ほんとうにアマチュア? 面白すぎる小説編
もちろん、KDPには、良質な小説も増えている。KDPによるデビュー作『Gene+Mapper』が「Kindleストア ベスト・オブ・2012」のベストワンに輝き、その完全改稿版を、大手出版社である早川書房から出版した藤井太洋の例を挙げるまでもなく、生きのいい書き手が続々とデビューしている。
「ポスト・藤井太洋」の中でも、いま筆者が個人的に一番プッシュしたいのが、『お前たちの中に鬼がいる』の梅原涼。本文にも内容紹介にも自己紹介がなく、著者サイトも見つからず、作者の正体はベールに包まれているが、もしかしたらプロ作家の覆面作品かもしれない。それほどに完成度が高い。
主人公の須永は、目を覚ますと見知らぬ建物の地下室にいることに気づく。部屋の中央に置かれた机には「お前たちの中に鬼がいる」というメッセージが。他の部屋には、それぞれに5人の女が監禁されていたが、どの女も、どこか怪しい。地上には、おびただしい数の死体が……。その世界はある「条件」によって「リセット」が起こり、どの「囚人」も元の部屋に戻されてしまう。ただしランダムに選ばれた一人だけが自由な身で、その他の「囚人」は鎖につながれた状態で目を覚ますことになる。いったい誰がどういうわけで、こんな世界を作ったのか、そして脱出のためのカギは何なのか? メッセージの意味は? 須永たちは脱出方法を探し続けるが……。
いわゆる絶海の孤島や雪の山荘といった「クローズドサークルもの」や、同じ状況、シーンを繰り返す「ループもの」に分類できるサスペンス。冒頭のシーンと意外なラストとの整合性が、今ひとつ取れていないように思えるが、それ以外は、文体、ストーリー共に文句なしである。