これはバンドに限らず、他のジャンルでもそうなのですが、あまり良い別れ方をしなかったグループの場合、その後誰かが利用にOKを出さず、作品がお蔵入りになるケースが出てきます。メンバーにとってもファンにとっても辛い事態ですね。実際、これは共有だけではなく二次的著作物でもよくある話で、むしろJASRACのような団体のない音楽以外のジャンルの方が多い話かもしれません。
たとえば、70年代の超人気漫画でアニメ化もされた「キャンディ・キャンディ」という作品がありましたが(図)、原作者と漫画家が不和になり、裁判で最高裁までもつれた挙句、お蔵入りになってしまいました。いわゆる「封印作品」です。残念ながらもう書店の本棚に並ぶことはなく、アニメなどの放映もほぼ考えられない幻の作品です。
次に、著作権は譲渡することができます。つまり、著作者は誰にでも著作権を譲渡することができるのです。譲渡は契約書などを交わしておこなうのが望ましいでしょうが、理論上は口頭でも、あるいは暗黙の了解でもできます。譲渡すると、以後は相手が著作権を持って、複製や公衆送信の許可は相手がおこなうことになります。
こうした著作権を保有する人のことを「著作権者」といいます。著作者とは一字違いで紛らわしいですが、どちらも法律用語です。つまり最初は「著作者=著作権者」だったものが、譲渡によって「著作者≠著作権者」になるのですね。この場合、著作者といえども、もう自分の作品を自由に使えなくなるのが原則です。
何かの賞やキャンペーンに作品を応募することがありますね。その時には「応募要項」に気をつけましょう。作品の著作権を、応募者は主催者に譲渡することになっているケースが意外と多いのです。また、そうでなくても、主催者だけが以後、作品を独占的に使えるよ、といった条件になっていることもあります。もちろん、この条件自体は良いことでも悪いことでもありません。ただ、少なくとも条件は承知のうえで応募したいものです。
最近ですと、ユニクロでオリジナルTシャツをデザインできるサービス「UTMe!」の利用規約が、同社にデザインの著作権を譲り渡す条件になっていて、炎上してしまったことがありました。こういった、ユーザーが著作権譲渡とは夢にも思わないようなケースで規約にそう書いてあると、人々が怒って騒ぎになりがちです。譲渡まではないにせよ、ネットの利用規約では、著作権を含めてかなりユーザーに不利な条件が書いてあることが少なくないので、自分の大事な作品や個人データをアップする場合には、一応、規約の条件も確認したいところです。
会社などの従業員が仕事に関連して何か作品を創作した場合、もちろん、その著作権を会社に譲渡することはよくあります(著作者:社員、著作権者:会社)。さらにそれを超えて、「職務著作(法人著作)」というケースもあります。これは、従業員が業務の一環として創作をおこない、その作品を会社などの名義で発表する場合に、著作権の譲渡以前にそもそも会社が著作者になる、という著作権法のルールです(著作者:会社、著作権者:会社)。詳しい説明はしませんが、そういうものもあるということは知っておいて下さい。
さて、解散や不和にしても、会社との関係にしても、あまり事前に心配しすぎると無駄に関係がギクシャクしかねません。それでも、本当に大事な作品ならば、自分たちの間で著作権の扱いはどうするのか、一度整理しておくのは良いことですね。
レビューテスト(5):二次的著作物を利用するときには誰と誰の許可が必要か。答えは本文中に!
1991年 東京大学法学部卒。1993年 弁護士登録。米国コロンビア大学法学修士課程修了(セゾン文化財団スカラシップ)など経て、現在、骨董通り法律事務所 代表パートナー。
著書に「著作権とは何か」「著作権の世紀」(共に集英社新書)、「エンタテインメントと著作権」全4巻(編者、CRIC)、「契約の教科書」(文春新書)、「『ネットの自由』vs. 著作権」(光文社新書)ほか。
専門は著作権法・芸術文化法。クライアントには各ジャンルのクリエイター、出版社、プロダクション、音楽レーベル、劇団など多数。
国会図書館審議会・文化庁ほか委員、「本の未来基金」ほか理事、think C世話人、東京芸術大学兼任講師などを務める。Twitter: @fukuikensaku
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