イベントを支える舞台裏と今後のTED--TED 2013レポート最終日5日目

 TED Conference 2013、5日目の最終日となる3月1日は朝8時半からセッションが2つ行われた。そして、午後は「フェアウェル・ピクニック」として屋外での立食パーティーが開催され、すべてのプログラムが終了した。4日目からロングビーチの気温は鰻登りで、最終日には30度近くまで気温が上がり、半袖でも厚いくらいだった。

 来年2014年からは会場をカナダのバンクーバーに移すことになるが、ロングビーチで行われた今回のTEDはこれまででも最大規模の3000人以上が参加していたそうだ。過去最大規模のTEDがどのように開催されていたのか、ということにフォーカスして最終日のレポートをお伝えしていこう。

 最終日となる5日目は、「Session 11:Who Are We?」と「Session 12:A Ripple Effect」の2つのセッションが開催された。我われ人類とは何か。そしてアイデアを広め続ける活動を行っている人たちが紹介された。

 Session 11では、人びとのモラル低下によってもたらされる文明や社会の衰退に対する思考や、心理学や歴史などから多角的に人びとが深く信じている「魂」についての理解などが語られた。またSession 12の最後のセッションでは、Eric Whitacre氏が、TEDの会場に集まったコーラスと、Skypeで世界中から参加する人びとの歌声が1つになり、会場の中に溢れ、TED 2013のフィナーレにふさわしい演奏だった。

  • ジャーナリスト、Joshua Prager氏。19歳の時に事故に遭い、麻痺から復帰を果たし、その事故の原因を探りにエルサレムへ戻ったストーリーを披露した。

    (提供:TED)

  • 作曲家・指揮者のEric Whitacre氏。会場とSkypeでつないだ世界中の参加者による歌声は、感動のフィナーレにぴったりだった。

TEDと食:バラエティに富んでユニークなコーヒーサービス

 TEDの会場の中では、朝食、昼食、軽食と、常時ケータリングが用意されており、毎日趣向を凝らした料理がサーブされている。農産物が豊かなカリフォルニア州らしい、フレッシュな野菜などの素材を使った料理は、毎日少しずつ試したくなってしまう楽しさがある。

  • 日替わりでフードトラックがコミュニティスペースにやってきて、ネットワーキングに花を添える。写真は和食にインスパイアされホットドックだが、できあがりは焼きそばパン。

  • ソーシャルスペース各所に用意されているコーヒーバーでは、日本のHARIO製のコーヒー器具が使われていた。

 またお昼時になると、ホテルでランチをかねたワークショップが開催されたり、カリフォルニア名物のフードトラック5台以上が日替わりで集結してランチタイムのコミュニケーションに華を添える。例えば、日本の雑誌などでも味やユニークさで紹介されている「IN-OUT BURGAR」のフードトラックも訪れ、毎日長蛇の列を作る人気ぶりだった。

 会場内のロビーや会場内の様子が中継されるソーシャルスペースには、コカ・コーラの冷蔵ケースが用意されて自由に飲み物を飲むことができるほか、コーヒーバーも各所に用意されて、おいしいエスプレッソやドリップコーヒーを提供していた。

 コーヒーバーは「Specualty Coffee Association」(SCA)によって集められたボランティアのバリスタが常駐しており、米国中の有名なロースター(焙煎所)の豆を3時間ごとに変えながら淹れているそうだ。世界中から集まってくるゲストに、米国の新しいコーヒーの文化を伝えようと、コーヒーを注ぐ際には必ず「グアテマラの豆をサンフランシスコのBlue Bottleが焙煎しました」と豆の解説をしてくれていたのが印象的だった。

 コーヒーバーではエスプレッソやラテのほかに、ハンドドリップのコーヒーも提供していたが、ここで使われていた機材はすべて日本の「HARIO V60」というコーヒー器具で統一されていた。真っ白な有田焼のドリッパーに、来場者も興味津々だった。

