ベンダーとユーザーのトラブル防ぐ「システム取引のプロ」を育成するプログラムが7月から - (page 2)

 3つめの例は、元請業者の見込みをもとに、下請業者が見積もりを作成したものの、結果として、当初予定の工数を大幅に上回り大幅な赤字になったことで、超えた工数分の委託代金支払いを求めて、元請業者に約1億4000万円を請求したというもの。

 これに関しては、下請業者の請求を棄却。その理由は、下請業者はシステム開発業者としての専門知識を有しており、システム完成までの委託代金を正しく見積もれたはずであるという理由だった。

 そして4つめは、健保組合のシステムが納入期限までに完成しなかったことから、ユーザーは債務不履行として契約を解除。支払い済みの委託料2億5200万円の返還を求めているというもの。

 ここでは、ベンダーの義務としてプロジェクトマネジメント義務が生じるとし、システム変更の要求などユーザーによって作業が阻害される行為がないように働きかけること、そして、ユーザーが機能の追加要求をした場合には、委託料や納入期限などに関しても適宜説明をして、要求の撤回や追加の委託料の負担を求める義務があるとした。一方で、ユーザー側にも、どのような機能を要望するのかを明確にし、ベンダーが求めた際にはユーザーは適時適切な意思決定をしなくてはならないとし、今回の事例では、それが行われなかった点を協力義務違反とした。判決では、システムが完成しなかったことはどちらの責任とはいえず、債務不履行は認めなかったが、民法によるユーザーの契約解除と1億1340万円の返還が認容されることになった。

 板東氏は、「これらの判例からも、ユーザーにはシステムを構築するための協力義務、ベンダーには専門家としての多くの義務がある。一方でバグについては、存在を前提として司法判断がされるが、これを速やかに修補する義務がある。また、準委託契約を主張しても、完成義務のある請負契約とみなされ、契約解除、損害賠償請求が認証される場合もあり、どのように契約に至ったかという点も重要になる」と指摘する。

 「システム取引契約は、世の中で最も難しい契約ともいわれる。完成システムの詳細が契約締結時にはわからないにも関わらず、納期と金額を確約してしまうこと、契約類型の不適合や不明瞭な契約類型が多いこと、詳細を決めていないために完成基準、役割分担、知的財産権、変更管理などでトラブルが発生してしまうことなどがその背景にある。適切な形態の契約、これらの問題に対応できる契約手順を行うことが、トラブルを回避することにつながる」(板東氏)

 公開されているモデル契約では、ユーザーとベンダーの役割と論点が整理されており、何について交渉すべきか、なにを書けばいいのかが示されている。また、多段階契約や変更規定や再見積もりなどの事例、そのまま使える付属ドキュメントなどを利用することで特有の問題を回避できる手順も含まれているという。

 「だが、情報システムの信頼性向上とトラブル防止のためには、これを活用するスキルが必要である。情報システムの取引者育成プログラムは、制度説明会、研修講座、修了テストの3段階で構成されており、経済産業省作成のEラーニングコンテンツを活用して学習し、その習熟度を修了テストで判定し、合格者には修了証を発行する仕組みになっている。業界を取り巻く課題と留意すべき行動指針、法的な責任、契約手順といった内容が盛り込まれている」(板東氏)

 7月から実施される同プログラムの参加費用は、JCSSAおよびCSAJ会員企業は1万8000円、会員外は3万6000円となっており、修了者の認定期間は3年間。更新後には5年期限となる。

 モデル契約および情報システム取引者育成プログラムは、ベンダーとユーザーとの間で発生するトラブルを回避するために、業界をあげて取り組むべき施策のひとつではないだろうか。

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