仕方など、料理を美味しくする細かなルールはなかなか説明できず、経験や勘によるところが大きい。同サイトではそれを、調理条件や化学反応の関係を明らかにし、科学的に解釈、説明することで、より明確で伝わりやすくしている。
同サイトでは、ただ料理のレシピやクラスを配信するだけでなく、Facebookでもレシピや知識を日々配信しており、フード/レストラン界の雑誌などのものも紹介するなど工夫をしている。
ディスカッションページやフォーラムでは、初心者から経験豊富な料理人までが、レシピに関する質問や交流ができる。シェフの卵たちが自分のつくった料理を紹介したり、感想やレビューを寄せ合ったりと、カジュアルな交流の場となっているようだ。
こうしたコミュニティづくりによりFacebookでは35万件もの「いいね!」を獲得、サイトの利用者数は45万人と、アマチュアの料理好きからプロのシェフまで、幅広い層の人々を数多く引きつけている。
ヤング氏は、幅広い人々に創造的な料理を広めるため、自分たちのクラスやレシピをできるだけお金のかからないものにしたいと考えていたという。実際にChef Stepsの多くのレシピやオンラインクラスは無料で、有料のものでも6~10ドル程度に収まるレベルだ。
当初は有料のものすらなかったようで、お金をかけずにレシピやクラス、フォーラムなどを利用できることから、利用者の中には「どうやってお金を作っているの?」と収益化のレシピを質問するユーザーもいた。その時点でヤング氏は「価値あるものを提供できるまではお金を取るべきではないと強く思っていた。多分このサービスはもうからない」と答えている。
しかし、サービスを続けるためには何らかの形で収益化する方法を見つけていく必要があった。レシピやクラスを有料・高額化し、利用のハードルをあげるのはヤング氏の本意ではない。またこれらのコンテンツを高価なサービスにすると、利用者の反感を買い、離脱されてしまう恐れもあった。
そこで同サイトが採った方法は、レシピやクラスと並行する形で、スタッフの愛用する料理用の器具やツール、役立つ料理本などを販売することだった。温度測定器やキッチンスケールなどのツールは「科学的なアプローチ」の料理とは親和性が高いし、レシピや料理の知識を求めている人には料理本は格好の商品だ。
ヤング氏は無料か格安のレシピやクラスで利用者を引きつけ、集まった人たちに必要な調理器具や本を販売するこのスタイルを「不愉快でない収益化戦略」と呼んでいるが、これは一般的にはメディアコマースと呼ばれているEC戦略だ。
ChefStepsのメディアコマースは特徴的だ。従来のメディアによるメディアコマースは「オンラインストア」が1つのコーナーのような扱いになっているのに対して、ChefStepsではそもそもオンラインストアのリンクがない。
上記の写真のように記事を読み進めていくと「Buy Now」というボタンが出てくるスタイルだ。“記事の文脈上で販売する”ことに徹底したこの方法は「これぞまさにメディアコマース」と呼べるものではないだろうか。
現在、同サイトの年間売り上げの推定値は130万ドル(約1億5700万円)。事業として成立できるレベルまで収益化が進んでいる。今後も読者が増えるに連れ、売り上げは成長していきそうだ。
尼口 友厚
ネットコンシェルジェ
CEO
明治大学経営学部卒。米国留学からの帰国後、デザイナー/エンジニアとしての活動を経て、2002年に国内有数のウェブコンサ ルティング会社「キノトロープ」に入社。 2003年、同社関連会社としてネットコンシェルジェを設立。eコマースとブランディングを専門領域とし、100億規模の巨大ECサイトからスタートアッ プまで150を超えるクライアントを抱える。
2015年にベンチャーキャピタル2社より資金を調達し、キュレーションコマースプラットフォーム「#Cart」を開始。趣味はブラックミュージック鑑賞。著書に「なぜあなたのECサイトは価格で勝負するのか?」(日経BP)。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
パナソニックのV2H蓄電システムで創る
エコなのに快適な未来の住宅環境
企業や自治体、教育機関で再び注目を集める
身近なメタバース活用を実現する
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
OMO戦略や小売DXの実現へ
顧客満足度を高めるデータ活用5つの打ち手