冒頭、領域の曖昧化という現象も指摘した。越境、あるいは融合、といった言い方もある。ただ、この領域の曖昧化という言葉には、ごく自然に何かが何かを浸食していくといった受身ものではなく、むしろ何らかの目的を達成するために既存の境界を積極的に無意味化するという意図が込められている。
前世紀に産業化が進んだことで、「業種」という区分が成立した。しかし、それと直交する形で「機能」という概念もあるものの、業種を超えてまで機能が大きくクローズアップされることは少なかった。たとえば、同じマーケティングという機能であっても、ブランド・グッズとサービスでは、人材の交流もほぼない。業界の壁は大きかったのだ。
しかし、「デザイン」というコトバが、この領域の曖昧化という現象と強い相関をもっており、この壁を乗り越えるきっかけを作りつつある。すなわち、デザインという何らかの目的を達成するために必要な資源を柔軟に組み合わせる発想が、結果的に業界固有の壁を壊し、境界線を無意味化していくことになっているからだ。
このとき、慣れ親しんでいる「デザイン」という言葉とは若干ニュアンスが異なるという印象を持つ方もいるかもしれない。たとえば、深澤直人氏、マーク・ニューソン氏、吉岡徳仁氏といった有名デザイナーをフューチャーしたauのDesign Projectにおける「デザイン」とは、ケータイ端末の形態を決定することだと理解している人は多い。だが、Design Projectのサイトに書かれたテキストを読み込むとわかるように、auのコンセプターとデザイナーたちは「カタチ」を決めているだけではなく、ユーザーの「経験」を作ろうとしていることがわかる。
最近では、モノとしての形を決めていくだけではなく、最終的な製品のでき上がりや売れ具合、あるいはその購入後のパフォーマンスまでを含んだ「デザイン」に注目が移っている。(たとえば、Business Weekのデザインアワードなど)
そして、そんなデザインを実現するためには、たった1人のスーパーマンに依存するよりも、むしろ複数のプロフェッショナルのチームワーク――時として出身業界にかかわらないクロス・ファンクション・チームを構成するほうが効率的であり、成功効率も高いことがわかってきている。その時、必要なものは「目標」であり、それを達成できる人材と、そして情熱だろう。
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