TEDの舞台裏 - 大規模なプロダクションが同時並行

 TED Conferenceのセッションは5台以上のカメラで撮影され、その場でミックスされている。この映像は会場内で中継されているほか、TED Activeが行われる米国パームスプリングの会場や、世界各国のTEDxイベントの運営チームに対して生中継されている。そのため、Twitterでは、世界中のTEDの活動に参加している人びとからコメントが集まってくる。

  • Media Caveと名付けられたTED Conferenceのメディアプロダクション機能を司る部屋を見学させて頂いた。

  • ここに並んでいるiMacは、複数台のビデオカメラで収録されたセッションの映像をコピーするためだけのマシン。

  • 映像編集には、Apple製外付けディスプレイをiMacに接続して行っていた。

 また、生中継のチームとは別に、TEDは会期中、メディアチームとビデオや写真のプロダクションのチームが常駐しており、なるべくリアルタイムにTEDのイベントの様子をオンラインで紹介する体制を整えている点は非常に興味深い。

 スピーチ中の写真は1~2時間後にFlickrにアップロードされ、その写真を含めたブログ記事が更新されていく。また重要なスピーチを中心に、スピーチ終了後すぐにビデオ編集が始まり、翌日にはTED.comのウェブサイト上でトークを視聴できるようにしている。

 Madia Caveと名付けられたプロダクションチームの部屋には、27インチのiMacが50台近く並んでおり、写真やビデオの取り込み、編集、ウェブサイトの更新といったチームが仕事をしている。

 部屋の一番奥には、iMacとThunderVoltで接続された18Tバイトのハードディスクが10台ずつ並んでおり、これはカメラで撮影された映像をコピーするだけのマシンなのだそうだ。そしてこの18Tバイトのハードディスクを1台の編集マシンのところへ持って行ってつなぎ、即日編集を施す。

 このようにして、いち早くTEDの映像を世界に届けようという「アウトリーチ」の取り組みは、同じ規模ではできないとしても、様々なビジネスなどで運営される各種イベントで参考にすべきではないだろうか。

TEDの変化とこれから

 TED Conferenceは来年2014年で30周年を迎える。ちょうど会場をカナダ・バンクーバーに移すが、TEDがこれからどのように変化していくのか、注目が集まっているところだ。

 会場で10年来参加しているというマーケティング・コンサルタントの方にお話を伺ったが、TEDのコミュニティが変化し始めたのは2つのきっかけがあったという。2006年にTED.comでスピーチのビデオを公開し始めて、世の中での認知が急激に高まったこと。そして2009年にTEDスタイルのイベント「TEDx」がスタートし、世界中で5600を越えるイベントが行われ、TEDそのものに参加する人が増え、コミュニティの多様性が高まったことを挙げていた。

 日本からも過去のTEDスピーカーや、毎年参加している方にもお話を伺うことができた。ソフィアバンクCEOの海部美紀氏は、「今年ほど社会問題に切り込んで、多くの時間を割いて議論をしたことはなかったのではないか」と2013年のイベントを振り返る。

 例年、テクノロジ、エンターテインメント、デザインの名前の通り、もっとテクノロジよりだったり、その背後の思想に迫るテーマが多かったそうだが、各国の開発や経済、政治、医療にテクノロジなどのテーマが関連するスピーチも多く、1つの転機として注目してみると良さそうだ。

 また、「教育」というキーワードも非常に多く聞かれ印象的だった。イベントのプログラムにも「TED University」と呼ばれるセッションが2回用意されていた他、「TED Prize 2013」に選ばれたのも教育をテーマとした活動だった。TEDのコンテンツが学校などで利用される事例は増え続けているが、TEDそのものが教育に対しての注目や支援をより深めていくことも考えられるだろう。

 日本でも今年、数多くの「TEDx」イベントが開催され、こうした人びとと知識のハブに身近に参加することもできるだろう。あるいは、みなさんのアイデアが、TEDx、そしてTED Conference本体に紹介される日が来るかもしれない。そのためにも、たくさんの人とつながるだけでなく、影響を与えあい、自分でよく考え、行動することが大切だ。

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