【第4回】伝播する動画コンテンツ、バイラルCM、バイラルコミュニケーション - (page 2)

藤崎実(アジャイルメディア・ネットワーク)2012年08月10日 10時49分

バイラルCM誕生期

 さて、バイラルCMの歴史と変遷を、簡単に振り返ってみよう。バイラルCMの歴史は以外と古く、YouTubeが誕生する以前の2001年頃から欧米、特にヨーロッパで制作が始まった。この誕生期は、テレビCMとしては歓迎されないような過激な内容のものが多く、その衝撃度で話題を集めるものが多かった。つまり噂が噂を呼び、怖いもの見たさでバイラルしていくという構造だ。

 この時期、この分野に真っ先に着目したのは主にゲーム会社だった。インターネットという新しいメディアと、ゲームというエンターテインメント商品との相性、さらには表現の自由度から、挑戦心溢れるゲーム会社により、数多くの意欲的なバイラルCMが制作された。従って内容的には今までタブーだった表現に一歩踏み込んでいるのが特徴で、残酷だったり、ブラックだったり、エロチックだったり、皮肉めいていたり、ユーモアも大胆だったり……。

 この時期の代表的なバイラルCMとしては、イギリスの大手ゲーム会社Eidos(アイドス)による「Hitman2」(2002)などがあげられるが、全体的にアングラ感溢れる、いわゆるB級映画のノリが多いことが大きな特徴で、新しい映像文化がこうしたカタチで始まったことは、大変興味深い。

大手企業の参入

 バイラルCMの伝播性が大きな波及力をもち、話題になることが実証され始めると、次第に大手企業、特にグローバル企業が参入を始める。

 もちろんこのステージにくると、内容、メッセージともに誰が見ても楽しめる、一言でいえば健全なものになっていく。その代表的な事例がマツダのCM 「Smooth Parking」 (2003)だ。これはマツダ車の楽しさを身近なものとして伝えることに成功したのと同時に、マツダ車全体のプロモーション活動の一環として機能し、ほかのクルマの販売促進にも貢献した。

 このCMの反響により、バイラルCMが単なる瞬間風速的な話題をもたらすだけでなく、長期にわたって生活者とのエンゲージメントに役立つことが実証された。また身近で日常的なシーンを描いたこのCMの成功により、バイラルCMは必ずしも過激な映像である必要はないということも実証された。これらが他の企業の参考となり、バイラルCMはさらにメジャーな存在になっていく。

 ちなみに、こうしたグローバル企業の参入が進む一方、ある種の過激さをウリにしたマイナー型のバイラルCMは、なくなったわけではなく、その方向は脈々と続いていく……(まあ何でもA面とB面があるということだ)。

  • カンヌ国際広告祭のウェブサイト

2002年、カンヌ国際広告祭サイバー部門グランプリ、BMW filmsの衝撃

 カンヌ国際広告祭にサイバー部門が新設されたのは1998年。それまでもインターネットを舞台にした、楽しく、素敵なクリエイティブが制作されていたが、一気に重量級のクリエイティブが登場した。

 BMWは2001年4月から「The Hire」と題する5本のショートフイルムを公開。これは4マス媒体を使わず、インターネットに予算の2500万ドルを全て注ぎ込んだ超大作で、公開もBMWのスペシャルサイトのみ。こうした大胆なメディアプランも話題となり、大成功を収めた。

 なお、制作の背景としては、BMWの購入層の85%がインターネットで調査をしてから購入を決定するという結果が大きな理由になったということだ。考えてみれば公開当時、ブロードバンド接続を持っていること自体が、BMWのターゲットである高所得者層であり、まさにそこに向けたコミュニケーション戦略であったわけだ。

 結果的に、この映像を見た層の40%が年収7万5000ドル以上、33%がターゲット年齢である35~49歳、また半分以上がブロードバンド接続を持っているという、ターゲット含有率の非常に高い効果的なキャンペーンとなった。

 監督も超大作にふさわしく映画好きなら納得の人選。巨匠ジョン・フランケンハイマ―や、アン・リー、ウォン・カーウァイ、ガイ・リッチーなどの映画監督がひとり1本のムービーを手がけた。特にジョン・フランケンハイマ―監督は、この作品が遺作となり、映画史においても歴史に残る作品となった。主演は第2シリーズを含め全8作を通してクライヴ・オーウェン。

 なおこの大成功を受け、BMW Filmsは第2シリーズを制作。2002年の秋に3本のCMを公開した。

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