しかし、こうした「店舗内店舗」コンセプトであっても、Apple製品は他社製品と競い合うことになる。なぜなら、それは、数歩歩けば他社製品を見に行ける環境だからだ。このような考えから、Appleは代替戦略を詳しく検討していた。
1999年、Appleは元ソニー幹部のAllen Moyer氏を雇い入れた。同氏は、サンフランシスコ繁華街にある複合施設Metreonなどでソニーの小売開発プロジェクトにかかわっていた。ソニーは、この複合施設でSony Styleストアをオープンしており、そこでは、消費者が来店して同社製ガジェットを手に取って見ることができた。人口が密集し、観光客の多いサンフランシスコの中心にあったことから、このストアは多くの来客を獲得する可能性を持っていた。そして、もっと重要なのは、それ自体が消費者を引きつけるものとなる可能があったということだ。
まさにこの考えが現在のApple直営店のDNAである。ショッピングモールにある長方形ブロックを積み上げたような店舗デザインから、巨大なガラスを地面から伸びるように用いた設計まで、多様な店を構えており、ニューヨークや上海などの都市で、買い物客をAppleの世界に誘い込むように手招きしている。
Appleの小売戦略に関する成功の大部分は、同社小売担当シニアバイスプレジデントのRon Johnson氏の功績である。同氏はTargetを退職後、2000年にAppleへ入社、Jobs氏の直属となった。Johnson氏は店舗戦略のほか、店舗に用いる材料から各店舗のレイアウトに至るまで、細部に至る管理の多くの面で高い評価を得ている。これには、売られている製品を来店客に欲しいと思わせる店舗設計も含まれている。
Appleの現在の象徴的な「キューブ型」店舗をニューヨークにオープンする際、Johnson氏は、SoHoに直営店をオープンする計画の初期段階で同社が直面した最大の課題の1つに、そのような巨大な小売スペースをどうするべきかということがあったと述べている。
「最初の店舗をオープンするに際して、約2万平方フィート(約1858平方メートル)の敷地を確保した。だが、当時の製品ラインは、会議室のテーブル1つで収まるほどしかなかった」とJohnson氏は述べ、「それにもかかわらず、小売業にとって世界最大の都市であるニューヨークに出店し、2万平方フィートの小売スペースを埋めようとしているんだ」と語った。
SoHoの直営店はAppleにとって大きな収入源となり、不況下にあっても9けた台の年間売上を得ていると言われている。SoHoの店舗をオープンしてからわずか数週間で、同社はこの戦略を拡大し続けるべきだと認識した、とJohnson氏は述べた。
モダンな作りのApple直営店の店内デザインは、地域によってさまざまである。一部の店舗には、トレーニングセッションや製品プロモーション、特別イベント用に演壇の付いたムービーシアターが設置されている。またほかの店舗には、子どもがゲームで遊んだり、教育用ソフトウェアを利用したりできる特別のスペースが設けられている。しかし、最も象徴的な設備はGenius Barだ。ユーザーはGenius Barにやってきて、所有するApple製ハードウェアやソフトウェアの問題を同社認定の修理専門家に直してもらうことができる。このように同社の製品エコシステムをすでに支持している人々をサポートすることで、実現しなかったサイバーカフェ構想でAppleが当初意図していたものから顧客との関係を一歩前進させている。
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