スタンフォード大学の櫛田氏も同様に、スタンフォードとシリコンバレーとの密接な関係を指摘する。例えば、ある問題を解決できれば半導体の分野で飛躍できる、あるアルゴリズムを作り出すことができればヒトゲノム分析で進歩できる、といった課題を産業の中から見つけ、その産業の最先端となる理論を生み出すような土壌となっている点だ。
そのため「大学としてのレベルが上がり、(優秀な)人が集まる。産業の方にも技術が適用され、ビジネスのシーズになったりする」というように、産学連携の中でテクノロジーや人材の循環が発生する流れが上手に回っていると語る。スタートアップが成功する理由についても、ハーピンダー氏は「優れたエンジニアがいて、良い大学があって、資本がしっかり供給されている。失敗もOKだという環境がある」ことが重要であると述べる。
これらスタンフォードやシリコンバレーの中で起こっているエコシステムは、必ずしも日本から見て海の向こうの遠い場所の話ではなく、「親近感がもてる近いところにある」と櫛田氏。日本企業がそのエコシステムの中にどんどん参加することもできるとしたうえで、そもそもシリコンバレーの発生は日本の影響が大きいのだと、意外な事実を口にした。
同氏によれば、「オイルショックの後、それに追い打ちかけるように日本の製造業がパワーアップし、米国の大企業をめった打ちにした。米国企業の以前のシステムは、終身雇用、年功序列、垂直統合、社内R&Dなど、現在の日本の企業に似ていたが、日本に製造業で負けたのでアジャストした」のだとか。「デザインに特化してハイバリューに向かい、製造はアウトソースして、対日本の戦略を多くの大企業が選んだ。そこからオープンイノベーションが生まれた」という。
こうした事実を踏まえると、シリコンバレーのエコシステムを作り上げたのは戦後日本の急激な経済成長のおかげということもでき、「今度は日本が上手にシリコンバレーを活用するべき」ではないかと説く。アン氏も、日本は成功できるだろうかというモデレーターの松田氏の問いに、「東京にはすばらしい教育制度がある。(上京した)学生も東京にとどまることが多い。そのような生態系がシリコンバレーの成功要因の1つだったことを考えれば、すでに東京にはその素地がある」とエールを送る。
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