試行錯誤を繰り返し変化させる“消費者への訴求”--転換する流通(3) - (page 2)

別井貴志 (編集部)2013年08月02日 15時28分

--ただ、テレビCMは効果測定がなかなか難しいと思うのですが……。

  • キリンの経営企画部 新市場創造室 主査である浅野高弘氏

    クレジット

浅野(キリン):難しいですね。そして、キリンだけじゃなく一般的にそうだと思いますが、テレビCMの効果は以前に比べると薄れてきていると思います。もちろん、オンラインでのキーワード広告なども展開していますし、もっともっとデジタルやオンラインを活用すべきという気運もありますがが、現状では主軸は変わっていませんね。

 冒頭に申し上げましたが、やはり私は一方的な製品周りの訴求ということではなく、お客さんによって違うと思いますがお客さんと共有できるもの、そういう話題についてのコミュニケーションが重要だと考えています。ですから、先ほどから話が出ているように、メーカーの顔の見えるコミュニケーションだったり、直接お客さんとやり取りができたり、あるいはお客さんにそういう場を提供するなどのコミュニケーションスタイルに変えていかないといけないと思っています。

中西(CCC):現状でリーチ数が一番多いのは、やはりテレビCMですからね。CCCの場合はターゲットに合わせて媒体を変えています。基本的には全媒体を扱っていますので、テレビCMや新聞、チラシ、ダイレクトメール、Eメール、ウェブの媒体をはじめ、あとはアプリやSNS、LINEなども含めてすべてやっています。

 例えば昨年、シニア層への販促で「シニアの方は毎日DVD1本無料です」というキャンペーンをやったときは、ウェブではあまり告知をせずに、テレビCMと新聞を活用しました。直近では、初めてTカードにキャラクターを使った試みとして、「初音ミク×Tカード」というものを出しました。この時はターゲットを完全に10代に絞っていたのでテレビCMは一切やりませんでした。また、ウェブでの広告も行わなかったんです。

 10代のターゲットは、おそらくSNSの利用が多いだろうというのと、商業色を嫌うだろうと思ったので、あえて広告は打たず、Twitterの公式アカウントで一度つぶやいただけでしたが、そのツイートが6000リツイートぐらいされて、その人たち1人あたりの友達が300人ぐらいだったということなので、おそらく200万人ぐらいに広がりました。

 この1つのつぶやきがテレビCMに値し、かつ初音ミクが好きであろうターゲットにだけ知れ渡ったといえます。余計なコストをかけずに効率的に認知を広げられたともいえるでしょう。いつも、訴求したいことと、ターゲットがリーチするのはどれなのかということを考えながら取り組んでいます。

--そうした訴求ストーリーはどうやって作られるのでしょう。

中西(CCC):そこはアドビさんの取り組みと同様に、当然模索しながらです。ただ、感覚で結構わかるところはあって、さすがに「LINEでシニア販促」といっても響かないのはわかるでしょう。ごく当たり前に、消費者の立場に立ったときに、この情報に触れたら「うれしいか、うれしくないか」というようなところから始めてみます。

--そうした感覚というのは、試行錯誤した結果の成功や失敗の蓄積から身につくような気がしますが、プロモーションごとに反省会などするのでしょうか。

中西(CCC):「効果がなかった」といったときは、やりますね。結構な媒体への出稿額がかかる割には、ターゲットにリーチしなかったという時は、クリエイティブが悪かったのか、施策が悪かったのか、時期が悪かったのか、を念入りに分析し直します。

 それから、1度のメールで3つぐらいの試験的なキャンペーンを送ったこともありました。たくさん伝えたいというのは企業側のエゴだと思うのですが、結局は3つともあまり響きませんでした。1つに絞ったほうがクリックスルーレートは高かったのではないかという面もあって、こうしたことをきちんと情報コントロールしていかないと、我々は伝えているつもりでも、伝わっていないだろうなという時が悩ましいですね。

井上(アドビ):分析やテストをするというのは、社内の文化だったり、そういったものが根付いていたりするのでしょうか?

 アドビの場合は、「すべてはデータに基づいて。とりあえずやれば何かがわかる。分からないことや仮説があればテストしよう」と明確です。まさに、そうしたテストツールもソリューションとして提供しているのもあって、「何かをして、何かがわかればOK。それを改善していけばOK」という外資系的な文化が特にはっきりしています。企業にも失敗をプラスと捉える企業があったり、失敗は失敗だという企業があったりしますが、試すとか、失敗してもいいとか、そういった文化や組織が御社ではどういう状況なのか教えていただけませんか。

中西(CCC):規模にもよりますね。いま「POSクーポン」と言って、レシートがクーポンになっているものがありますが、あれは本当にトライ・アンド・エラーでした。いろいろな形で試して、そのヒット率を見ながら一番効果が高いのは何だろというのを導きだしました。なので、一回の失敗は決して無駄とは思っていなくて、その効果が悪かったという事実がわかればいい。うちの社は、そこをはなから止めるようなことは、文化としてはしていないと思いますね。

--「失敗がわかればいい」という点が許容されて実際に効果が出るといのはいいですね。企業によっては、挑戦さえもさせてもらえないかもしれませんが。

浅野(キリン):やはりデジタルでテストをする良さは、すぐに結果がわかることでしょう。ただ、それは実際に商品やサービスを提供しないとわからないですよね。仮想的に、例えば「こういう商品はどうですか」とグループインタビューをやったとしても、実際とはまったく違うんです。そこで成功確率を上げても、駄目なときは駄目ですが、最終的に売れるかどうかはまったくわからないですよね。小さくてもアクションを起こしてやってみることが望まれているし、そのノウハウがすごく望まれているんじゃないかなとは思えます。

【次回】
デジタルを活用して目標達成する組織のあり方--転換する流通(4)

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